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たかが就業規則、されど就業規則
問題のある事例紹介

就業規則の作成と届出のルール

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、第89条各号に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出で泣けなければならない。当該事項を変更した場合も、同様とする。

就業規則の必要的記載事項

①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合においては終業時転換に関する事項

②賃金(臨時の賃金等を除く。以下②において同じ。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項

③退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

就業規則の相対的明示事項

④退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項

⑤臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金に関する事項

⑥労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項

⑦安全及び衛生に関する事項

⑧職業訓練に関する事項

⑨災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

⑩表彰及び制裁の種類並びに程度に関する事項

⑪上記①から⑩のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項

就業規則に記載してはいけない事項と労務トラブルの例

①解雇予告除外認定→事例4解雇予告除外認定を受けないでした解雇

就業規則に記載しなくてはいけない事項と労務トラブルの例

①懲戒規定→事例5 通勤手当の不正請求

②解雇規定→事例6 外国人労働者の不法就労

③服務心得→事例7 身だしなみの規制

④服務心得→事例8 社内での宗教勧誘に関する問題

⑤服務心得→事例9 態度の悪い社員への対応に関する問題

⑥服務心得→事例10 無断でアルバイトをしている社員に関する問題

⑦解雇規定→事例13 無断欠勤と退職に関する問題

⑧懲戒規定→事例15 配置転換(配転)拒否に関する問題

⑨退職手続→事例21   退職届の提出期限に関する問題

⑩退職手続→事例22  退職前の有給休暇申請に関する問題

⑪服務心得→事例23 競業禁止義務と退職金に関する問題

⑫懲戒規定→事例24 懲戒処分決定前の自宅待機に関する問題

⑬賃金規定→事例25 研修の直後に退職した社員に関する問題

⑭退職手続→事例27 離職理由の変更を要求してくる社員への対応

⑮解雇規定→事例28 休職中の労働者と整理解雇に関する問題

⑯賃金規定→事例30 賞与支払いに関する問題

⑰採用規定→事例34 同業他社から転職してきた社員に関する問題

⑱服務規律→事例35 企業秘密に関する義務づけに関する問題

⑲服務規律→事例36 重要データ持出しと解雇に関する問題

⑳服務規律→事例37 ブログやSNSで社内事情を漏らす社員の問題

21 健康診断の受診規定→事例41 メンタルヘルスと受診命令に関する問題

22 服務規程→事例43 セクハラ社員に関する問題

23 服務規程→事例44 マタハラに関する問題

 服務規程→事例45 飲酒運転事故を起こした社員に関する問題

25 時間外労働規定→事例46 残業拒否する社員に関する問題

26 服務規程→事例47 協調性に欠ける社員に関する問題

27 服務規程→事例48 社内恋愛で業務に支障をきたす社員の問題

28 健康診断の受診規定→事例49 定期健康診断の受信拒否に関する問題

29 懲戒規定事例→50 会社の備品を持ち出す社員に関する問題

第1章 採用に関するトラブル
事例4 解雇予告除外認定を受けないでした解雇①

事案の概要

プレス工場Xで働く労働者Yがプレス機械の操作を担当していたが、あまりの能力不足のため、プレス機械を誤操作により、機械故障を頻発させていました。このままYを現在の業務に就けたままだと、Yのみならず他の社員にも誤操作による事故の危険が及ぶ可能性があるため、他の社員達からYの配置転換を求められたため、Yを検品等を行う他部署へ安全配慮義務に基づき配置転換することを決めました。この配置命令に対し、Yは現在の部署で働き続けたいと、配転をかたくなに拒否しています。仕方がないので、配転命令を拒否したYを即時解雇しました。Yは「解雇予告除外認定を受けずにして行った解雇は不当であり、解雇予告手当の詩は江合を求める」と連絡をいれてきました。即時解雇とせず、解雇予告除外認定を受けた方がよかったのでしょうか。

ANSWER

労働基準法20条 (解雇の予告)

20条  使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。②  前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。③  前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

民法415条、541条、709条

(債務不履行による損害賠償)

415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(履行遅滞等による解除権)

541条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

(不法行為による損害賠償)第709条            故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

判例 旭運輸事件  大阪地判平20.8.28

   グラバス事件 東京地判平16.12.17

 

解説

解雇予告除外認定と即時解雇

1労働者を解雇予告除外認定をうけることなしに即時解雇

2解雇予告除外認定の法的性質

3解雇予告除外認定についての注意点

この解雇予告除外認定については、大事な注意点があります。それは、就業規則に、解雇予告除外認定についての規定を設けてしまう危険性に関することです。

使用者が解雇をするに際して、解雇予告除外認定を受けることを就業規則のなかに定めた場合、個別の労働契約よりも就業規則が優先される結果、解雇予告除外認定を受けることが民事上強制されることになってしまうのです。今回のケースの場合に、仮にX社就業規則にそのような内容が記載されていれば、除外認定を欠く、本件解雇は許されないものになってしまうのです。よって、就業規則に解雇予告除外認定についての規定を設けることは、避けるべきでしょう。

第1章     採用に関するトラブル
事例5 通勤手当の不正請求①

事案の概要

X社の労働者Yは、会社に通勤経路を電車通勤として申告し、定期券購入のための非課税通勤手当として、毎月、約2万円を3年間にわたり受け取っていました。しかし、実際にはYは自転車で毎日X社まで通勤しており、毎月の通勤手当を着服していたことが判明いたしました。Yは「健康のため、自転車で通勤しているだけで、別に良いではないか」と悪びれる様子もありません。X社はYに対していかなる処分ができるでしょうか。

ANSWER

刑法246条

詐欺 第246条

人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財物上不法の利得を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

民法703条

(不当利得の返還義務)第703

 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

判例 光輪モータース事件:

   東京地判平18.2.7

   アール企画事件:

   東京地判平15.3.28 

解説

1通勤手当の不正請求に関する問題

①刑事責任

②懲戒処分

光輪モータース事件→解雇無効

アール企画事件→解雇有効

2不当利得返還請求権

Yが通勤手当を不正に受給していたということは、X社からすれば、Yがもらう理由のないお金を払い続けていたことになります。このようお金のことを民法では「不当利得」といい、返還請求をすることができます(民法703条)。この不当利得返還請求権を行使することで、X社はYから通勤手当を取り戻すことが可能になります。不当利得返還請求権の時効は10年なので、今回のケースの場合は、3年間にわたって支払った通勤手当のすべての返還を請求することが可能になります。 

第1章    採用に関するトラブル
事例6 外国人労働者の不法就労に関する問題

事案の概要

当社(X社)で1か月前に採用した外国人労働者Yが、不法就労であったことがわかりました。当社としては、どのように対応すればよいのでしょうか。

ANSWER

入管法73条の2

次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

1事業活動に関し、外国人に不就労活動をさせた者

2外国人に不就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者

3業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者

解説

外国人の不就労

1労働可能な在留資格とは

(1)就労活動に制限のない在留資格

(2)在留資格に定められた範囲で就労が認められる資格

(3)就労が認められない在留資格

2不法就労をさせた場合、事業主も責任を負う

3在留資格の確認の仕方

4すでに採用している外国人が不法就労であった場合

5就労中の扱いは、日本人と同様にしなければならない

第2章    勤怠・就業に関するトラブル
事例7 身だしなみの規制に関する問題

事案の概要

当社の営業部の社員に茶髪にピアス姿の者がいます。顧客に悪い印象を与える可能性があり、茶髪やピアスをやめるように何度か注意しているのですが、身だしなみを改める様子はありません。場合によっては、解雇も考えたいのですが、どのような処分が可能でしょうか。 

ANSWER

憲法21条 (表現の自由)

21条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

解説

1身だしなみの規制

①身だしなみの規制と表現の自由

②業種によって身だしなみの規制には違いがある

③行き過ぎた制裁は認められないことがある

身だしなみが整っていないことを理由にした解雇は、基本的に解雇権の濫用として行き過ぎた処分となるでしょう。とはいえ、ある程度の規制や制裁は可能ですので、就業規則に服について規定しておくことが望ましいです。これに対して、暗黙のルールに違反したことを理由として処分するとトラブルのもとになります。就業規則をもとに、注意。指導を行い、それでも服装を改めないようならば、戒告等、段階的な制裁を課していくのです。

 2.関連判例

株式会社東谷山家事件

(福岡地小倉支決平9.12.25)

①事案

髪の毛の色を染め直すことを拒否したトラック運転手の諭旨解雇が有効か、無効か争われた事案です。

②判旨

本件解雇は、解雇事由が存在せず、無効というべきである。また、仮に、労働者の始末書の提出拒否行為が懲戒事由に該当する点があったとしても、本件の具体的な事情のもとでは、解雇に処するのが著しく不合理であり、社会通念相当として是認することができない。いずれにしろ、本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効というべきである。

3関連判例

イースタン・エアポートモータース事件(東京地判 昭55.12.15)

ハイヤー運転手が髭をたくわえることは労働契約上あるいは作業慣行上許されず適法な労務の提供とはいえないことを理由に使用者がなした下車勤務命令につき、個人の容姿の自由は、個人の尊厳および思想表現の自由の内容であり、右命令には正当な理由がないとして、髭を剃ってハイヤーに乗務する労働契約上の義務がないことの確認を求めた事案です。

裁判所は、「乗務員勤務要領」により指示された車両の手入れ、身だしなみを履践することはもちろん髭を剃るべきこともまた当然である」として、乗務員勤務要領を業務命令として捉え、運転手が髭を剃って乗務すべき義務を認めました。

第2章     勤怠・就業に関するトラブル
事例8   社内での宗教勧誘に関する問題

事案の概要

私は、アルバイトを含めて従業員10数名の小さな会社X社(接客業)を経営しています。最近、従業員Yが、社内で宗教の勧誘活動を行っていることが発覚しました。最近、入社した社員から、「ある社員(Y)から宗教の勧誘をされて困っている。休み時間に事業所内で勧誘を受けている。断っているのに何度もしつこく勧誘されている」との訴えがありました。訴えてきた社員は入社直後から約1年半にわたって勧誘され続けたようで、あまりのしつこさに困って社長の私に訴えてきたようでした。訴えてきた社員の話では、別の社員も宗教の勧誘を受けて困っているとの情報もあり、別の社員の場合、仕事の後に食事に誘われて就業時間外に事業所外で宗教の勧誘を受けている様子です。会社としては、現在、本人に隠密で勧誘の実態調査を行っている段階です。こんな状況では、職場の雰囲気が荒れて、営業に支障がでるのも時間の問題です。そこで、事業所を含めて、社員間の宗教の勧誘を禁止したいのですが、可能でしょうか。宗教の勧誘を李湯に社員を解雇することはかのうでしょうか。

ANSWER

憲法20条 信教の自由

20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

解説

信協の自由

1 業務時間中であるかどうかがポイント

業務時間中に、政治活動や宗教活動緒をするようであれば、従業員の職務専念義務に違反することになります。こうなれば、使用者としてもその行為を禁止することができます。

 2解雇はできるのか

「保護事由」と「帰責事由」のバランスで考えるべきです。たしかに、x社には企業秩序維持という保護事由があり、Yには職務専念義務違反という帰責事由があります。しかし、Yが単に勧誘行為をしているというだけでは、信教の自由の重要度に鑑みても、解雇するまでの正当事由(X社にとっての保護事由であり、Yにとっての帰責事由)は認められないでしょう。

3業務時間外であれば、原則として、自由にさせなければならない

休憩時間や業務終了後の業務時間外に行う宗教活動に関しては、原則として、会社が介入することはできません。昨今では、外国人労働者も増えているので、休憩時間にお祈りする者もづ得ているでしょうが、こうした行為も業務に支障がない限り、禁止することはできません。ただし、残業時間はれっきとした労働時間であり、この残業時間中に政治活動や宗教活動を行うようであれば、使用者は業務時間内と同様、注意してかまいません。

第2章    勤怠・就業に関するトラブル
事例9 態度の悪い社員への対応に関する問題

事案の概要

ここ数年間、X社で私の部下として働いている社員Yはあまり業務成績が芳しくなく、私からアドバイスをしたり、叱ったりすることがあるのですが、どうやらそれが納得できないようで、話をするとYはすぐ目をそらし、ふて腐れた態度で話を聞いています。これでは、業務成績の改善も難しいし、他の社員の士気も落ちてしまいます。かといって、大きな声で、叱り飛ばしても逆効果にしかならない気がするのです。このような社員には、どのように対処すればよいのでしょうか。

ANSWER

対応  注意指導→戒告処分→退職勧奨→解雇

解説

仕事に関する注意や指示を与えてもふて腐れた態度をとる

1主観的に評価することの問題点

態度の善し悪しに関して客観的な基準がないということです。

2客観的なモデルの提示

従業員の態度が問題であるか否かを客観的に判断するのに有用なのは、指導・注意をしる場合にとうrべき態度のモデルを示すことです。

3類似ケース:仕事はこなしているが、仕事の報告連絡をまったくしてこない

業務指示として従業員がとるべき対応をていじしておくのが効果的です。

4業務規則集の必要性

客観性のある基準を従業員に提示することは、非常に効果的な反面、いちいち業務指示として従業員の態度や、日常業務のやり方を定めるのは骨の折れる作業です。そこで、業務規則集を作成することをお勧めします。就業規則と異なり、業務規則集とは従業員の行動規範を業務命令として独立した形式で定めたものです。それを従業員に示すことでとるべき行動の指令を示しておけば、注意・指導もしやすくなります。具体的には、「外出するときは、上司に報告sる」「帰社したら、上司に報告する」「電話対応では、メモをとりながら行う」といったようなものをまとめたものです。

5態度の悪い社員を放置することの弊害

勤務態度の悪い社員には、注意指導を徹底して、そのような勤務態度は許されないのだということを理解させる必要があります。訴訟や労働審判になってしまった事例においては、当然行うべき注意指導がなされてなかったというケースが多く存在します。

 6具体的な対応

(1)注意指導

口頭、メール、書面の使い分けの工夫が必要

(2)懲戒処分

必要な注意指導や懲戒処分を行い、職場の秩序を維持するのは、会社の責任です。

(3)退職勧奨

(4)解雇

7今回のケースでは

X社としては上司の話を聞くときの姿勢、態度のモデルをYに業務指示で基準として示し、その基準に合致していないときには、その点を指摘し、改善が見られない場合は業務指示を志違反として、処分することを考えましょう。

第2章        勤怠・就業に関するトラブル
事例10 無断でアルバイトをしている社員に関する問題

事案の概要

当社の社員が業務終了後、無断でアルバイトをしていることが発覚しました。当社は就業規則で会社の許可なく兼業をすることを禁止しているのですが、会社としてはどのような対応が考えられるのでしょうか。

ANSWER

就業規則  副業許可制・届出制の導入

解説

会社に無断でアルバイトをしている社員

1業務時間外は、原則として従業員の自由

そもそも、労働者と会社との間で採用の際に結ぶ雇用契約(労働契約)は、見目られた労働時間に労働することを約したものです。つまり、雇用契約で定められた時間以外は、会社の指示に拘束されないことを意味します。したがって、公務員等の法律で兼業が禁止されている場合を除いて、一般の労働者は、原則そして自由に兼業をすることができます。

2就業規則に副業について規定する

副業を規制する場合、就業規則にその旨を規定するのが一般的です。実際にはも、多くの企業で就業規則に兼業を規制する規定が設けられています。また、服務規定や懲戒規定に副業について定める場合も少なくありません。副業禁止に関する規定があれば、従業員の副業によって、日常の業務に支障が出た場合、その従業員を懲戒処分の対象にすることができます。また、支障が出ている場合いに応じて、妥当な処分をすることも可能でしょう。

3就業規則の規定の仕方

就業規則に規定する場合には、会社へ事前に副業の許可を得ることを求める許可制や、副業をすることを書面で提出制にするとよいでしょう。これらの方法であれば、会社は従業員の副業を把握できますし、業務に支障があると判断した場合は、許可制にの場合には、許可しないこともできます。このようにすることで、職場の秩序維持も期待できます。

第2章        勤怠・就業に関するトラブル
事例13 無断欠勤と退職に関する問題

事案の概要

1か月行方不明になり、無断欠勤を続けている従業員Yがいます。当社(X社)の就業規則では、「無断欠勤が1か月以上続いた場合には、退職扱いとする」と規定しています。この規定に基づいて退職扱いとして問題ないでしょうか。

ANSWER

民法  97条・98条

(隔地者に対する意思表示)

97条  隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。2  隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

(公示による意思表示)

98条  意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。2  前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。 3  公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。 4  公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。 5  裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。

 解説

行方不明になった社員

1社員の無断欠勤は会社にとってはデメリット

2就業規則の定め方

二つのパターンが考えられます。

一つ目は、今回のケースのように「一定期間(特定期間を定めておく)無断欠勤が続いた場合は、退職扱いとする」というように、一定期間が経過したときに労働契約が終了する規定を設けるパターンです。

二つ目は、懲戒事由に「一定期間無断欠勤が続いた場合」と定めておき、懲戒解雇扱いにするパターンです。

それでは、今回のケースのように、解雇の対象者が行方不明の場合は、どうすればよいでしょうか。

一つ目の、自然対象とする扱いの規定を設けておくことが望ましいといえます。

また、犯罪等に巻き込まれて連絡がとれない場合もありえるので、そういった場合に対応できるように、会社が認める場合には退職または解雇扱いとはしない旨を定めておくとよいでしょう。

第2章            勤怠・就業に関するトラブル
事例15 配置転換(配転)拒否に関する問題

事案の概要

X社は、経営悪化のため、合理化の一環として、人員が余剰気味であった研究・開発部門のYに対し、その技術者としての能力は通常程度あることを認めるが、チームで研究・開発をする際に必要な他の同労とのコミュニケーション能力に問題があると説明し、退職勧奨を行いましたが拒否されました。そこでX社は、人員不足かつコミュニケーション能力を特に必要としない検査部門への配置転換を命じました。配置転換は減給や降格をともないものではありませんでしたが、開発職への強い自負を有するYは配置転換に従いませんでした。そのため、X社はYに対し謹慎処分をし、始末書提出を求めましたが、Yは従前の業務を続けています。その後、X社は何度かにわたって配転命令と懲戒処分を行いましたが、Yが一向に応じないため、就業規則の定めに基づき懲戒解雇処分としました。

ANSWER

労働契約法 16条

(解雇)

16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

民法 1条

(基本原則)

1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

憲法 適正手続

刑法 罰刑法定主義

解説

権利の濫用

1配転命令と権利の濫用

配転命令権の濫用の判断基準

①業務上の必要性

②不当な動機・目的の有無(人選の合理性)

③配転によって労働者の受ける不利益

保護事由 ある権利を保護するだけの理由

帰責事由 ある義務や不利益を課されても仕方ないだけの理由

→X社の配転命令は有効

2紹介解雇処分と権利の濫用

客観的合理性

法令や就業規則に定める解雇を可能とする理由があるということ

社会的相当性

それだけの行為をしたら、社会通念上解雇となってもやむをえないということ

「保護事由と帰責事由のバランスが」がとれる範囲で法が解雇を認めているということ

解雇権濫用法理

①判断材料=労働者の行為の性質・態様その他の事情

②判断基準=客観的合理性(就業規則の定め)

③解釈適用=社会的相当性

(保護事由と帰責事由のバランス)

→X社のした懲戒処分は有効

3罰刑法定主義

解雇を含めた懲戒処分の種別と事由を就業規則に定めることは「罰刑法定主義」から要請されます。罰刑法定主義とは、「犯罪と刑罰は、あらかじめ成分の法律で明確に定めておかなければならない」という近代刑法の大原則です。これは、国民の自由を守るためにはの原則であり、あらかじめ成分の法律に犯罪と刑罰が定められていなければ、国民はどのように行動すれば適法か違法がわからない(これを「行動の予測可能性なない」といいます)ため、自由が保障されているとはいえません。したがって罰刑法定主義がとられているのです。

労働契約においても、労働者がどのような行動をしたら懲戒処分になるのかわからないのでは、行動の予測可能性がないことになってしまいます。そのため、懲戒の種別および事由を事前に就業規則で定めておくことが必要になるのです。

罰刑法定主義は刑法の大原則ですが、刑法には明文の規定がありません。しかし、憲法には「何人も、法律に定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」という「適正手続」の規定(憲法31条)があり、罰刑法定主義はここから導かれます。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例21   退職届の提出期限に関する問題

事案の概要

退職を希望する従業員がおり、「3日後に退職させてほしい」と行っています。就業規則には、「退職を希望する際には、1か月前に退職願を提出すること」ときていしるのですが、この従業員の退職は認めないといけないのでしょうか。

ANSWER

民法  627条

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

627条  当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3  六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

判例  髙野メリヤス事件 

    東京地判昭51.10.29

解説

1退職届の効力発生時期

会社としては、「3日後にやめます」といわれても簡単にはみとめられないでしょう。補充人員を募集したり、業務の引き継ぎを行わせたりしなければならないためです。しかし、法律上では、労働者には退職の自由が認められており、労働者の退職を認めないと、憲法の規定する職業選択の自由(憲法22寿)を制限することになります。また、労働基準法で規定する強制労働の禁止(労基法5条)にも違反することになります。

2退職の申出への民法の適用

期間の定めのない契約の場合、労働者はいつでも退職することができるとされており、労働者は退職の申出をした日に、すぐに退職できると考えがちです。しかし、民法に「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条1項)とあり、即日での退職は認められないこととされています。

一方、労働者側から退職を申し出る場合は、労働基準法には規定がないため、一般法である民法の規定が適用されることになります。例えば、会社が退職を認めない場合は、少なくとも申入か2週間は引き続き働かせることが可能になります。しかし、労働者が拒否すれば2週間以上は拘束することはできません。2週間が一つの区切りになります。

さらに、民法627条2項には「期間によって報酬を定める場合には、解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない」と定められています。

3関連判例

この予告期間について、30日前に退職の申入れをするように定めた就業規則の規定効力が争われた判例があります。(高野メリヤス事件・東京地判昭51.10.29)「退職に際し、一般従業員は遅くとも1か月前、役付者は6か月前に退職願を提出し、会社の許可を必要とする」とする就業規則の規定の有効性が争われた事件です。

判決では、「民法627条の予告期間は、使用者のためにこれを延長できないと解することが相当である。したがって、就業規則の規定は、予告期間の点につき、民法627条に抵触しない範囲でのみ有効だと解するべきである」と判示しています。

4就業規則に提出期限を規定してトラブル防止

業務の引続ぎや補充人員の採用にも時間が必要です。したがって、会社としては社員に突然の退職を申し出られると非常に困ることになります。

就業規則に「退職届は退職予定日の1か月以上前に提出すること」等と定めている企業が多くあるのは、こうした背景からです。

これも民法の規定があわせるのなら、「少なくとも2週間以上前に提出すること」と規定することが望ましいでしょう。なかには3か月前に提出するよう定めている企業もありますが、このような規定は労使トラブルになると有効性を否定される可能性が高いと思われます。

なお、退職届の提出時期を2週間より前に設定しても無効とされる可能性もありますが、1か月程度の予告期間を設けたとしても、一律に無効とすべきではないと¥でしょう。退職する労働者の担当していた業務に空白が生じることを防ぎ、降任への業務の引継を行うため等の目的で、1か月程度の予告期間を設けることは、企業の運営上合理的な理由だと認められます。従業員のモラルに期待するという意味で、強制力はありませんが、規定しておくことは技術的に可能です。

つまり、まず、就業規則上では、1か月前に退職届を提出すると定めておきます。しかし、それは、強制ではなく「可能な範囲で1か月前に提出してもらう」という趣旨のものであるとします。退職届が2週間前に出されて際、この規定に基づいて拒否する、としなければ法律違反にはなりません。

就業規則には、「自己都合退職希望の場合、原則として1か月前、少なくとも2週間前に所属長に退職届を提出しなければならない」と規定することで、労使トラブル発生の可能性を低くし、企業防衛も可能になります。

例えば、月給制の会社で賃金計算期間が1日から末日までである場合、当月の末日で退職するためには、15日までに退職届を提出しなければならないと言うことです。16日以降に退職届を提出するとなると、翌月末日まで退職できないことになります。

なお、期間の後半に退職届を提出した場合ですが、例えば、就業規則で1か月前の提出を規定していたとすると、16日に退職届を提出した場合、民法の規定では翌月末日まで退職ができないことになりますが、就業規則では、1か月前と規定されているので、翌月15日に退職できることになります。

なぜなら、民法の規定を従業員に不利に解釈することはできないため、就業規則の規定が、優先して適用されるからです。

民法627条2項が適用されるのは完全月給制の事業場であるとされています。その場合、予告期間を1か月とした場合は、翌月の前半に出た予告期間を延長することになります。一方、当月の後半に申し出た者は、予告期間を短縮することになります。この場合でも、労働者が民法の規定に従って辞職を申し出てきた場合には、その者の予告期間を延長して、拘束することはできないことになります。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例22  退職前の有給休暇申請に関する問題

事案の概要

X社の従業員Yは、突然会社に翌月末での退職を申し出る退職届を提出したうえで、「有給休暇が40日分たまっていますので、明日から退職日までのすべての出勤日について、有給休暇の取得を申請します」と申し出てきました。Yは営業部門で取引先を多数担当しており、退職はやむをえないにしても、後任者への引継ぎ作業や取引先へのあいさつ回り等をしてもらわなければなりません。このようなYの年次有給休暇取得申請はみとめられるのでしょうか。

ANSWER

労働基準法 39条

 (年次有給休暇)

39条 

⑤  使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

民法  1条

(基本原則)

1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 権利の濫用は、これを許さない。

判例 此花電報電話局事件 最判昭57.3.18

解説

1年次有給休暇取得に関する諸問題

①労使トラブルは労働法だけでは解決できない

労働基準法→公法→労働条件の最低基準の確保

労働者と使用者→「契約」という私法の関係→民法・労働契約法

②就業規則は理論を実践に移す場所

就業規則=「会社の憲法」→憲法・民法・刑法の基本三法や、労働基準法・労働契約法等の労働法の理恵オンを実践に移すのが「就業規則」

有効な就業規則は、基本三法や労働法の理論を実践に移す形で作り上げなければならない。

③公法と私法

公法=国家と国民の関係を定める法→縦の関係

私法=私人間の関係を定める法→横の関係

④年次有給休暇の時季指定券と時季変更権

従業員には、有給休暇の「時季指定権」があり、

会社側には「時季変更権:がある。

最終的には労働法だけでは解決できず「権利の濫用」の問題として、民法で解決ることになる。

⑤民法1条と権利の濫用

此花電報電話局事件 最判昭57.3.18

有給休暇の時季指定権がたしかに労働者の権利であるにしても、社会通念上、それを行使することで会社の事業の正常な運営を著しく阻害すると認められた場合には、権利の濫用(民法1条3項)となり制約されうるとしたのです。

民法の基本原則=民法1条

1条1項「公共の福祉」

1条2項「審議誠実の原則」(信義則)

1条3項「権利の濫用」

権利の濫用とは、外形上は正当な権利の行使のようにみえるものでも、その権利の実質を判断すれば、相手方を困らせるような、正当性のない反社会的な権利行使のことを言います。

⑥保護事由と帰責事由

有給申請が信義則違反ないし権利の濫用と判断できる客観的事実が存在するならば、使用者は労働者の時季指定権の行使を拒否できると言うことです。

今回のケースでは、Yは営業部門に勤務し、多数の取引策を担当していながら、一切の引継ぎを行わずに有給申請しています。X社には、引継等の残務整理を求める理由(保護事由)があり、Yには、一切の引継ぎを行わないという身勝手さ(帰責事由)があります。よって、X社としては、Yの時季指定権を権利の濫用として認めないことができると考えるのが、保護事由と帰責事由のバランスのとれた結論といえるでしょう。

ただし、保護事由と帰責事由のバランスの観点から、X社が時季指定権を認めないことが正当化されるのは、あくまで引継等の残務整理に要する日数だけとなることに注意してください。

2債務不履行責任の検討

さらに、債務不履行責任(民法415条等)を問うことも可能です。債務不履行とは、「債務の本旨に従った履行をしないこと」です。会社と労働契約(雇用契約)関係にある限り、退職日までは、その在籍する企業の企業活動に誠意をもって貢献することが求められています。退職前に後任者への引継等を一切、考慮しないで有給申請することは、従業員にとってそれらの義務を果たさないことになるため、「債務の本旨に従った」履行とはいえず、債務不履行責任が生じることになり、損害賠償を請求できます。

3再発防止策

なお、労使トラブルの予防・解決のためには、就業規則の静定・整備が欠かせません。

今回のケースのようなトラブルを防ぐには、就業規則上に「退職を申し出る者は、自己の担当業務に関する引継処理に関して配慮しなければならない」等とする規定と、違反した場合の懲戒の定めを設けておくべきでしょう。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例23 競業禁止義務と退職金に関する問題

事案の概要

当社(X社)の営業マンYがライバル会社へ転職しました。当社では、就業規則に競業禁止規定をおいているのですが、その規定は営業部に限ったこので、「退職後1年以内に同一市内の同業他社に転職した場合には、退職金を不支給とする」という内容です。Yは営業部に所属していましたので、当社は退職金を払わなくてよいでしょうか。

ANSWER

憲法22条

22条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

判例 トヨタ工業事件 

   東京地判平6.6.28

解説

退職金不支給による転職先の規制

1「職業選択の自由」との兼合い

転職先の規制をすることは、憲法22条で規定する「職業選択の自由」との兼合いから問題になります。しかし、労働者が競業他社へ転職した場合に、会社に著しい不利益がもたらされる場合には、職業選択の自由にもある程度の制限が加えられることができると解されています。

2就業規則への規定の仕方

①競業が禁止される期間

②競業が禁止される場所的範囲

③制限の対象となる職種の範囲

④代償の有無

 

3退職金全額不支給とする場合

退職金を全額不支給とする場合は、単に違反事実があったことのみでは行うことはできません。該当する社員にそれ相応の責任がある場合に限られると解されます。

具体的には、

①全額不支給にする必要性

②退職にいたるいきさつ

③退職の目的

④その違反行為による損害額

等を総合的に考え、妥当と認められる場合のみ、全額不支給が可能となります。したがって、実際に罰則を適用する場合には慎重に行うことが必要です。

次のように判示している判例もあります。

「退職金は、功労報償的性格とともに、賃金の後払い的性格をも併せ持つものであることからすると、退職金の全額を失わせるような懲戒解雇事由とは、労働者の過去の労働に対する評価をすべて抹消させてしまうほどの著しい不信行為があった場合でなければならない」(トヨタ工業事件 東京地判平6.6.28)

今回のケースでは、退職金の不支給自体は認められても、「労働者の過去の労働に対する評価をすべて抹消させてしまうほどの著しい不信行為があった場合」とまですることは困難ですので、全額不支給は認められないでしょう。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例24 懲戒処分決定前の自宅待機に関する問題

事案の概要

先日、女性従業員から業務外の飲み会の席でセクハラ行為を受けたとの苦情がありました。加害者とされる職場同僚から事情を聞いたところ、セクハラに近い行為はあったことは確認することができましたが、セクハラ行為については、本人は否定しており、実際問題として、懲戒処分に相当するかどうか、微妙なところです。

そこで、会社として一定の判断を下すまで自宅待機するよう命じました。これに対して、当該労働者が、自分は何も不法行為をしていないのだから自宅待機中も賃金を支給するよう申し入れてきました。会社としては、無給扱いを考えていますが、こうしたケースにおいても、自宅待機中とはいえ、賃金は支払う必要があるのでしょうか。

ANSWER

民法  536条

(債務者の危険負担等)

536条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

判例 

解説

1処分決定前の自宅待機

①自宅待機命令とは

労働者が、企業秩序違反(非違行為)あるいは法令違反杭を行ったときは、通常、調査と事実関係の確認が終わるまでの一定期間、自宅待機命令を命じることがあります。

その際、就業規則にその旨の規定を必要とするか否かが問題となりますが、懲戒処分を下す前提である業務命令としての自宅待機命令は、就業規則に規定がなくても一般的にはできると解されています。

②就労請求権とは

(1)消極説

「労働者が使用者に対する請求権は、賃金支払請求権のみであって、いわゆる就労請求権は有しない」という説

(2)積極説

調理人の就労請求権につき、裁判所は、「一般に労働者は、就労請求権を有しないが、労働契約等に特別の定めがある場合又は業務の性質上労務の提供について特別の合理的理由を有する場合には、これを肯定するのが相当である。調理人は仕事の性質上調理技術の練習拾得を要し、その技量はたとえ、少時でも職場を離れると著しく低下するものであるから、就労請求権を有する」と指摘しています。(スイス事件・名古屋地判昭45.9.7)

2.処分決定までの自宅待機と賃金支払義務の有無

自宅待機(休業)を命じた時の賃金の支払いの有無は、まず、任意規定である民法の「危険負担の原則」(民法536条)によって決まります。

①使用者の「責めに帰すべき事由」による場合

休業期間中の賃金は全額支払わなければなりません。

②使用者の「責めに帰すべき事由」によらない場合

休業期間中の賃金を支払う必要はありません。

③    自宅待機の帰責事由が労働者にある場合

この場合は、民法536条で定める使用者側の帰責性がないことはもとより、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」にも該当しないと考えられるので、賃金も休業手当も支払わなくても違法とはいえないでしょう。

3.今回のケースの場合

今回のケースの場合、第三者の目撃証言により、セクハラに近い行為があったと確認がとれているため、自宅待機命令を出すこと自体は問題はなさそうに思えますが、セクハラ行為を行ったとの目撃証言のある労働者を暫定的に他の部署等に移動させ、セクハラ問題に関する両者が接触しないですむことができるならば、自宅待機させずに調査を続けることもできるでしょう。

「他のとるべき方法がなく」自宅待機命令を会社として選んだ、というような場合ならば、賃金支給の義務はない、ということになります。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例25 研修の直後に退職した社員に関する問題

事案の概要

当社(X社)では、社員の能力向上のため会社が費用を負担して社員に研修を受けさせています。今回、研修を終了したばかりの社員Yが退職を申し出てきました、このような場合、退職するYから研修にかかった費用を返還させることはできるのでしょうか。

ANSWER

就業規則の規定の仕方

判例

解説

研修直後に退職した社員への対応

1返還規定では無効になることがある

2退職の自由を認めない規定は無効

 憲法  22条  職業選択の自由

 労働基準法    退職の自由を保障

3返還することを定めた規定も無効 

 労働基準法16条 労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を予定することを禁止 

4有効とされる規定

このように、退職の自由を制限する規定や、研修費用を返還させる規定は無効とされます。しかし、研修費用を貸与する形式の規定は、有効とされています

(河合楽器製作所事件・

 静岡地裁昭52.12.34)

5トラブルになったときのために

実際に研修を受けてすぐに退職する社員がいた場合、前述のような規定と共に、研修費用の返還について、退職金や賃金からの控除ができるようにしておくとよいでしょう。

そのためには、研修規定や賃金規定、退職金規定に退職金や賃金からの控除ができることを規定し、かつ、賃金控除に関する労使協定を締結しなければなりません。どちらか一方でも欠如していると、退職金からの控除はできないことになります。

6貸与規定だからといってすべて返還させることはできない。

7関連判例

野村證券留学費用返還請求事件

(東京地判平14.4.16)

海外留学した労働者に対する会社の留学費用返還請求が労働基準法16条に違反するか否か争われた事件。

判旨

本件留学は、形式的には業務命令の形であっても、実地としては労働者個人の意向による部分が多く、最終的に労働者が留学を決定したものと認められる。したがって、本件留学は、費用債務免除までの期間を考慮すると、本件研修費用は、会社から労働者に対する貸与金たる実質を有し、労働者の自由意思を不当に拘束し、労働関係の継続を強要するものではなく、労働基準法16条に違反しないといえる。

 (賠償予定の禁止)

16条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例27 離職理由の変更を要求してくる社員への対応

事案の概要

自己都合退職を予定している社員から、離職理由を会社都合による退職に変更してほしいと要求されています。この場合、会社としては変更要求に応じなければならないでしょうか。

ANSWER

就業規則の規定

解説

離職理由の変更を要求してくる社員

1離職理由の変更を要求してくる理由

雇用保険の基本手当は、自己都合退職や懲戒解雇等の重責解雇の場合は、3か月間の給付制限期間を設けています。

これに対して普通解雇や会社都合による離職や契約期間の満了の場合には、待期期間(7日間)が経過するとすぐに基本手当を受給できるようになり、そのため退職者としては離職理由が会社都合であるほうが、早くから基本手当を受給できることになるのです。

2事実確認をすることが必要

3事実と異なる離職理由の変更は断る

4離職理由の変更に応じることの他の影響

雇用保険を早く受け取るやめの離職理由の変更に応じると、残された社員もそういった不正行為でも認めてもらえる会社であると感じ、職場の規律がなくなってしまうことになります。

5トラブルになったときのために

なお、離職理由の変更を求められたときのために、従業員から退職の申し出があったときに必ず、退職届を提出させるようにしましょう。口頭での退職の申し出をうけてしまうと後々、トラブルになることがあります、退職届を提出していないことを利用して、離職理由の変更を求められたり、自己都合退職であるのに会社都合であると主張してくる者もいるから就業規則にも退職届の提出を義務づけ、必ず本人の自筆の文書をのこしておくことが重要です。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例28 休職中の労働者と整理解雇に関する問題

事案の概要

当社では、売上の伸び悩みから経営危機に陥り、業務縮小計画に従って、一つの事業部門を廃止することになりました。これに伴い、経営者会議で一定数の整理解雇もやむをえないとの判断に至り、このほど、人選基準を設けて、具体的な人選に入りました。

ところが、その過程で、精神的疾患により1年間休職している労働者がその対象に選ばれてしまいました。しかし、本人はまったく知らないようで、社内からは病気で休職中の人を対象に選んだことについて、疑問がないわけではありません。会社としては、どのように対応したらよいでしょうか。

ANSWER

判例  整理解雇の四要素

CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件・東京高判平18.12.26等

日本航空(パイロット等)事件・東京地判平24.3.29

事件・東京高判平18.12.26等解説

休職中の労働者の整理解雇

1整理解雇とは

(1)意義

整理解雇→経営上の理由で行われる使用者の労働契約解消の意思表示

(2)四つ要素

整理解雇については、「解雇権濫用法理」に照らして厳しく判断されます。具体的には、以下に述べる四つの要素(整理解雇の4要素)が充たされるか否かによって、その妥当性の有無が判断されることになります

①人員整理の必要性   人員削減の必要が企業に認められるか否か、企業経営として必要性が十分認められるか

②解雇回避努力     出向や配転等による方策、あるいは、希望退職や一時帰休等の他の手段を講じたかどうか

③被解雇者選定の妥当性 恣意的な基準によるものではなく、客観的で合理的な基準に従い、公正性を保った人選が行われたかどうか

④被解雇者や労働組合との十分な協議  対象労働者あるいは、労働組合に対して整理解雇の必要性や時期、方法等について説明し、誠実に協議したかどうか

近時の判例で、4要素説をとるものが登場→CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド

2 被解雇者選定の妥当性

(1)病気休業中の労働者と被解雇者選定

会社更生法の適用化において行われた整理解雇の際に、整理解雇対象者の選定基準の一つとして「病気欠勤・休職等による基準」が用いられ、その適否が争われた日本航空(パイロット等)事件(東京地判平24.3.29)がその典型例として参考になります。

裁判で争点となった、「病気欠勤・休職等による基準」は同会社が作成し、組合側に提示したもので、この「基準」につき、東京地裁は以下のように述べています。

①基準は、その該当性を客観的な数値により判断することができ、その判断に解雇者の恣意が入る余地がない基準であり、このような基準であるということ自体に、一定の合理性が担保されていると言うことができる。

②過去に休職、病気欠勤、乗務制限(以下「休職・乗務制限等」という)があった者は、少なくともそれらの休職・乗務制限等があった期間、運航乗務員の本来の業務である運航乗務に従事できず、または一定の制約下で従事していたのであるから、休職・乗務制限等がなかった者と相対的に比較すれば、過去の運航業務に対する貢献として劣る面があったといわざるを得ないし、将来の運航業務に対する貢献の想定に当たっても、相対的に劣る可能性があると判断することは不合理ではない。

多数の労働者の中から解雇対象者を選定するに当たって、過去に休職・乗務制限等がなかった者を休職・乗務制限があった者よりも相対的に優位に扱うことには合理性があると言うことができる。

(2)人選の合理性

3被解雇者に対する実務上の留意点

(1)十分な説明を行い、理解を求めること

(2)希望退職者募集は等しく行う

(3)あらかじめ基準を設け説明をする

(4)個別説明の機会を設ける

4本ケースの場合

今回のケースの場合、判例では休職者を整理解雇の対象者として選ぶことは、選定基準が「一定の合理性が担保されている」限りにおいて、客観的・合理的とされ、不合理とはいえないとされています。

しかし、前述のように病気で休職中の労働者は、整理解雇に関する情報を入手することが困難を伴うケースが少なくないので、当該休職者が整理解雇の対象となっている場合は、特段の配慮が必要となります。

例えば、休職者の所属していた事業部門が業績縮小の対象となった場合には、人員削減の対象となるのもやむをえないとも判断されますが、整理解雇の対象となった休職者にとってはその後の経済的。精神的負担ははかりしれません。

このため、特に、経営状況に関する情報や整理解雇の内容について、丁寧な説明をしたうえで理解を求める必要性があるのは当然のことで、個別に対応するのが好ましいといえましょう。

第3章       退職・解雇に関するトラブル
事例30 賞与支払いに関する問題

事案の概要

当社(X社)では、賞与は7月と12月に支給しています。この度、一身上の都合で、11月30日に退職した従業員Yがいます、集合規則で「支給日に在籍していない者には賞与は支給しない」と定めているので、Yには賞与を支払わなかったところ、賞与の評価対象期間は、7月1日から11月30日となっており、その間は勤めているので、賞与が支払われないのはおかしいとYはいってきました。当社はYに賞与を支払わなければならないのでしょうか。

ANSWER

判例 

大和銀行事件・最判昭57.10.7

須賀工業事件・東京地判平12.2.14

解説

退職後に賞与を請求してくる社員

1賞与とは

賞与は、就業規則や労働契約で支給基準を定めていれば、労働基準法上の賃金に該当します。しかし、賞与は法律上当然に使用者が支払い義務を負うものではなく、就業規則等により支給基準が定められている場合、確立した労働慣行によりこれと同様の合意が成立していると認められる場合等に、労働契約上支払い義務を負うものです。

2賞与の支給日に在籍しない者の扱い

賞与に関して1番問題にあるのは、評価対象期間の全期間を勤務したにもかかわらず、支給日前に退職した者に賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍条項)が有効なのかという点です。賞与が労働基準法上の賃金だとすると、労働基準法24条の「賃金の全額払い原則に反するのではないかとの疑問も生じますが、判例では、支給日在籍条項の定めを合理的なものと認める(大和銀行事件・最判昭57.10.7)とされる等、支給日在籍要件を認めるケースも多く、支給日に労働者が退職している場合には賞与を支給しなくても有効とするのが一般的です。しかし、こうした支給日在籍条項については、労働者本人が退職日を選択することができない定年や人員整理等の会社都合による退職の場合には、不利益を被ることがあるので、適用せず、労働者が退職日を自由に選択できる自発的退職者についてのみ有効とする説もあります。

また、支給日在籍条項でいう「支給日」とは賞与の支給予定日であり、支給が遅れたり、あるいは使用者が故意に支給を遅らせたりした場合には、仮に実際の支給日前に退職していたとしても、支給予定日に在籍していれば賞与を受け取る権利はあるものと考えられています(須賀工業事件・東京地判平12.2.14)

3就業規則に規定するうえでの問題点

賞与は賃金としての側面も持ちますが、前述したように必ず支給しなければならないのではなく、支給額、支給日、支給方法、支給対象者等、原則として会社が事由に決めることができるものです。つまり、会社の方針を反映しやすいものです。

しかし、それは同時に、労使の思惑の違いによりトラブルが起きやすいことも意味します。

そのため、賞与はなぜしきゅうするのかという賞与支給の趣旨を就業規則上にはっきりと明記しておくことが大切です。例えば就業規則上に「将来の労働への意欲を向上させる」という趣旨が明記されいれば。退職が決まっている従業員に対して賞与を減額することも認められるでしょう。

また、賞与は支給することが法律上定められているものではないので、会社側で事由に支給方法を決めることもできます。

今回のケースのように支給日に在籍しない者に支給したくないのであれば、「賞与は〇月〇日に在籍している者に支給する」、「賞与は現実に支給される日に在籍している者に対して支給する」というような支給日在籍条項の定めをおくとよいでしょう。

4関連判例

(1)大和銀行事件(最判昭57.10.7)

事例賞与の支給日以前に退職した上告人が賞与の支払いを受けなかったため、支給される賞与の対象期間を勤務したとしてその支払を求めた事例です。

判旨原審の違法に確定したところによれば、被上告銀行においては、本件就業規則32条の改訂前」から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右規則32条の改訂は単に被上告銀行の従業員組合の要請によって右慣行を明文化したにとどまるものであって、その内容においても合理性を有するというのであり、右事実関係のもとにおいては、上告人は、被上告銀行を退職したのちである昭和54年6月15日および同年12月10日を支給日とする各賞与については受給権を有しないとした原審の判断は、結局正当として是認することができるとされました。

(2)須賀工業事件(東京地判平12.2.14)

事例賞与支給時期の予定日には在籍していたが、実際に賞与が支給された日には退職していて賞与が支給されてなかった労働者が、支給日在籍要件を定めた賃金規則等は無効であるとして賞与及び遅延損害金の支払いを求めた事件です。判決は、支給日要件を定めた賃金規則等は無効であるとし、賞与及び遅延損害金の支払いを認められました。

判旨本来の賞与支給予定日に在籍した従業員が、賞与の支給が遅れ、実際に賞与が支給された日にはすでに退職していたため賞与が支給されなかったことについて、支給日在籍要件は不合理であるとは一概にいえないが、賞与の支給対象者を内規によって定めた賞与予定日に在籍する従業員ではなく、現実に賞与が支給された日に在籍する従業員とするのは、賞与請求権の取得者の地位を著しく不安定にするもので合理性があるとはいいがたいとしました。

第5章      情報管理に関するトラブル
事例34 同業他社から転職してきた社員に関する問題

事案の概要

当社(X社)では、プログラマーを中途採用いようと募集をかけていたところ、同業でライバル会社に勤めていたYが応募してきました。Yは能力・経験ともに申し分なく、当社としては是非とも採用したい人材なのですが、一方で、営業秘密の漏えい等でトラブルとなることは避けたいと思います。入社時にどのような対策をとればよいでしょうか。

ANSWER

不当競争防止法   2条6項

(定義)

2条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

6  この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

解説

同業他社から転職してきた社員

1営業秘密と不当競争防止法

「営業秘密」については、不当競争防止法2条6項において「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定義されていて、次の三つの要件、全てを満たすことが、不当競争防止法の保護を受けるために必要とされています。

①秘密管理性:秘密として管理されていること

②有用性:有用な情報であること

③非公開性:公然としられていないこと

不正競争による営業上の利益の侵害行為に対しては、差止めや損害賠償等の請求ができ、侵害者に対しては、罰則が科される場合があります。

2同業他社の社員を中途採用する場合の留意点

例えば、今回のケースにおけるYが前職会社で秘密保持義務、競業避止義務に関する誓約等をしている場合、Yがこれに反する行為をすれば、Y本人だけでなくX社も、前職会社から不正競争防止法義務違反等で、訴訟を起こされるリスクが生じます。

したがって、これらのリスクを低減させるためには、まず、Yに前職会社との間に秘密保持義務・競業避止義務に関する契約があるかどうかを確認し、契約がある場合には、その内容を確認して、中途採用となるYにどのような義務が課せられているかを把握しておく必要があります。

Yの退職時の契約書・誓約書等があれば、退職時の契約内容が確認でき、その内容が合理的なものであれば中途採用後のトラブルリスクは低くなるでしょう。

しかしながら、Yの退職時に交わした契約書・誓約書等を前職会社がY本人に交付しなかったり、契約書・誓約書の内容を開示しない契約を締結していた李、あるいは秘密保持・競業避止の内容が漠然としているような場合には、Yに課されている明確な義務の内容を把握することは困難です。このような場合においても、Yの秘密保持義務違反につき、X社に「悪意」または「重大な過失」があれば、不正競争防止法上の責任が生じうることから、「悪意・重過失」でないと評価されるように努めることが大切です。

3入社時に確認書・誓約書を取得する

では、同業他社にいたYを中途採用するX社としては、「悪意・重過失」がないと主張するためには、どのような対策をとるべきでしょうか。

経済産業省による「営業秘密管理指針」では、次の点等が記載された誓約書の取得が、不正競争防止法上の「重大な過失」がないとの主張の一助になるとしています。

①他社の営業秘密を、その承諾なしに自社内に開示あるいは使用させないこと

②他社において、完成させた職務発明等の自社名義での出願をしないこと

③自社で就業するに当たり、不都合が生じる競業避止義務がないこと

よって、X社としてはこれか①~③の内容をふまえた内容の性客書・確認書を作成し、Yとの間でとり交わしておくえきでしょう。

4採用後の留意点

前述のような確認書あるいは誓約書を提出させたからといって、トラブルのリスクが完全になくなるわけではありません。

確認書・誓約書の提出がなくなるまでの一定期間、前職との関係性の薄い業務に従事させる等のより慎重な対応を検討することを考えてもよいでしょう。

第5章      情報管理に関するトラブル
事例35 企業秘密に関する義務づけに関する問題

事案の概要

当社は、薬品関係の会社ですが、転職する社員が比較的多いです。新薬の開発等、特に企業秘密の漏えいには神経を使っています。就業規則にも企業秘密の保持義務を定め、これを漏えいした場合には、懲戒処分に処する旨を定めています。こうした規定の趣旨を活かすため、今回、採用時に企業秘密の持出しを禁じる旨の誓約書の提出を義務づけるべく、検討を進めています。誓約書の提出を義務づけることは、可能でしょうか。

ANSWER

判例  アウトソーシング事件・東京地判平25.12.3

    理研精機事件・新潟地長岡支判昭54.10.30

    福知山信用金庫事件・大阪高判昭53.10.27 

解説

企業秘密を持出し禁止する誓約書の提出義務づけ

1企業秘密とは

(1)意義

企業秘密とは、企業の業績、活動に影響を与えるいっさいの情報で、技術情報等の句会されていない情報をいいます。これには、不正競争武士法上の営業秘密(不正競争防止法2条6項)のほか、企業の不正や不祥事に係る情報や役員のスキャンダル情報、人事情報等、使用者のより広範な事項も含むものと解されています。

参考:不当競争防止法   2条6項

2条 

6  この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

2)企業秘密保持義務と義務違反

労働者は、労働契約の締結により、労働契約上の付随義務・誠実義務の一環として、秘密保持義務を負っています。秘密保持義務とは、使用者の営業秘密等をその承諾なく、使用または開示してはならない義務のことです。

したがって、不正競争防止法の保護を受ける営業秘密等の企業秘密を第三者に漏洩する等して、秘密保持義務に違反した場合は、使用者は当該労働者に対して、債務不履行(民法415条)または、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求や差止請求をすることができます。

参考:民法415条・709条

(債務不履行による損害賠償)

415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(不法行為による損害賠償)

709条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2誓約書を提出義務

(1)誓約書の意義と効力

誓約書は、基本的には採用時に会社の方針等を労働者が遵守する旨の約束を取り付ける書類のことで、一般的には「入社誓約書」のことをいい、使用者と労働者の両社の合意によって初めて意味を持ちます。

使用者側からすれば、採用後のリスク管理や規律維持のためにも欠かせない書類の一つなので、提出を求める必要があります。

入社時にサインを求めることで、あらかじめ労働者に対し、負うべき義務を十分に認識させ、事前の抑止力が働く効果を有します。雇用労働者が「誓約書」の内容を破るような行為をしたときや、しそうなときは、「誓約書」を提示して注意指導することもできます。

(2)提出義務の有無

問題は、労働者側に提出義務があるか否かですが、労働者は使用者か側から強制的に「サインしろ」といわれたとしても、提出する法的義務はありません。

ただし、就業規則等に「誓約書」を提出することが定められていて、その内容が約束事として合法、かつ合理的である場合は、提出の義務が発生すると考えられています。したがって、この場合において提出を拒否した結果、「入社を拒否される」あるいは、「懲戒処分を受ける」等の、何らかの不利益を被ることの可能性は否定できません。

(3)誓約書の内容

「入社誓約書」の記載内容は、①服務規程を遵守する、②職歴経歴・保有資格にうそ偽りがない、③勤務地の異動や配転等の人事異動に従う、④会社に損害を与えた場合、その責任を負う、⑤賃金管理等において必要な個人情報を提供する、⑥会社の秘密情報等を漏らさない等を誓約させるのが一般的な内容です。

事業の性格上、企業秘密を多く扱う場合は、「誓約書」とは別に、対象となる企業秘密、②在職時の資料保管・秘密保持義務、③退職時の資料・秘密情報の返還義務、④退職後の秘密保持義務、⑤競業避止義務、⑥損害賠償-等の項目からなる「秘密保持誓約書」を作成して、提出を求めることも可能です。

例えば、①の企業秘密の対象としては、)製造技術・設計、)製品販売・顧客情報、)他社との業務提携に関する事項を盛り込むことが重要です。

また、②の在職時の資料保管・秘密保持義務に関しては、「会社が保管する最重要情報に関する書類、文書、業務に関連して入手した資料のすべてを在職中は大切に保管し、会社の許可なくして持ち出さないことを約束します」等の項目を定めておくことが大切です。

(4)誓約書と判例

企業秘密保持の「誓約書」に関するトラブルもすくなくありません。雇用契約に必要な守秘義務の履行に関する入社誓約書等を提出しなかった労働者が解雇され、訴訟に至った以下のケースがあります。

この事案に対し、裁判所は、「本件誓約書」は、労働者が遵守事項を誓約する文書であり、労働者に対して任意の提出を求めるほかないものであって、いずれも業務命令によって提出を強制できるものではない。したがって、当該労働者が本件誓約書等の提出を拒否したこと自体を業務命令違反とすることはできない。また、当該労働者は業務遂行を妨害する目的で本件誓約書等の提出を拒んでいたとも評価できない」と断じ、解雇は無効との判例を示しています(アウトソーシング事件・東京地判平25.12.3)

また、別の裁判例も上記事件に類似した判断を示し、「誓約書の提出は、業務命令として従業員に強制し得る性質のものではないから、その不提出を「職務上の指示命令に従わない」場合として、懲戒処分の対象とすることは許さないとすることは許されない」としています(理研精機事件・新潟地長岡支判昭54.10.30)

さらに、誓約書の不提出を理由になされた組合役員の労働者に対する諭旨解雇につき、「金庫(会社)の要求した誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味するものと受け取れる文言が含まれていて、内容の妥当を欠くものがあったばかりでなく、そもそも本件のような内容の誓約書の提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、近代的労働契約の下では誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり、特に悪い情状とみることは相当でないと解する」と指摘し、解雇を無効と判示しています(福知山信用金庫事件・大阪高判昭53.10.27)

3本ケースの場合

今回のケースの場合ですが、前述した説明や裁判例等を総合考慮すると、「誓約書」の提出を義務づけることはできないと判断するのが相当と思われます。

「誓約書」が提出されないことにより、今後業務上の不都合が生じることが予想される場合は、入社時の際に、「誓約書」を提出しない労働者に対しては、会社は当該労働者を採用しない措置をとるのが合理的、かつ、効果的な方法となるでしょう。 

第5章      情報管理に関するトラブル
事例36 重要データ持出しと解雇に関する問題

事案の概要

総務担当の労働者が、会社に無断で業務用の重要データが入っているハードディスクを持ち帰ったことが判明し、会社としては事態を重くみて、就業規則に基づき、服務規律に反する「重篤な行為」として、この労働者を懲戒解雇処分にするべく検討を進めています。当該労働者は、懲戒解雇は不当であり、無効だと主張しています。会社としては、当初の予定どおり「解雇処分」の手続を進めても問題はないでしょうか。

ANSWER

就業規則  懲戒処分に関する論点

判例

解説

1データ持出しと解雇

①懲戒解雇とは

解雇とは、使用者が労働者に対して一方的な意思表示を行うことにより労働契約を終了させることです。解雇の種類には、大きく分けて普通解雇、整理解雇、そして懲戒解雇の3種類があります。

このうち懲戒解雇は、例えば、①刑法上の犯罪故意、②労働者の職務規律違反、③重大な経歴詐称、④長期の無断欠勤、⑤著しい非行、⑥出勤不良で改善の見込みがない場合等に対して行われる懲戒処分の一つです。

2懲戒解雇の有効性判断基準

実務上、解雇を含む懲戒処分が有効であるためには、少なくとも次の要件をクリアすることが必要とされています。

(1)あらかじめ就業規則等に懲戒解雇処分等の根拠規定が設けられていること

フジ興産事件・最判平15.10.10

参考:労働基準法89条9号

 (作成及び届出の義務)

89条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

(2)就業規則に根拠規定があることおを確認したなら、当該懲戒解雇処分が権利濫用にあたらないかどうかの判断がなされていること

(3)懲戒解雇処分等を行うに先立って、当該労働者に弁明の機会が与えられ、説明を事情聴取等が適正に行われていること

学校法人大谷学園事件・横浜地判平23.7.26→書面による懲戒事由の明示と弁明書提出の要求

学校法人田中千代学園事件・東京地判平23.1.28→事情聴取の実施

3裁判例における控訴要素

罰刑法定主義

①「一事不再理の原則」=一度処理された事案について重ねて刑事責任を問われないこと

②「刑事不遡及の原則」=行為時に適法な行為は、事後に作られた法によって罰せられないこと(事後法の禁止)

③「類推適用の禁止」=被告人に不利な類推適用は許されない4こと

④「適正手続の保障」=被告人に告知・聴聞の機会を与えなければならないこと(「弁明の機会」)

そこで、使用者が労働者を懲戒処分するばあいにおいても、こうした「罰刑法定主義」の考え方に基づいて判断するのが妥当として、そこから

①明確性→懲戒処分をするには、就業規則に懲戒の種類・程度が明記されていなければならないこと

②平等取扱い→違反の種類・程度が同一の事案に対する懲戒処分は、同一の種類・程度でなければならないこと

③相当性→懲戒処分の重さが違反の種類・程度と比較して、均衡のとれたものでなければならないこと

④」適正手続→懲戒処分を発動するには、本人に弁明の機会を与える等の措置が講じられていること

等を、懲戒処分の有効性を判断するための考慮要素としている裁判例が多く存在します。

2.会社の情報媒体等の持出しと裁判例

①「重篤な違反とはいえない」として懲戒解雇は無効

・丸井商会事件(大阪地判平25.6.219

②懲戒権の濫用にあたり、懲戒解雇は無効

・ブランドダイアログじけん(東京地判平24.8.28)

③機密・個人情報の試用パソコンへの保管は、懲戒事由に該当

・ヒューマントラスト事件(東京地判平24.3.13)

3.設問の場合

当該労働者がハードディスクを無断で持ち帰ったことを理由に、就業規則で定める服務規律の「重篤な違反がある」として、懲戒解雇に処するには、それ相応の要件が必要とされます。まず、就業規則にその旨のさだめがあること、「客観的に合理的な理由」があることが求められます(労契法16条)。労働者保護という法の趣旨から、懲戒解雇は権利濫用にあたらないか(有効性)等の点も問題となります。

この前述の場合においては、処分を検討するにあたって、まず、①ハードディスクは会社の備品か、それとも私物か、②備品や情報の管理が徹底されたていたか、③ハードディスクに保存された情報は、それが外部に漏れた可能性はあるか等のチェックする必要があります。そのうえで、社内の懲罰委員会を開き、こうした点を総合勘案して最終結論をだされるのがよいかと思われます。

今回のケースの場合、結論から言えば前述の裁判例に照らしても、懲戒解雇処分は、相当性に欠けるものと判断するのが妥当でしょう。

第5章      情報管理に関するトラブル
事例37 ブログやSNSで社内事情を漏らす社員の問題

事案の概要

昨年X社に入社してきた新入社員のYですが、インターネットで交流が盛んなようで、社内のだれと誰が恋愛関係にあるとか、社員教育が悪いとか、先輩の誰それが人気のある等、会社の内部事情をインターネット上のSNSやブログに盛んに書き込んでいます。会社の内部機密ではないにしろ、将来的に業務に支障をきたす可能性もなくはないと考えています。このようなYにどのように対応したらよいでほうか。懲戒処分も視野に入れて考えています。

ANSWER

判例 富士重工事件・最判昭52.12.13

   国鉄中国支社事件・最判昭49.2.28

   日本経済新聞社事件・

   東京地判平14.3.25

解説

ブログやSNS等インターネット上で会社の内部事情を漏らす社員

①インターネット上の媒体への書込みの問題点

富士重工事件・最判昭52.12.13→労働者は「企業の一般的な支配に服するもの」ではない

②私生活上の行為に対する懲戒処分の可否

国鉄中国支社事件・最判昭49.2.28→私生活上の行為に対する懲戒処分の場合、企業秩序に関係を有する場合に懲戒処分を行うことができる

③書込み禁止と表現の自由

日本経済新聞社事件・東京地判平14.3.25→憲法は私人間には直接効力を有するものではないから、労働契約という私人間の関係にある当事者を直接拘束するようなものではなく、企業秩序維持のために懲戒処分を行うことは許される

4具体的対応

基本的にインターネットの書込みが個人の自由であったとしても、会社に業務上の支障が生じるような場合には、その書込みを禁止すできるという規定を就業規則に盛り込んでおいたほうがよいでしょう。

最初は、口頭による注意を、その後、注意書・指導書といった書面を当該社員に交付します。業務を阻害する現実的な可能性が認められる場合には、それはもはや非違行為となり、けん責、減給等の軽い処分から降格といった人事権の行使も可能となるでしょう。

今回のケースの場合、X社はYの私生活上のネットへの書込みに関して、事実関係を正確に調査し、その書込みが企業の名誉・信用を棄損したり、社内秩序に影響を及ぼす場合には、懲戒処分を行うことができます。この場合、Yには民事上の請求、ばあいによっては刑事上の措置を講じることも考えられます。書込みの内容が明らかに不当なものの場合にプロバイダに対して、削除請求も行うことができますので、それらの対応についても検討すべきでしょう。

第6章      メンタルヘルスに関するトラブル
事例41  メンタルヘルスと受診命令に関する問題

事案の概要

X社の職場の誰がみても、明らかにメンタル疾患に罹患しているメンタル不調者の社員Yがいます。日頃の仕事ぶり、だんだん能率が落ちてきて、欠勤や遅刻を繰り返しています。部下を統率する立場にある中間管理職として、悩ましい問題となっています。症状がどの程度か知る必要があると思い、医療機関の診断を受けるよう勧めたいと思っています。会社として、医師の受診を命令することができるでしょうか。

ANSWER

就業規則による対応

判例 京セラ事件・

   東京高判昭61.11.13

解説

メンタルヘルス疾患者と受診命令

1受診命令の根拠

就業規則に明記されているか否か

2就業規則と受診命令 (健康診断)

労働安全衛生法で定められている健康診断の実施(定期健康診断等)は、法律上履行が義務づけられている事項なので、就業規則に根拠規定がなくても、これらの健康診断えお受診するよう命じることができます。(安全衛生法66条1項等)

(健康診断)

66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。

5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

しかし、これ以外の健康診断の受診については、原則的には受診が命じることができる旨の規定が就業規則に明記されていることが求められます。

3受診命令権行使と根拠事実

受診命令は、就業規則に根拠規定があるからといって、常に行使できるわけではなく、受診命令を行使するための根拠事実が必要とされます。命令権を「保有」しているという点と、「行使」が正当かという点は、別個の問題だからです。今回のケースのような、労務に影響を与えることが予想される心身の疾患が疑われる状況は、一般に受診命令権の行使を正当づけるものと判断されるでしょう。

4就業規則に規定がない場合の受診命令の効力

裁判例は、「会社が、当該労働者に対し改めて専門医の診断を受けるように求めることは、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし、合理的かつ相当な理由のある措置であるから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、当該労働者はこれに応ずる義務がある者と解するべきである」と述べたうえで、当該労働者の指定医受診の指示に従う義務はないとの主張に対して、「前期の義務を肯定したからと言って、直ちに同人個人の有する基本的人権ないし医師選択の自由を侵害することにはならないとしています(京セラ事件・東京高判昭61.11.13)

言葉を言い換えれば、受診命令に「合理的かつ相当な理由」があれば、就業規則に根拠規定がない場合でも、メンタルヘルス寛恕に対して受診命令を発することが可能であるということになるでしょう。

5ストレスチェック義務化等への対応

(1)従業員を対象としたメンタルヘルス検針の実施

(2)従業員の健康診断情報の保護・管理の徹底

6関連判例

この点につき、精神科医による健康診断等を実施し、その結果に基づいて休職等の措置を講じるべきであったのに、こうした対応をとらずに懲戒処分の措置をとったことは適切でないとして、懲戒処分を無効とした例(日本ヒューレット・パッカード事件・最判平24.4.27)

第7章      ハラスメントに関するトラブル
事例43 セクハラ社員に関する問題

事案の概要

女性社員Yが、同じ課の男性社員から、仕事の帰りに執拗に食事に誘われたり、家に何度も電話してくる等の嫌がらせを受けているので、出社しづらいと訴えてきました。このような場合、会社としてはどのように対処すればよいのでしょうか。

ANSWER

男女雇用機会均等法 11条

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)

11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

判例  福岡セクハラ事件・福岡地判平4.4.16

解説

セクハラをする社員

1セクシャルハラスメントの態様

セクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」といいます)は、「対価型」と「環境型」の二つに分類することができます。

(1)「対価型」

「対価型」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることをいいます。

(2)「環境型」

一方、「環境型」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業するうえで見過ごせない程度の支障が生じることをいいます。

2男女雇用機会均等法上の義務

このセクハラに対しては、男女雇用機会均等法によって、事業主に雇用管理上の措置義務が定められています。それによると、次のような配慮をおこなわなければなりません。

①事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

②相談・苦情への対応

③職場におけるセクシャルハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応

これらの措置を事業主が怠ると、社員がセクハラを行い、その事実が発覚した場合には、本人だけでなく、会社側も責任を負うことになり、場合によっては、損害賠償責任を負うこともあります。

3セクハラかどうかの判断基準

①従業員が不快に感じているかどうか

②普通ならば不快に感じるだろうか

③繰り返し行われており、1回であったとしても重大で悪質であること

4会社としての心構え

会社としては、セクハラは重大な労働問題であることを認識することが大切です。そのため、就業規則において、服務規律の一環として規定するのではなく、1項目として規定したほうがよいでしょう。

そこには、セクハラの禁止、相談窓口の設置、懲戒処分の対象行為となることを規定します。そして、その就業規則の内容を周知することによって、従業員のセクハラに対する意識を高めることができます。

なお、被害者は女性に限定されず男性も対象としていることに注意が必要です。

5関連判例 福岡セクハラ事件・福岡地判平4.4.16

部下の女性の異性関係等につき、上司が職場の内外で悪評を流布した行為が、当該女性の人格権を侵害するもので不法行為が成立するとして、慰謝料の支払いが命ぜられた事例で、セクハラ問題のリーディングケースです。

使用者は、被用者の労務遂行に関して、被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、またはこれに適切な対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務があり、被用者らを選任、監督する地位にある専務がこの義務を怠ったときは、使用者責任が発生するとして、会社に対し、慰謝料の支払いが命ぜられました。

第7章      ハラスメントに関するトラブル
事例44 マタハラに関する問題

事案の概要

先日、妊娠中の従業員Yが軽易な業務にかわりたい旨申し入れてきました。職場の現状を考えると、適当な仕事が見当たらず、場合によってはこれを契機に降格措置をとることもやむを得ないかと思っています。こうした会社側の意向を知ったYは、「これはマタハラだ」といって怒りをつのらせており、担当者は対応に苦慮しています。会社‘(X社)として、Yを降格措置をとった場合、そうなるのでしょうか。マタハラ防止対策とあわせ、ご教示ください。

ANSWER

男女雇用機会均等法 9条3項

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

9条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

民法 415条・709条・715条

(債務不履行による損害賠償)

415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(不法行為による損害賠償)

709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(使用者等の責任)

715条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

判例 広島中央保健生協事件・

   最判平26.10.23

解説

妊娠中の軽易業務転換と降格

1「マタハラ」とは

近時、男女雇用機会均等法9条3項の「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」に関するトラブルが増える傾向にあります。「マタハラ」とは、マタニティ・ハラスメントを略したものです。法律上の明確な定義はありませんが、一般的に、①職場における女性に対して妊娠・出産等を理由とする解雇・雇止め等の不利益取扱いをすること、②職場における女性の妊娠・出産等にあたり精神的・身体的苦痛を与えることまたは職場環境を害すること等と解されています。今では、「セクハラ」、「パワハラ」とともに三大晴らす面をの一つとされています。

本ケースもマタハラが問題となるケースですが、妊娠経験者の4人に1人がマタハラを経験しているといわれています。

こうした状況のなかで、平成26年には、マタハラ問題に関し最高裁の新たな判断も示されており、現場での対応は急務となっています。

2違法なマタハラ言動と男女雇用機会均等法93条3項

そこで、問題となるのは、どのようなマタハラ問題に関する言動が実際に違法となるのかです。この点について、男女雇用機会均等法は、9条3項で規定を設けて、したがって、事業主が妊娠出産等に関する権利を行使する女性労働者に対して不利益取扱いをする場合は、その措置は同条違反として違法・無効とされます。

(1)使用者による「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」とは

では、「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」とはなんでしょうか。言葉をかえれば、妊娠・出産等に関する権利を行使する女性労働者に対する事業主のどのような言動・措置が不利益取扱いとなり、禁止の対象となるのかということです。

具体的には次のような場合は、違法となりますので、使用者は最新の注意が必要です。

①妊娠・出産・産休を請求、取得したことを理由とする解雇・退職強要した場合

②有期労働契約労働者を期間の定めのあることを理由に、妊娠等を契機に期間満了で打ち切る場合

③妊産婦が時間外・休日・深夜労働、変形労働制をやめさせてほしい、軽易業務に転換してほしいと希望したのに、使用者がこれを拒否した場合

④妊婦出産に伴う引退的トラブルが生じた妊産婦は、医師等の診断等に基づき作業軽減、時間短縮、休業等の措置を講じることが必要とされるが、使用者がこれを理由に解雇や降格、不利益な配転等をする場合

(2)同僚等に取るマタハラ行為と法的責任

職場にえは、同僚等の無理解なマタハラ言動により、マタニティ女性が精神的苦痛等を受ける場合も少なくありません。同僚等が精神的・身体的苦痛を与えたことまたは就業環境を害する言動を行い、それが、人格権等を侵害する不法行為(民法709条)に当たる場合には違法と判断され、損害賠償責任を負わなければなりません。

この場合において、使用者がそうした行動により、当該女性労働者の就業環境が害されていることを認識していながら、放置したままなんらの措置もとらなかった等の場合には、使用者の職場環境配慮義務違反(民法415条)や使用者性任(民法715条)等の法的責任を問われます。

使用者責任とは「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について、第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」というものです。簡単にいえば、労働者が会社の業務に関して第三者に不法行為(民法709条)を働いた場合、その不法行為について、使用者が損害賠償責任を負う(民法715条)というものです。使用者は労働者を使用して企業活動を行い、利益を得ていることから、労働者が第三者に対して、与える損害も負担するのが公平に適うという「賠償責任の原理」に基づくものです。

民法715条1項但書では、「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当な注意をしたとき、又は、相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」として、使用者が被用者の選任監督に相当の注意をした場合等は責任を免れる旨の規定をおいていますが、実際の裁判例において、それらが認められることはほとんどなく、事実上の無過失責任に近い運用がなされています。つまり、使用者責任に関しては、マタハラ問題に限らず、まずは従業員本人に不法行為責任を発生させないようにすることがポイントとなるということです。

(3)増える「マタハラ問題」相談-訴訟に至る例も

しかし「、マタハラ問題」は女性の社会進出に伴い、増加の一途をたどるとともに、深刻な労働問題となってきており、行政機関等への相談や労使間の争いが絶えず、訴訟に持ち込まれるケースも少なくないのが現状です。

3判例の立場

では、「マタハラ問題」をめぐる裁判において、裁判例はどのような判断をしているのでしょうか

・最高裁の新たな判断枠組み

最新判例として、広島中央保健生協事件(最判平26.10.23)があり、最高裁の新たな見解を明確に打ち出しています。今後のマタハラ問題解決にとって、必須の知識となりますので、詳しくみてみましょう。

この事件は、X社の副主任の職位にあった労働者Yが、労働基準法65条3項に基づき妊娠中の軽易な業務への転換を請求したところ、①副主任を免ぜられ(本件措置1)、②育児休暇明けの復帰後も副主任に命ぜられなかったこと(本件措置2)につき、X社側の両措置はそれぞれ男女雇用機会均等法9条3項等違反にあたり無効であると主張して、副主任の地位確認、支給されなかった副主任手等の損害賠償を求めたものです。

この判決において、最高裁は、男女雇用機会均等法 9条3項について以下のような新たな判断枠組みを示し、かあkる判断枠組みに従って判断するよう審理不尽を理由に広島高裁に差し戻しました。

判例:妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格は、違法・無効

①均等法9条3項の規定は、強行法規として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠・出産・産前休業の請求・産前産後の休業または軽易業務への転換等を理由として解雇その他の不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。

②一般に降格は、労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、均等法1条および2条の規定する同法の目的及び基本理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨および目的に照らせば、女性労働者につき、妊娠中の軽易業務への転換を契機として、降格される事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解される。

最高裁は、男女雇用機会均等法 9条3項は「強行法規」であり、妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いにあたり、違法・無効であるとしました。

ただし、以下のような場合は同行の禁止する取扱いにはあたらないと、判決は指摘しています。

①当該労働者が軽易業務への転換および上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置にかかる事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる理由が客観的に存在するとき。

②事業主において当該労働者につき降格の措置をとるじょとなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運恵右や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度および上記の有利または不利な影響の内容や程度に照らして上記措置につき、同項の趣旨および目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき。

しかし、この例外はあくまで限定的なもので、例外の存否のはんだんについても、厳格な判断枠組みを課しています。

4今回のケースの場合

今回のケースの場合はどう判断すべきでしょうか。最高裁判例をもとに総合考量しますと、事業主は妊娠中のYの軽易業務への転換を契機として降格させることを検討中のようですが、そうした措置がとられたときは、原則、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに当たると判断されることになるでしょう。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例45 飲酒運転事故を起こした社員に関する問題

事案の概要

営業を行っている社員Yが、業務終了後に酒を飲み、酔ったまま車を運転し、

事故を起こしました。そのため、免許取消処分になってしまい、日常の営業活動ができなくなってしまいました。この場合、会社としてはどのような対応をすればよいのでしょうか。

ANSWER

就業規則の整備

解説

解説飲酒運転をして事故を起こした社員

1業種によって解雇もできる

タクシーやトラックの運転手等のように、免許や資格がなければ従事できない職種があります。これらは、運転免許証がなければ、これませの業務に従事できないことになります。また、営業職で外回りに車を使わなければならない社員のように、自動車を運転できないとそれまで携わってきた仕事ができない場合も同様です。

このように、運転免許が業務上必要であるにもかかわらず、免許取消しの処分を受けた場合には、労務の提供ができなくなるわけですが、職種限定採用である場合には、雇用契約の履行ができなくなりますので、場合によっては、解雇もありえるでしょう。

また、職種限定採用でない場合であれば、配置転換をすることによって、免許や資格の必要のない仕事に就かせることもできます。会社にとって必要な社員であれば、免許を再取得するまで、配置転換をしてほかの職種に就かせることも考えられます。また、営業職等では、公共興交通機関  を利用して従前の業務を行わせることも可能です。

なお、免許を取り消された理由として、解雇をする場合は、業務との関連性が必要です。免許を取り消された社員が行っていた業務がその免許との関連性がない場合には、不当な解雇となりますので、注意が必要です。

2免許停止処分の場合

自動車事故を起こした場合には、免許取消処分だけでなく、免許停止処分もありえます。免許停止処分であっても、一定期間は自動車の運転はできなくなるので、業務に支障をきたすことが考えらます。

ただし、免許取消処分とは違い、免許停止処分は1か月程度で解除されることもあるため、一時的に免許停止処分になっただけで解雇にするのは厳しすぎる処分といえます。

そのため、免許停止処分となった場合には、配置転換をしたり、休職処分にしたりする等して対応するのが無難でしょう。

3トラブルになったときのために

飲酒運転に限らず、交通事故を起こした場合には、社員自身が長期の療養を強いられることもあります。そのような場合のために、休職扱いができるように、就業規則を整備しておく必要があります。

さらに、自己の被害者に対して損害賠償を行わなければならないことも考えられます。事故が業務時間中のものであれば、会社の使用者責任も問われるからです。この場合、全額本人に賠償させることはできず、会社に社員より多くの賠償額の支払いを命じた判例もあります。

これは、通勤中の事故でも同様に考えられことがあります。そのため、通勤手段としてマイカーを使う場合は、一定以上の任意保険に入っていることを条件とする等何らかの対策をとるようにするとよいでしょう。

また、マイカー使用を認めている会社については、その使用範囲によって、会社が負うべき責任の範囲が異なってきます。マイカーの試用を通勤のみに認めるのか、あるいは業務使用を認めるのかといったことを就業規則のマイカー使用等でしっかりと示しておく必要があります。

マイカーの使用を全面的に禁止する場合でも、社有車の運行管理、安全運転管理、事故対応について規定を整備しておくべきです。社有車の使用を認める者の範囲や、社有車の使用手緒続、安全運転の意識づけ、事故が発生した場合の対応方法等、徹底した車両管理が求められます。

さらに、トラブルになる前の段階として、お酒を飲んだら車を運転しない、という教育を普段から行っておくことも大切です。そして、事故を起こさなかった場合でも、飲酒運転をしていた事実が発覚したら、厳重に注意しておくことが必要です。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例46 残業拒否する社員に関する問題

事案の概要

業務の都合でどうしても残業をしてもらう必要が生じたため、社員に残業を命じたところ、そのうち1人が私的な用事があるといって、帰ってしまいました。このような社員を放置しておくと他の社員に示しがつかないので、厳しく処分したいのですが、何か問題はないでしょうか。

ANSWER

就業規則の定めによる対策

労働基準法32条・36条

 (労働時間)

32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 (時間外及び休日の労働)

36条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

解説

残業を拒否する社員

1労使協定を締結することが必要

労働時間は、原則として「1日8時間、1週40時間」とされています。(労基法32条)。これを超える時間、労働することを時間外労働といいますが、変形労働時間制を導入していない限り、上記原則時間を超えて労働させることはできません。

ただし、会社によっては、それでは仕事にならない場合もあります。そのため、労働基準法では労使協定を締結し、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出した場合は、その協定の定めるところにより、労働を延長したり、休日労働を行わせることができると規定しています(労基法36条)。

この労使協定は、正しくは「時間外労働・休日労働に関する協定届」といいますが、通常は「三六‘サブロク)協定」と呼ばれています。これは、根拠条文が労働基準法36条にあるからです。

ただし、この三六協定を締結して届出をすれば、「1日8時間、1週40時間」を超えて労働させても違法ではありませんが、「時間外労働や休日労働させても違法ではない」という免罰効果をもたらすに過ぎず、それだけでは時間外労働をさせることはできません。三六協定は合法的に時間外・休日労働を行わせるための一要件に過ぎないのです。

2就業規則の定めも必要

三六協定の締結の他に、就業規則に規定しておくことも必要です。この就業規則の規定の内容が合理的であれば、就業規則の適用を受ける従業員に対し残業を行わせることができるとされています。

労使協定と、就業規則の定めの両要件が整っていれば、残業を命じることができます。また、その命令に反して残業を拒否する従業員に対しては何らかの懲戒処分を科すこともできます。

3トラブルを避けるために

ほとんどの会社で時間外労働や休日労働が必要なケースがあると思われますが、これらを合法的に行うためには、前述で説明したように、三六協定の締結と届出が必要であり、さらに業務命令で行うためには、就業規則に規定しておくことが必要です。

これらの要件が整っていない場合、どうしても残業が必要だとしても、従業員がプライベートな理由で残業を拒否しても、強い姿勢で臨めないというデメリットがあります。労務管理の面からいっても、業務命令に背く社員に強い姿勢で臨めないということは好ましくありません。

また、前述の二つの要件を整備していない状態で、経営者の恣意的な判断で従業員を処分してしまうと、トラブルに発展することもあります。就業規則の定めがないのに、残業を拒否した従業員を処分した場合、会社は何らかの指導を受けることになります。こうなると、会社としては役所や従業員に対応することはできません。

こういったことは、企業としてコンプライアンス(法令順守)の点からは当然のことですし、労務管理におけるリスクマネジメントの一つですので、しっかり確認してください。もし、要件がととのっていないのなら、要件整備を急いでください。

4パートタイマー・アルバイトに残業させる場合の注意点

パートタイマーは所定労働時間が6時間等、一般の従業員より短いことが多くあります。このような従業員に対しても残業wpさせることはできます。この場合においては、1日の労働時間が所定労働時間を含めて8時間に達するまでは三六協定の締結・届出がなされていなくても違法にはなりません。これを法内残業といいます。

もちろん、8時間を超える時間外労働に対しては三六協定も締結等、一般社員と同様の要件を整えなければなりません。

パートタイマーに残業命令ができるかどうかは、就業規則の規定によることになりますが、パートタイマーには主婦が多いことから、注意が必要です。

主婦をパートタイマーとして採用する場合、家事や育児があるため残業ができず、採用時の内容が優先するので、「残業をしない(させない)」という労働契約を結んだパートタイマーに対しては、就業規則の規定を理由として、法内残業も含めて残業を命じることはできないのです。

アルバイトにも同様な注意が必要になります。アルバイトで特に気をつけなければならない点には、アルバイトには学生が多いということです。18歳以下の者もいりため、残業をさせる場合には、注意が必要です。

5関連判例

・日立製作所武蔵工場事件(最判平3.11.28)

事案出勤停止や譴責処分を受けた労働者が、三六協定に基づいて使用者の命じた残業を拒否し、かつ、残業拒否に対する始末書の提出命令にも従わなかったことは、就業規則所定の解雇事由に該当するとして懲戒解雇された事例です。

判旨労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出たばあいにおいて、使用者が当該事業所に適用させる就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者をと労働させることができる旨を定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例47 協調性に欠ける社員に関する問題

事案の概要

当社で営業戦略を練る企画部門のYは、他の仲間にひ協力的で、自分勝手に作業を行っています。その部門は、チームで仕事をしているので、チームの仕事が滞ってしまい、管理者も困っているようです。また、チームの仲間からも、彼を外してほしいという要望が出ています。しかし、その社員は企画部門に配属することを条件に雇い入れているので、処遇に困っているところです。この場合、どのような対策があるのでしょうか。

ANSWER

注意・指導

解説

協調性に欠ける社員

1協調性がないという理由だけでは解雇は難しい

判例においても、協調性に欠ける社員の解雇を認めたものが数多くあります。しかし、解雇を認めた判例においても、協調性に欠けることのみをもって、解雇を有効としているわけではありません。

その他に、社員に協調性に欠ける行動が原因で会社が被った損害が明確でなければなりません。会社に特段の被害が生じていなかったり、当該社員に改善の余地があったりする場合には、解雇が無とされることもあります。

今回のケースにおいては、チームとしての機能が滞っている、計画が遅れている等の具体的な被害が発生しているので、解雇することも可能ではあります。

2解雇する際の注意点

解雇が可能であっても、従業員が解雇の無効を主張してくることが考えられます。その場合に、会社側が解雇の正当性を主張するポイントとしては、社員が非協力的な行動をとる等、協調性に欠けることがあったときに、その都度、注意・指導していくことが必要です。そして、その記録を残しておくようにします。

万が一、注意や指導をしなかったとしても、指導しなければならなかった行動や出来事、その経過や結果についてきちんと記録しておけば、トラブルになったときも正当性を主張するのに有効です。

また、ある程度の規模の会社であれば、配置転換も考えなければならないでしょう。ただし、今回のケースのように、職種限定で採用している場合はできません。

3労務管理上の注意点

協調性に欠ける社員にさまざまなタイプがあります。性格的に協調性が欠けている場合もありますが、職場環境によって協調性を失っている場合もありますので注意が必要です。

心理学者のマズローは、人間の基本的欲求は、並列的に並んでいるのではなく、低次元のものから高次元のものへと段階をなしているという欲求5段階説を唱えています。この説は具体的には、

①生理的欲求

②安全の欲求

③社会的欲求

④自我の欲求

⑤自己実現の欲求

の順に、一つの欲求が満たされると次の高次の欲求が顕在化し、その都度欲求がを満たしたいという動因が働き、それがやる気を生むと説きました。

つまり、ある段階の欲求が満たされると、次の段階の欲求を満たしたくなってくるという訳です。

例えば、「眠い」「空腹である」という欲求(①の生理的欲求)が満たされると、次は「落ち着て過ごしたい」という欲求(②の安全の欲求)が生じてきます。さらに、それが満たされると、「どこかに所属したい」という欲求が(③の社会的欲求)を満たそうとするのです。

一般的な労働者であれば、たいていは③の社会的欲求までは満たされているのではないでしょうか。

つまり、一般的にいって、会社の従業員であれば、④段階の自我の欲求を満たそうとするか、それが満たされていれば、⑤の自己実現の欲求を満たそうとしているといえるでしょう。

ここで、協調性に欠ける社員について考えてみますと、④段階の自我の欲求が満たされていないことが原因の場合があります。

自我の欲求とは、「他人に認められたい」という承認欲求のことです。協調性に欠ける社員の場合、他人に認められたいと思っていても、よい評価を得て認められることができないため、本能的に悪いことをして認められようとするのです。

会社としては、このようなタイプの協調性に欠ける社員に対しては、じっくりと話合いを行い、当人のよい部分を認める配慮をすることによって、問題が解決する場合もあります。法律や就業規則の定めからは離れてしまう解決法ですが、これもまた「労働法だけでは労使トラブルは解決できない」ということの表れです。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例48 社内恋愛で業務に支障をきたす社員の問題

事案の概要

既婚の男性社員Yは、同じ部署の未婚の女性社員Zと不倫関係にあるとのうわさがあります。当社はサービス業でYの担当する顧客によからぬうわさが広がり、最悪の場合、取引中止にならないかと心配です。社外にうわさが広がった場合、会社の社会的なイメージが低下することは避けられないので、この両者を解雇したいと思っています。不倫関係にあるという理由で解雇することは可能でしょうか。

ANSWER

就業規則の服務規律による対応

解説

社内恋愛をして、業務に支障をきたす社員

1恋愛に対して会社が介入することはできない

恋愛は私的行為であるため、その関係に会社がとやかく口を挟むことはできません。当然、恋愛行為を理由として、何らかの懲戒処分をすることもできないことになります。もちろん、恋愛を理由とする解雇も許されません。

ただし、社内恋愛をしているために、仕事に支障がでるようであれば、それは問題です。仕事が進まないとか、周りに悪影響を与えるほど男女がベタベタしている等の実害が発生していれば、注意をすることもできますし、何らかの処分をすることも可能です。

このようなケースで、よくある対処の仕方に、配置転換を行うというものがありますが、社内恋愛や社内不倫というだけでは配置転換の理由とはならないでしょう。なぜなら、業務に相当程度の支障が生じていなければ、業務上必要な処分とは言えないからです。

ただし、両者の関係がうまくいっている場合には、目立った影響がなくても、その関係が崩壊した後では、円滑な業務の遂行ができないこともよくあります。特に両者が同じ部署であればなおさらです。業務が円滑に進まないことは会社にとっては損害になるので、労務管理上からも、配置転換は仕方がない対応といえます。

また、うわさが外部に広がることを心配するという点についても、実際に問題が生じる前には処分はできないでしょう。企業イメージが特に重要である会社であっても同様です。

2服務規律違反を問うことはできる

しかし、社内恋愛がエスカレートして、休憩時間から帰ってくるのが遅いことが多いとか、会社のEメールで私的なメール交換をしたり、携帯電話やスマートフォンで業務時間中に頻繁に連絡をとりあったりする等の行動があれば、服務規律違反を問うことができます。服務規律に違反しているのですから、注意をして改めさせることは可能です。

この注意の後に引続き違反をしている者に対しては、懲戒処分の対象とすることができます。この際、いきなり減給の思い処分にするのではなく、まず、訓戒等の軽い処分にとどめたほうがよいでしょう。懲らしめるのではなく、諭すための意味あいでの処分とし、重大な就業規則違反とは取扱いを区別することが重要でしょう。

3労務管理上の注意点

社内恋愛自体は特に悪いことではなく、社内恋愛が原因で会社に迷惑をかけることが問題なのです。不倫関係も含め、社内恋愛それ自体に関して規制を設けることは避けましょう。感情的な問題もあるため、会社として感情をコントロールすることはできませんし、個人的な問題であるため、問題が起きる前から過度に干渉することは避けなければなりません。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例49 定期健康診断の受信拒否に関する問題

事案の概要

会社の定期健康診断を拒否する者がいて頭を痛めています。最近はこうした拒否者が増える傾向にあります。会社の実施する健康診断を受けない者に対して、懲戒処分をすることは可能でしょうか。

ANSWER

愛知県教育事件・最判平13.4.26

帯広電報電話局事件・最判昭61.3.13

労働安全衛生法66条5項

(健康診断)

66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。

5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

(面接指導等)

2 労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

解説

健康診断拒否と懲戒処分

1健康診断の実施義務と懲戒処分

労働安全衛生法は、事業者に対して健康診断の実施を義務づけていますが、その一方で労働者に対しても健康診断の受診を義務づけています(労働安全衛生法66条5項)

事業者の指定した医師または歯科医師が行う健康診断を受けるのを望まない場合においては、他の医師または歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者にていしゅつしなければなりません(労働安全衛生法66条5項但書)

2判例の立場

一例を挙げれば、公立中学校教諭が労働安全衛生法上の定期健康診断における胸部X線検査を拒否したことにつき、最高裁は、以下の点を指摘して、学校長がそれを受診するよう命じることは適法であるとしています(愛知県教育事件・最判平13.4.26。以下。文中法令分は当時のもの)。

まずは市町村は、学校保健法(8条1項)(当時)により、舞学年定期に学校職員の健康診断を行わなければならず、結核の有無はエックス線検査により検査するものとしている。また、結核予防法(4条1項)(当時)は職員に対し、毎年度少なくとも1回エックス線検査の方法による健康診断を行うべきことを定めている。

②教職員は、労働安全衛生法(665項)(当時)および結核予防法(当時)(7条1項)により、健康診断とエックス線検査を受診する義務を負う。

③学校保健法、結核予防法に定める結核の有無に関する検査法は、教職員個人の保護に加え、結核が個人的にも社会的にも害を及ぼすことを防止する見地から行われるものではある。

これらの点をその判断根拠として挙げm「以上により、教職員はその職務の遂行にあたって労働安全衛生法、結核予防法の前記規定に従うべきであり、職務上の上司である学校長は、教職員に対し、職務上の命令として結核の有無に関するエックス線検査の受診を命ずることができる」と結論づけています。

また、同法上の健康診断ではなく、健康管理規定等により就業規則上受診義務に関する規定がある場合においても、最高裁は、「労働契約上、その内容の合理性ないし相当性が肯定できる限度において、健康回復を目的とする精密検査を受診すべき旨の健康管理従事者の指示に従うとともに、病院ないし担当医師の指定及び健康検査実施の時期に関する指示に従う義務を負担している」と判示し、受診義務を肯定しています(帯広電報電話局事件・最判昭61.3.13)

3健康診断受信拒否と懲戒処分

こうした点をふまえれば、これらの健康診断の受診を拒否し、かつ、労働安全衛生法上の検針については、他の医師により健診結果も提出しようともしない労働者にやいしては、就業規則の規定に基づき、業務命令違反等を理由に懲戒処分に処することも許されるでしょう。

前述の愛知県教育事件(最判平13.4.26)でも、最高裁は、「受診拒否は懲戒事由にあたる」とした2審(名古屋高判平9.7.25)判断を担当して、当該教諭の上告を棄却しています。

こうした点を考慮すれば、今回のケースの場合においても、当該労働者に対して懲戒処分の措置を取ることは可能です。労働者に課せられている「健康保持義務」の観点から判断しても、使用者側のとった措置は、当然の措置といえるでしょう。

4労働者と健康保持義務

使用者の責務として安全配慮義務等が課せられていますが、労働者も一般的に自己の健康管理について責任を持ち、快適な職場環境の維持・改善に努める義務を負っています。

また、労働者は労働災害を防止するため必要な事項を遵守し、使用者が実施する労働災害の防止に関する措置に対して協力する義務があります(労働安全衛生法4条)。これらの協力義務に違反する場合には、重大な刑務規律違反として、懲戒の対象となるとされています。

5結論

健康保持にかんしては、本ケースで問題となった健康診断の受診義務のほか、健康保険指導の利用による健康保持(労働安全衛生法66条の7第2項)、面背指導を受ける義務(労働安全衛生法69条2項)が定められていて、労働者の義務ないし努力義務とされています。

結論としては、まず、健康診断の受診を拒む労働者に対しては、コミュニケーションととりながら、説得して受診を勧めることが大事です。それでも納得してもらえない場合は、就業規則等労働契約上の根拠があれば、使用者の行う健康診断を受診しない労働者に対しては、業務命令違反を理由に懲戒処分をすることは可能です。

第8章      問題社員違に関するトラブル
事例50 会社の備品を持ち出す社員に関する問題

事案の概要

従業員Yが会社のびひんであるデジタルカメラ等を勝手に持ち帰っていることが発覚しました。会社としては懲戒処分に処したいと思っているのですが、そのようなことは可能でしょうか。

ANSWER

民法 415条・709条

刑法 窃盗罪(刑法235条)・横領罪(刑法252条)

就業規則の規定の運用

(債務不履行による損害賠償)

415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(不法行為による損害賠償)

709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

解説

会社の備品を持ち出す社員

1会社の備品を持ち出せば民事・責任を問われることに

会社としては、業務遂行に必要な備品が、必要なときに備わっていなければ、企業活動に多大な影響を被りかねません。備品を管理するということは地味な作業でありますが、大切な仕事でもあります。

一方で、会社の備品を勝手に持ち出し、私用に用いる者が出る場合があります。退職時に備品を持ち帰ってしまったり、返却をしなかったりする者もいます。

当然、会社の備品を持ち出すことは違法であり、民事的には不法行為(民法709条)や債務不履行(民法415条)責任を問われ、場合によっては窃盗罪(刑法235条)や横領罪(刑法252条)といった刑事処分に問ううこともできます。

いったん持ち出して後から返すつもりでもあっても、許可なく持ち出せば窃盗罪となり、自己の管理下にあった備品を売りさばいたりしてその代金を着服すれば横領罪になるのです。

このように、会社の備品を不正を持ち出すことは、民事上・刑事上それぞれの責任を追及されることになる重大な非違行為なのです。

2就業規則違反も問われる

また、多くの会社では、就業規則に許可なく会社の備品を持ち出すことを禁止する規定がおかれています。これに違反した場合には、懲戒処分を予定する規定もおかれていることが多く、その場合には、懲戒処分に処することも可能です。

例えば、警察の職員が自らの遊興費にあてるために、備品のカメラを質に入れることが発覚し、窃盗容疑で逮捕され、役所も懲戒免職になったという事件がありました。

このように、会社の備品を持ち出すことは、刑事処分+懲戒処分という重い処分が科されることもあるのです。

3備品の管理体制を整備することも必要

備品の持出しを禁止することを就業規則に規定することも大切ですが、備品の管理体制を整備することも必要です。パソコンやデジタルカメラのような高価なものから、CD-Rだす・DVD-R等のメディアやボールペンのおうな消耗品、また、会社の制服等も持ち出す従業員がいるそうです。

これらの従業員に対して、会社や無防備でいますと、備品の持出しを防ぐことはできないでしょう。

そこで、備品は必要最小限度にし、収納場所を決めて、貸出し記録慕の作成をすることで、返却することを条件に少々の持出しを認めて、返却を求めることも容易になるでしょう。

そして、就業規則の備品持出し禁止規定を従業員に周知して、従業員の意識を変えることも手段の一つです。

備品の持出しは犯罪となる重大な非違行為ですが、会社の備品管理に甘さがあることは、会社自ら労使トラブルを招く帰責事由があるといってよいでしょう。

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