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憲法重要判例のご紹介

憲法重要判例をご紹介申し上げます。

最初に、①憲法重要判例(条文名と争点のみ)をご案内し、後半で、

②憲法重要判例(条文名・事案・争点・判旨・ポイント)をご案内させていただきます。

なお、末巻に憲法重要判例(条文名・事案・争点・判旨・ポイント)と憲法条文のPDFファイル

を貼っておりますので、よろしければ、ご利用下さい。

①憲法重要判例(判例名と争点のみ)

 憲法

1. マクリーン事件(最大判昭53.10.4)

外国人に人権は保障されるか。外国人に基本的人権が保障されるとしてどの範囲で保障されるか。 

 

2. 森川キャサリーン事件(最判平4.11.16)

外国人に再入国の自由は保障されているか。 

 

3. 外国人職員昇任試験拒否訴訟(最大判平17.1.26)

地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置をとることは、憲法14じぃおう1項に違反するか。 

 

4. 八幡製鐵事件(最大判昭45.6.24)

法人に政治的行為の自由(政治資金の寄付)は、保障されるのか。

 

5. 南九州税理士会政治献金事件(最判平8.3.19)

強制加入団体である税理士会において、会員に政治献金のための協力義務を課すことは、会員の思想・良心の自由を侵害するものであり、政治献金をすることは税理士会の目的の範囲外の行為ではないか。 

 

6. よど号ハイジャック新聞記事抹消事件(最大判昭58.6.22)

未決拘留者の新聞・図書等の閲読を制限した急監獄法1條2項・旧監獄法施行規則86条1項は、知る権利を保障した憲法21条に反しないか。 

 

7. 禁煙処分事件(最大判昭45.9.16)

在監者に対して喫煙を禁止する旧監獄法施行規則96条は、憲法13条に違反するか。 

 

8. 校則によるバイク制限(最判平3.9.3)

校則によるバイク制限は違憲・違法か。 

 

9. 三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)

企業が従業員の思想・信条を理由として雇用を拒否することは、憲法12条、14条に違反しないか。 

 

10.      昭和女子大事件(最判昭49.7.19)

大学が学生の政治的活動につき広範な規律を及ぼすことは許容されるか。 

11.日産自動車事件(最判昭56.3.24)

 企業の就業規則中、男女で異なる定年年齢を定めることは、憲法14条、民法90条に違反しないか。

 

12.京都府学連事件(最大判昭44.12.24)

 肖像権は、憲法上の人権として保障されるか。

 

13.自動速度監視装置事件(最判昭16.2.14)

 自動速度監視装置におる速度違反車両の運転者、同乗者の容ぼうの写真撮影は、憲法13条に違反するか。

 

14.被疑者の肖像権(最判平17.11.10)

 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう、姿態を撮影した行為は、不法行為法上違法となるか。

 

15.前科照会事件(最判昭56.4.1)

 みだりに前科等を公表されないという利益は、法律上の保護に値するか。

 

16.ノンフィクション「逆転」事件

 ノンフィクション作品において前科等を公表されない利益は、法的保護に値するか。

 

17.外国人指紋押なつ拒否事件(最判平7.12.15)

 指紋押なつを強制されない自由は、憲法13条で保障されるか。

 

18.エホバの証人輸血拒否事件(最判平12.2.29)

 宗教上の信念に基づき輸血を拒否する権利は、保障されているか。

 

19.憲法14条1項後段の列挙事項(最大判昭39.5.27)

 年齢による差別的扱いをした処分は、憲法14条に違反するか。

 

20.尊属殺重罰規定事件

 尊属を殺害する行為の刑を普通殺人より加重し、無期懲役と死刑に限っている刑法旧200条は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反しないか。

21.女子再婚禁止期間事件(最判平7.12.5)

 女性の6か月の再婚禁止期間を定める民法733条は、憲法14条に違反しないか。

 

22.非摘出子相続分規定事件(最大決平7.7.5)

 非摘出子の法定相続分を摘出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの規定は、憲法14条1項に違反し無効であるか。

 

23.生後認知児童国籍確認事件(最大判平20.6.4)

 国籍法3条1項は、憲法14条1項に違反しないか。

 

24.衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭51.4.14)

 憲法14条に定める法の下の平等には、選挙における投票価値の平等に含まれるか。

 

25.衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭60.7.17)

 本件衆議院議員選挙における議員定数配分規定が、直ちに憲法違反よなるか。

 

26.参議院議員定数不均衡訴訟(最大判平12,9.6)

 約5対1の投票価値の不平等をもたらす参議院議員選挙の定数配分規定は、憲法に違反するか。

 

27.売春条例事件(最大判昭33,10.15)

 条例による地域差は、憲法14条に違反しないか。

 

28.サラリーマン税金訴訟(最大判昭60.3.27)

 事業所得等に係る必要経費については、事業所得者等に実際に要した金額による実額控除を認めているのに対し、給与所得については、必要経費の実額控除を認めず、代わりに同法定所得による概算控除を認める旧所得税法の規定は、憲法14条1項に違反しないか。

 

29.謝罪広告事件(最大判昭31.7.4)

 謝罪広告の掲載を命ずる判決は、思想・良心の自由を侵害するか。

 

30.加持祈祷事件(最大判昭38.5.15)

 精神障害の治療のために加持祈祷を行い、患者を死亡するに至らしめたような場合でも、憲法20条1項により保障される宗教的行為といえるか。

 

31.宗教法人の解散命令(最決平8.1.30)

 宗教法人法に基づく宗教法人の解散命令は、憲法20条1項の信教の自由を侵害するか。 

 

32.津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13)

 政教分離原則とはどのような法的性格のものか。

 

33.自衛官合祀拒否訴訟(最大判昭63.6.1)

 静寂な宗教的環境の下で信仰生活を送る利益(宗教的じんかくけん)は、法的利益として認められるか。

 

34.箕面忠魂碑訴訟(最判平5.2.16)

 市の忠魂碑移設のための敷地の無償貸与は、政教分離原則に違反するか。

 

35.愛媛玉串料訴訟(最大判平9.4.2)

 県のなした公金による玉串料の支出は、憲法20条3項に違反するか。

 

36,砂川神社訴訟(最大判平22.1.20)

 市が、町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為は、憲法89条、20条1項後段に違反するか。

 

37.エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8)

 信仰上の理由により剣道の授業を拒否する生徒に対し、代替措置を採ることは、政教分離原則に違反するか。

 

38.新潟県公安条例事件(最大判昭29.11.24)

 県の公安条例による行列更新・集団示威運動の許可制は、集団行動の自由を保障した憲法21条に違反し、許されないのか。

 

39.東京都公安条例事件(最大判昭35.7.2)

 集会や集団行進の際に東京都公安委員会の許可を必要とした東京都公安条例は、憲法21条に違反するか。

 

40.泉佐野市民会館事件(最判平7.3.7)

 条例の「公の秩序をみだすおそれのある場合」とは何か。

 

41.猿仏事件(最大判昭49.11.6)

 国家公務員の政治活動を一律に禁止する国家公務員法102条1項および人事院規則14-7は、政治活動の自由を保障する憲法21条に違反しないか。

 

42.サンケイ新聞事件(最判昭62.4.24)

 反論文掲載請求権は、表現の自由を保障する憲法21条1項により直接保障されるか。

 

43.博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭44.11.26)

 裁判所がテレビフィルムの提出を命じることは、報道・取材の自由に対する侵害となるか。

 

44.TBSビデオテープ差押え事件(最決平2.7.9)

報道機関の取材テープに対する捜査機関の差押処分は、憲法21条に反しないか。

 

45.石井記者事件(最大判昭27.8.6)

憲法21条により、新聞記者に取材源を秘匿するための証言拒絶権が認められるか。

 

46.取材源に関する証言拒否と取材の自由(最決平19.10.3)

 民事事件において証人となった報道関係者が、民事訴訟法197条1項3号に基づいて取材源に係る拒絶をすることができるか。

 

47.外務省秘密漏洩事件(最決昭53.5.31)

 国家機密に対する取材につき、正当な取材活動として認められるのはどの範囲か

 

48.北海タイムス事件(最大決昭33.2.17)

 法廷内の写真撮影を、裁判所の裁量に委ねている刑事訴訟規則215条は、報道・取材の自由を侵害するか。

 

49.チャタレイ事件(最大判昭32.3.13)

 刑法175条のいわゆる「わいせつ文書」とは何か。刑法175条の規定は、憲法21条に違反しないか。

 

50.悪徳の栄え事件(最大判昭44.10.15)

 わいせつ性を有する文書が、同時に芸術性・思想性を有する場合であっても、刑法175条の処罰対象とするべきか。 

 

51.法廷メモ採取事件(最大判平元。3。8)

 筆記行為の自由や法廷内で傍聴人がメモを取る行為は、憲法21条により保障されるか。

 

52.軽犯罪法事件(最大判昭45.6.17)

 みだりに他人の家屋、工作物にはり札をする行為を禁止する軽犯罪法の規定は、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反するか。

 

53.戸別訪問事件(最判昭56.6.15)

戸別訪問を禁止する公職選挙法138条1項の規定は、政治的行為の自由を保障した憲法21条に違反するか。

 

54.岐阜県青少年保護育成条例事件(最判平元。9.19)

 本件条例の規定は、憲法21条1項に違反しないか。

 

55.営利抗告の制限(最大判昭36.2.15)

 本件広告の制限は、憲法21条に違反するか。

 

56。税関検査事件(最大判昭59.12.12)

 税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制は、憲法21条1項に違反するか。

 

57.北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)

 裁判所の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項で禁止されている検閲に当たるか。

 

58.第一次家永教科書事件(最判平5.3.16)

 教科書検定制度は、憲法21条2項で禁止される検閲に当たるか。また、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反しないか。

 

59.東大ポポロ事件(最大判昭38.5.22)

 大学の有する学問の自由と自治の保障は学生にも及ぶか。

 

60.小売市場事件(最大判昭47.11.22)

 小売市場開設の許可制は、営業の自由を侵害し、憲法22条1項に違反するか。

 

61.薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30

 薬局開設の許可基準として距離制限を定めた規定は、憲法22条1項に違反するか。

 

62.公衆浴場距離制限事件(最大判昭30.1.26)

 公衆浴場の営業許可に対する距離制限は、憲法22条1項に違反するか。

 

63.酒類販売業の免許制事件(最判平4.12.15)

 酒類販売業の免許制を定めた酒税法の規定は、憲法22条1項に違反するか。

 

64.帆足計事件(最大判昭33.9.10)

 国民に海外旅行の自由は保障されているか。

 

65.森林法共有林事件(最大判昭62.4.22)

 持分価額2分の1以下の共有者からの分割請求を禁止した森林法の規定は、憲法29条2項に違反しないか。

 

66.奈良県ため池条例事件(最大判昭38.6.26)

 憲法29条2項は「法律」で財産権の内容を制限できるとしているが、「条例」によって財産権を制限することは、憲法29条2項に違反しないか。

 

67.自作農創設特別措置法事件(最大判昭28.12.23)

 憲法29条3項の「正当な補償」とは、いかなる補償をいうか。

 

68.土地収用法事(最判昭48.10.16)

 土地収用法に基づき都市計画事業の用に供するために収用された土地の「補償」には、いかなる補償が必要か。

 

69.河川附近地制限令事件(最大判昭43.11.27)

 補償規定のない河川附近制限令は、憲法29条3項に違反して無効か。

 

70.第三者所有物没収事件(最大判昭37.11.28)

 第三者に対して手続を保障せずにその所有物を没収することは、憲法29条1項、31条に違反するか。

 

71.徳島市公安条例事件(最大判昭50.9.10)

 徳島市公安条例3条3項の遵守事項(「交通秩序を維持すること」)は、憲法31条に違反するか。

 

72.条例違反者に対する罰則(最大判昭37.5.30)

 法令に特別の定めがあるものを除くほかは、地方公共団体がその条例中に条例違反者に対して一定範囲の刑罰を科する旨の規定を設けることができると定める地方自治法14条1項・旧5項(現3項)およびそれに基づく本件条例は、憲法31条に違反しないか。

73.成田新法事件(最大判平4.7.1)

 憲法31条の適正手続の保障は、行政手手続にも適用されるか。

 

74.川崎民商事件(最大判昭47.11.22)

 刑事手続以外の手続にも憲法35条1項の礼状主義の保障が及ぶか。

 

75.高田事件(最大判昭47.12.20)

 憲法37条1項を根拠に、審理の打ち切りができるか。

 

76.裁判を受ける権利(最大判昭24.3.23)

 憲法32条は、具体的な管轄権を持つ裁判所の裁判を受ける権利まで保障しているか。

 

77.在宅投票事件(最判昭60.11.21)

 国会議員の立法行為に国家賠償法が適用されるか。

 

78.郵便法違憲事件(最大判平14.9.11)

 国の損害賠償責任を制限している郵便法の旧規定は、憲法17条に違反するか。

 

79.三井美唄事件(最大判昭43.12.4)

 公職選挙への立候補の自由は、憲法15条1項で保障されるか。

 

80.在外邦人選挙権制限違憲事件(最大判平17.9.14)

 在外国民に選挙権を認めていなかったことは憲法に違反するか。その後

在外国民に比例代表選出議員の選挙権のみを認めることは、憲法に違反するか。

 

81.朝日訴訟(最大判昭42.5.24)

 生活保護基準の設定は、厚生大臣の裁量に委ねられ、司法審査の対象とならないか。

 

82.掘木訴訟(最大判昭57.7.7)

 本件児童扶養手当法の併給禁止規定は、憲法25条に違反するか。

 

83.塩見訴訟(最判平元.3.2)

 国民年金法の国籍条項は、憲法14条、25条等に違反するか。

 

84.旭川学力テスト事件(最大判昭51.5.21)

 憲法23条の学問の自由は、①学問研究の自由、②研究発表の自由、③教授の自由を内容とするが、教授の自由は、普通教育課程の教師にも認められるか。

 

85.全農林警職法事件(最大判昭48.4.25)

 公務員の労働基本権を制限することは、憲法に違反しないか。

 

86.教科書費国庫負担請求事件(最大判昭39.2.26)

 憲法26条2項後段の「無償」の意味

 

87.議員の免責特権と国家賠償責任(最大判平9.9.9)

 国会議員の免責特権の限界

 

88.ロッキード・丸紅ルート事件(最大判平7.2.24)

 民間会社の旅客機導入につき、内閣総理大臣は職務権限があるといえるか。

 

89.板まんだら事件(最判昭56.4.7)

 信仰の対象の価値ないし宗教上の協議に関する判断が、裁判所による司法審査の対象となるか。

 

90.国家試験と司法審査(最判昭41.2.8)

 国家試験の合否判定は、司法審査の対象となるか。

 

91.警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7)

 国会の両院における法律制定の議事手続は、司法審査の対象となるか。

 

92.苫米地事件(最大判昭35.6.8)

 衆議院の解散は、司法審査の対象となるか。

 

93.村会議員出席停止事件(最大判昭35.10.19)

 地方議会における議員を出席停止とする懲罰決議が、司法審査の対象となるか。

 

94.富山大学単位不認定事件(最判昭52.3.15)

 大学における単位不認定行為は、司法審査の対象となるか。

 

95.共産党袴田事件(最判昭63.12.20)

 政党の除名処分に対して、司法審査できるか。

 

96.特別裁判所(最大判昭31.5.30)

 家庭裁判所は、憲法76条2項で禁止される特別裁判所に当たるか。

 

97.裁判を受ける権利と裁判の公開(最大判昭35.7.6)

 憲法82条により公開を要する裁判とは何か。

 

98.非訴訟手続法による過料の裁判の公開(最大判昭41.12.27)

 非訟事件手続法による過料の裁判は公開を要するか。

 

99.裁判官の分限処分と裁判の公開(最大判平10.12.1)

 裁判官の「積極的政治活動」を禁止することと憲法21条1項との関係。

 

100.国民審査の性格(最大判昭27.2.20)

 国民審査制度の法的性格は何か。

 

101.警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)

 最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるか。

 

102.砂川事件(最大判昭34.12.16)

 日米安保条約は、裁判所による司法審査の対象となるか。

 

103.福岡県青少年保護育成条例事件(最大判昭60.10.23)

 「淫行」の意義。

 

104。旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18.3.1)

国民健康保険料に租税法律主義を定める憲法84条が適用されるか。

 

105.パチンコ球遊器事件(最大判昭33.3.28)

 通達をきっかけに租税を課すのは、憲法84条の租税法律主義に反しないか。

 

106.定住外国人の選挙権(最大判平7.2.28)

 憲法15条1項の選挙権は、外国人にも保障されるか。

 

107.百里基地訴訟(最大判平元.6.20)

 国が行う私法上の行為は、憲法98条1項の「国務に関するその他の行為」に該当するか。

憲法重要判例(判例名・事案・争点・判旨・ポイント)

1. マクリーン事件(最大判昭53.10.4)

(事案)

アメリカ国籍のロナルド・アラン・マクリーンさん(X)は、1年の在留許可を受けて日本に滞在していたが、在留期間中にベトナム戦争反対運動等の政治活動に参加したことを理由として、法務大臣から在留期間の更新を拒否された。そのため、Xが不許可処分の取消しを求めた。

(争点)

    外国人に人権は保障されるか。外国人に基本的人権が保障されるとしてどの範囲で保障されるか。

    外国人に政治活動の自由は保障されるか。

    外国人に入国の自由、または、引き続き在留する自由は保障されるか。

(判旨)

「憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解するべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。

 しかしながら、憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されている者ではなく、外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているののではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内であたえられているにすぎないものと解するのが相当であって、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障があたえられているものと解することはできない。」

(ポイント)

    基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人にも及ぶ。権利の性質によって当該権利や自由が、外国人にも保障されるが否かが、区別されることになる。

    政治活動の自由については、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動等、外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ。原則として保障されるが、政治活動には、さまざまなものがあるので、そのすべてを外国人に保障するわけにはいかないからである。

    入国の自由・在留の権利については、保障されない。わが国の治安を守るためには、外国人に日本への自由な入国を認めるわけにはいかないからである。また、在留は、入国した後の延長線上の行為と考えられる。

 

2. 森川キャサリーン事件(最判平4.11.16)

(事案)

日本人と結婚し、日本に居住するアメリカ国籍の森川キャサリーンさん(X)は、過去に3度の海外渡航のための再入国の許可を受けていたが、1982年11月に韓国旅行の計画を立て、最重国の許可申請をしたところ、法務大臣Yはこれを不許可にとした。なお、不許可の理由は、Xが82年9月に外国人登録法に基づく諮問押なつを拒否したことであった、そこで、Xは、Yの不許可処分の取消しを求めた。

(争点)

外国人に再入国の自由は保障されているか。

(判旨) 

「わが国に在留する外国人は、憲法上、外国へ旅行する自由を保障されているものではないことは、昭和32年(外国人に入国する自由がないとした判決)と昭和53年(マクリーン事件判決)の最高裁判所大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。したがって、外国人の再入国の自由は、憲法22条により保障されないとした原審の判断は、正当として是認できる。」

(ポイント) 

外国人に再入国の自由は保障されていない。判例は、マクリーン事件雄で入国の自由を否定しえちる。再入国は、文字通り、再びの入国であり、その性質は入国だから、マクリーン事件と同じ結論になるのである。→再入国の自由・・・・

 

3. 外国人職員昇任試験拒否訴訟(最大判平17.1.26)

(事案)

東京都において、日本国籍を有することを要件としない職員ンお地位にあったXは、日本国籍を有することを要件とする管理職先行試験を受験しようとしたが、日本国籍を有しないことを理由に拒否されたため、国家賠償法に基づき、慰謝料の支払い等の請求をして出訴した。

(争点)

地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置をとることは、憲法14じぃおう1項に違反するか。

 

(判旨)

「地方公務員法は、一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本邦に在留する外国人(以下「在留外国人」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法19条1項参照9,普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではない。普通地方公共団体は、職員に採用した在留外国時について、国籍を理由として、給与、勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはならないものとされたおり(労働基準法3条、112条、地方公務員法58条3項)、地方公務員法24条6項に基づく給与に関する条例で定められるものというべきである。しかし、上記の定めは、普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではない・また、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。

原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり、我が国以外の国家に帰属し、その国家おとの間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。

 普通地方公共団体が上記のような管理職の信用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。

 職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても、合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではない。」

(ポイント)

 地方公共団体が、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置をとることは、憲法14条1項に違反しない。すなわち、外国人には公権力行使等地方公務員(具体例として、東京都の管理職)への就任権は保障されていない。国民主権主義から考えると、地方公共団体においても公権力を行使できるのは国民のみだからである。

4. 八幡製鐵事件(最大判昭45.6.24)

(事案)

八幡製鐵株式会社の取締役Yが会社名義で自由民主党に政治献金をした。

そこで、これに不満のある株主Xらは、Yらに対し、会社が被った損害を会社に支払うように求めて訴訟を提起した。

 

(争点)

    憲法上、政党はどのように位置づけられるのか。

    法人に政治的行為の自由(政治資金の寄付)は、保障されるのか。

    法人に政治的行為の自由(政治資金の寄付)は保障されるのか。

(判旨)

「憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。

 憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。しかし、会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担すに任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施設に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利およびぎみの各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと指示、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するものである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。

(ポイント)

    憲法は、政党の存在を当然に予定しており、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素である。

    憲法の人権規定は、権利の性質上可能な限り、法人にも提要される。この点は、外国人の人権とまったく同じ判断であることが注目される。

    会社も政治的行為をなる自由を有する。政治資金の寄附もその自由の一環である。つまり、、会社は政治献金をすることができるということ。会社にも、自然人(人間のこと)と同様に、その政治的意見があるからである。

 

5. 南九州税理士会政治献金事件(最判平8.3.19)

(事案)

 南九州税理士会は、税理士法改正運動のため政治団体に寄付する資金として、会員から特別会費を徴収する決議を行なったが、会員Xらはこの会費を納入しなかった。その後、Xらは、会の役員選挙の選挙権を剥奪された。このため、Xらが、特別会費納入義務の不存在確認と慰謝料の支払いを求めて訴えを提起した。

(争点)

強制加入団体である税理士会において、会員に政治献金のための協力義務を課すことは、会員の思想・良心の自由を侵害するものであり、政治献金をすることは税理士会の目的の範囲外の行為ではないか。

(判旨)

「税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法49条1項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。しなわち、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲について会社と同一に論ずることはできない。税理士会は、法が、あらかじめ、税理士会にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣(現財務大臣)の監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない。政党など規正法上の政治団体に対して金員を寄付するかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきである。」

(ポイント)

税理士会が政党などの政治的団体に寄付すること(政治献金)は税理士会の目的の範囲外の行為であり、そのために特別会費を徴収する決議は無効である。八幡製鉄事件、つまり会社による政治献金とはまったく逆の結論であることに注意。

6. よど号ハイジャック新聞記事抹消事件(最大判昭58.6.22)

(事案)

 拘置所に拘留されていたXらは、私費で新聞を購読していたが、拘置所長が、よど号ハイジャックに関する記事を塗りつぶした新聞を配布した。これに対して、Xらは、「知る権利」を侵害されたとして、国家賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

未決拘留者の新聞・図書等の閲読を制限した急監獄法1條2項・旧監獄法施行規則86条1項は、知る権利を保障した憲法21条に反しないか。

※監獄法は、平成18年に全面改正され、現在は、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が新法として成立・施行されている。

※未決交流とは、逃亡や証拠隠滅を防止するため、刑事事件の被疑者・被告人の身柄を拘束する刑事手続上の強制処分である。

(判旨)

 「およそ各人が、自由に、さまざまな違憲、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として事故の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、これらの違憲、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲覧の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべての国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。しかしながら、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制約を受けることがあることもやむをえないものといわなければならない。

監獄は、内部における規律及び秩序を維持し、その正常を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決拘留によって拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、」やむをえないところというべきである。そして、この場合において、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これらに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。

監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。したがって、右の制限が許されるためには、当該閲覧を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲覧を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。

(ポイント)

 監獄内の規律および秩序維持のために必要とされる場合、拘禁された者の行為の自由に一定の制限を加えることはやむをえない。新聞閲読の自由を制限する規定は、憲法21条に違反するものではない。つまり、閲読の自由の制限も合憲である。

7. 禁煙処分事件(最大判昭45.9.16)

(事案)

 未決拘留中であったXは、旧監獄法施行規則96条に基づき喫煙を禁止されたため、国を相手に、禁煙処分によって精神的苦痛を被ったとして国家賠償請求の訴えを提起した。

(争点)

在監者に対して喫煙を禁止する旧監獄法施行規則96条は、憲法13条に違反するか。

(判旨)

 「喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。したがって、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の制限は、必要かつ合理的なものであると解するのが相当であり、監獄法施行規則96条中未決拘留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定が憲法13条に違反するものといえないことは明らかである。

(ポイント)

 喫煙の自由はあらゆる時、所において保障されなければならないものではないので、未決拘留者の喫煙を禁止する規定は、憲法13条に違反しない。合憲である。禁煙化が進んでいる現在では、ほとんど常識的な内容である。

8. 校則によるバイク制限(最判平3.9.3)

(事案)

  校則にバイクに関するいわゆる「三ない原則」(免許を取らない、乗らない、買わない)を定める私立学校Yに通学するXは、これに反して免許を取得し、親にバイクを買ってもらった。このバイクを通学には使用していなかったが、頼まれて友人に貸したところ、これを転借した別の生徒が無免許運転で人身事故を起こし逃走、後日これらが発覚し、学校から自主退学を勧告され、退学した。その後、Xは、Yのこの措置を違憲・違法な校則に基づく退学処分にあたると主張して、Yを相手に損害賠償を請求した。

(争点)

校則によるバイク制限は違憲・違法か。

(判旨)

 「所論は、いわゆる三ない原則を定めた本件校則及び本件校則を根拠としてされた本件自主退学勧告は憲法13条、29条、31条に違反する旨をいうが、本件自主退学勧告について、それが直接憲法の右基本的保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はないものというべきである。本件校則が社会通念上不合理であるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

(ポイント)

 バイクの三ない原則はm社会通念上不合理ではない。

9. 三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)

(事案)

 大学卒業と同時に三菱樹脂株式会社に入社したXは、学生運動歴等についての虚偽申告を理由として、3か月の使用期間満了とともに本採用拒否の告知を受けた。これを不服としたXは、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを求める訴えを提起した。

(争点)

    憲法の人権規定は、私人間に適用されるか。

    企業が従業員の思想・信条を理由として雇用を拒否することは、憲法12条、14条に違反しないか。

    企業者が労働者の雇用にあたりその思想・信条を調査することは許されるか。

(判旨)

 「憲法19条、14条の規定は、同法第2章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的にでたもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。

 私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社旗的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によってその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的目的に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するものである。

 ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために当事者を雇傭するにあたり、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。

 企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。」

(ポイント)

    憲法19条、14条の規定は、直接私人間の関係には適用されない。すなわち、直接運用説は採用していない。

    企業者は契約締結の自由を有し、いかなる者を雇いいれるかについて原則として自由に決定することができるので、特定の思想・信条を有する労働者をそれゆえをもって雇用を拒んでも、当然に違法とはならない。

    企業者が、採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し申告を求めても、違法ではない。

10.      昭和女子大事件(最判昭49.7.19)

(事案)

 保守的校風をもって教育の指導精神とする私立大学はYは、その指導精神に基づき「生活要録」を定めていたが、Xらは、この要録の規定に反して、無届けで政治的暴力的行為防止法案に対する反対署名運動を行い、許可なく外部政治団体に加入を申し込み、または、すでに無許可で加入していた。

 これに気づいたYは、Xらに対し害部政治団体からの離脱を求めたが、Xらは週刊誌やラジオ等において大学の対応を公表するなど、対決姿勢を明らかにしたため、Yは、同大学学側の「学内の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した」ものに該当するとして、退学処分に付した。Xらはこれに対して身分確認訴訟を提起した。

 

(争点)

    憲法の人権規定は、大学の「生活要録」に直接適用されるか。

    大学が学生の政治的活動につき広範な規律を及ぼすことは許容されるか。

    退学処分に合理性があるか。

(判旨)

「憲法19条、21条、23条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であって、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然ン位適用ないし類推適用されるものではないことは、当裁判所大法廷判例(最大判昭和48年12月12日、三菱樹脂事件)の示すところである。したがって、その趣旨に徴すれば、私立学校である被上告人大学の学則の細則ととしての性質をもつ前記生活要録の規定について直接憲法の右基本権保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はないものというべきである。

 大学は、国公立であると私立であると問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、学生としてもまた、当該大学に入学するものと考えられるのであるから、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。私立大学のなかでも、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有する大学が、その教育方針に照らし学生の政治的活動はできるだけ制限するのが教育適当であるとの見地から、学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもって直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。

 大学当局が、上告人らに同大学の教育方針に従った改善を期待しえず教育目的を達成する見込みが失われたとして、同人らの一連の行為を「学内の秩序を乱し、その他学生としても本分に反した」ものと認めた判断は、社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたく、結局、本件退学処分は、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである。」  

(ポイント)

①憲法19条、21条、23条等の自由権的基本権の保障規定は、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されない。つまり、三菱樹脂事件と同様の間接的溶接である。

②私立大学が、教育上適当であるとの見地から、学内およに学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。

    学校当局の措置が、学生の責任を追及することに急で、反省を求めるために説得に努めたとはいえないもんぽであったとしても、他方、当該学生が、学校当局の要求に従う意思はなく、説諭に対して終始反発したうえ、週刊誌や学外集会等において公然と学校当局の措置を非難するような行動をしたなどの事情があるときは、退学処分は、学長に認められた裁量権の範囲外にある。

 

11.日産自動車事件(最判昭56.3.24)

 (事案)

日産自動車では、就業規則で女性の定年年齢を男性より低く定められていた。この規定に基づき定年退職を命じられた女性Xらが、雇用関係の存続の確認を求めて訴訟を提起した。

(争点)

 企業の就業規則中、男女で異なる定年年齢を定めることは、憲法14条、民法90条に違反しないか。

※民法90条は、「公の秩序または善良の風俗(公序良俗)に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」という規定である。

(判旨)

 「就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着する者であり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法14条1項 民法2条参照)。」

(ポイント)

 女性の定年年齢を男性よりも低く定めた就業規則は、専ら女子であることのみを理由とした差別であり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、憲法14条1項の趣旨に反し、民法90条により無効である。→間接的溶接の具体例となる判例である。

●人権の私人間効力についての間接適用説(判例)

 私法の一般条項(民法90条等)第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 企業

  ↓       ←民法〇浄    ← 憲法◎条

 従業員

 

12.京都府学連事件(最大判昭44.12.24)

(事案)

 学生Yは、京都府学連主催のデモ行進に参加した。行進中、行進の仕方が許可条項に反すると判断した警察官が、状況等の確認のためデモ隊を写真撮影した。Yは、これに抗議して、警察官に暴行を加え、公務執行妨害罪などで起訴された。

(争点)

            肖像権は、憲法上の人権として保障されるか。

          警察官が被写体の同意なく写真撮影をする行為は許されるか。

(判旨)

 「憲法13条は、「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定されているのであって、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の1つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼうを撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

 しかしながら、個人の有する自由も、国家権力の行使から無制限に保護される訳ではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を検査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の1つであり、警察にはこれを遂行する責務があるのであるから、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。

 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許可されるべきものと解すべきである。すなわり、現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当の方法をもって行われるときである。このような場合に行われる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになっても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。」

(ポイント)

    何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が正当な理由もないのに個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し許されない。すなわち、肖像権は保障される。ただし、公共の福祉による制限を受けることにも注意。

●肖像権

 憲法13条から保障される

  しかし

公共の福祉によって制限される

②①犯罪の現在性、②証拠保全の必要性・緊急性、③方法の相当性を満たせば、同意・令状がなくても警察官による写真撮影は許される。

 

13.自動速度監視装置事件(最判昭16.2.14)

(事案)

 Yが、最高速度時速50Kmとされた道路を時速121kmで車で走行中、自動速度監視装置によって写真撮影され、道路交通法違反で起訴された。

(争点)

 自動速度監視装置におる速度違反車両の運転者、同乗者の容ぼうの写真撮影は、憲法13条に違反するか。

(判旨)

 「速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反しない。

また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条、21条に違反しない。 

(ポイント)

 自動速度監視装置による速度違反車両の運転者、同乗者の容ぼうの写真撮影は、憲法13条に違反しない。合憲である。

 本件のスピード違反に対する写真撮影が、「憲法13条に違反する。肖像権侵害だ」とするYの主張は、常識的に考えて通らないであろう。

 

14.被疑者の肖像権(最判平17.11.10)

(事案)

 Xは、平成10年7月に和歌山市内で発生したカレーライスへの毒物混入事件等につき、殺人罪等により逮捕、拘留され、起訴された被告人であり、Yらは、写真週刊誌を発行し、またその編集などをしていたものである。

 Yらは、Xの被疑者段階における勾留理由開示手続において、閉廷直後の時間帯に、裁判所の許可を得ることなく、かつ、Xに無断で、傍聴席から、手錠をされ、腰縄を付けられた状態にあるXを撮影し、その写真を雑誌に掲載した。

 また、Yらは、同雑誌の別の号において、Xの法廷内における容ぼう等を描いた3点のイラスト画と文書から成る記事を掲載し、発行した。このイラスト画のうち1枚は、Xが手錠、腰縄により身体に拘束を受けている状態が描かれているものであり、他の2枚は、Xが訴訟関係人から資料を見去られている状態が描かれたものと手振りを交えて話しているような状態が描かれていたものであった。

 これらについて、Xが、Yらうぃ相手取り、名誉棄損などを理由として、不法行為による損害賠償の訴えを提起した。

(争点)

    写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう、姿態を撮影した行為は、不法行為法上違法となるか。

    人の容ぼう、姿態を描写したイラスト画を公表する行為は不法行為法上違法となるか。

(判旨)

 「本件写真週刊誌のカメラマンは、刑事訴訟法215条所定の裁判所の許可を受けることなく、被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり、その撮影の態様は相当なものとはいえない。また、被上告人は、手錠をされ、腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたものであり、このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も極めて認め難い。本件写真の撮影行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上違法であるとの評価を免れない。そして、このように違法に撮影された本件写真を、本件写真週刊誌に掲載して公表する行為も、被上告人の人格的利益を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである。

 法廷において、被上告人が訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれたイラスト画を公表する行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を侵害するものとはいえないというべきである。したがって、上記イラスト画を、本件写真週刊誌に掲載して公表した行為については、不法行為上違法であると評価することはできない。しかしながら、被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたイラスト画を公認する行為は、被上告人を侮辱し、被上告人の名誉感情を侵害するものというべきであり、同イラスト画を、本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上違法と評価すべきである。

(ポイント)

    写真週刊誌のカメラマンが、拘留理由開示手続が行われた法廷において被疑者の容ぼう、姿態をその承諾なく撮影した行為は、手錠をされ、腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう、姿態を、裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなどかの事情の下においては、不法行為法上違法である。

    刑事事件の被告人について、法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態および手振りを交えて話しているような状態の容ぼう、姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載した行為は、不法行為法上違法であるとはいえない。

一方、刑事事件の被告人について、法廷において手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう、姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は、不法行為法上違法である。

 「

15.前科照会事件(最判昭56.4.1)

(事案)

 Xは、政令指定都市の区長が、弁護士会からの前科等の照会に応じたことにより、前科を公表された。そこで、Xは、区長の行為を過失による公権力の行使であるとして国家賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

 みだりに前科等を公表されないという利益は、法律上の保護に値するか。

(判旨)

 「前科及び犯罪経歴(以下、「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに更改されないという法律上の保護に値する利益を有するのであった、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。

 市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。

(ポイント)

 前科等は人の名誉、信用に直接関わる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されない法律上の保護に値する利益を有する。→みだりに前科等を公開されない利益・・・〇

16.ノンフィクション「逆転」事件

 (事案)

 Xは、傷害罪の実刑判決を受けた後、就職・結婚をして平穏な生活をしていたが、のちにYが執筆したノンフィクション小説「逆転」によって、その実名を掲載され、前科に関する事実が公表されることとなった。そのため、Xは、Yに対して、プライバシー侵害を理由に損害賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

    ノンフィクション作品において前科等を公表されない利益は、法的保護に値するか。

    前科等を実名で公表された者は、いかなる場合に損害賠償を求めうるか。

(判旨)

 「ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接かかわる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである。この理は、右の前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても変わるものではない。

 前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされた場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。

(ポイント)

①前科等を公表されない利益は、法的保護に値する。前科は、誰でも隠しておきたい個人情報の最たるものだからである。

②前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越する場合には損害賠償を求めうる。いわゆる慰謝料請求が認められる。

17.外国人指紋押なつ拒否事件(最判平7.12.15)

 (事案)

 日経外国人Yが、外国人登録原票、登録証明書等に指紋の押なつをしなかったため、、旧外国人登録法に違反したとして起訴された。

(争点)

    指紋押なつを強制されない自由は、憲法13条で保障されるか。

    旧外国人登録法の指紋押なつ制度は、憲法13条に違あ反するか。

※外国人登録法の指紋押なつ制度は、平成11年に廃止された。なお、平成19年11月20日から、改正出入国管理及び難民認定法に基づいて、特別永住者などを除いた16歳以上の外国人は、日本に入国するときに、指紋と顔写真を提供した上で、入国審査官の審査を受けることになった。

(判旨)

 「憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを想定している解されるので、個人の私生活上の自由の1つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく、指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及びと解される。

 しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のために必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法13条に定められているところである。

 外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度は、「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定できるものである。また、本件当時の制度内容は、押なつ義務が3年に1度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。

 右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法が憲法13条に違反するものでないことは明らかである。」

(ポイント)

    何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する。

→みだりに指紋の押なつを強制されない自由・・・〇

この保障はわが国に在留する外国人にも等しく及ぶ。

②指紋押なつ制度の立法目的には、十分な合理性があり、その必要性も肯定でき、方法としても一般的に許容される限度を超えない相当なものであるので、憲法13条に違反しない。合憲である。

 

18.エホバの証人輸血拒否事件(最判平12.2.29)

(事案)信仰上の理由から輸血拒否の信念を有していたXは、手術前に、手術中いかなる事態となっても輸血を拒否する旨の意思表示をしていたが、A病院ならびに担当医師Yは、輸血以外の手段がなければ輸血する方針を採っていたものの、Xに対してはそのことを説明しないまま手術をし、輸血を行った。そこで、Xは、精神的損害を被ったとして、損害賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

 宗教上の信念に基づき輸血を拒否する権利は、保障されているか。

(判旨)

「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否することの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。そして、Xが、宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有しており、輸血を伴わない手術を受けることができると期待してA病院に入院したことをY意思らが知って板など本件の事実関係の下では、Y医師らは、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には、Xに対し、A病院としてはそのような事態に至ったときには輸血するとの方針を採っていることを説明して、A病院への入院を継続した上、Y医師らの下で本件手術を受けるか否かをX自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。

 本件においては、Y医師らは、右説明を怠ったことにより、Xが輸血を伴う可能性のあった本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、この点において同人の人格権を侵害したものとして、同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである。

(ポイント)

 宗教上の信念に基づき輸血を拒否する意思決定をなす権利は、人格権の一内容として尊重されなければならず、この権利を奪った場合には、不法行為責任を負うことになる。

 ●判例上認められた新しい人権の具体例

①肖像権

    前科を公表されない権利

    指紋押なつを強制されない権利

④自己決定権(考え方自体は認めていると解釈されている)

 

19.憲法14条1項後段の列挙事項(最大判昭39.5.27)

 

(事案)

町長Yが、過員整理のため、町の条例に基づいて55歳以上の職員であるXに待命処分をした。そこで、Xは、この処分につき無効確認などの訴えを提起した。

※待命処分とは、公務員がその地位を保持しながら、一時的に職務を担当しないことを命ずる処分をいう。

(争点)

    憲法14条1項の列挙事項は、限定列挙か例示列挙か。

    憲法14条は、合理的理由に基づく差別的取扱いを許容するか。

    年齢による差別的扱いをした処分は、憲法14条に違反するか。

(判旨)

「憲法14条1項及び地方公務員13条にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、講令であるということは右の社会的身分に当たらないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法条に列挙された事由は例示的なものであって、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当である。

 右各法上は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。

 55歳以上の高令であることを特命処分の一応の基準とした上、しかも、その勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件特命処分に出たことは、神明権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないから、憲法14条1項及び地方公務員法13条に違反するものではない。

(ポイント)

    憲法14条1項の列挙事項は、例示列挙である。

    合理的理由に基づく差別的取扱いは、憲法14条1項に違反しない。

    年齢を一応の基準とした本件処分は、任命権者の裁量の範囲内である。

憲法14条1項

 列挙事項の意味→例示列挙

 平等の意味→絶対的平等・・X(合理的区別OK

 

20.尊属殺重罰規定事件(最大判昭48.4.4)

 尊属を殺害する行為の刑を普通殺人より加重し、無期懲役と死刑に限っている刑法旧200条は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反しないか。

(事案)

実父から長年夫婦同様の生活を強いられてきた女性Yが、実父を殺害し、刑法給00条の尊属殺人罪で起訴された。

(争点)

 尊属を殺害する行為の刑を普通殺人罪より加重し、無期懲役と死刑に限っている刑法急00条は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反しないか。

※刑法200条は、平成7年違削除された。本判決当時は、「自己又は配偶者の直系尊属を殺したる者は死刑又は無期懲役に処す。」とする規定であった。

(判旨)

「刑法200条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰し、もって特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。ところで、およそ、親族は、互いに自然的な敬愛と親密の情によって結ばれていると同時に、その間おのずから長幼の別や責任の分担に伴う一定の扶序が存し、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であって、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる。

 尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがって、また、憲法14条1項に違反するということもできないものと解する。

 しかし、加重の程度が極端であって、立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。

 この観点から刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役刑のみであり、普通殺人罪に関する同法199条の法定刑が、死刑、無期懲役刑のほか3年以上の有期懲役刑※となっているのと比較して、刑種選択の範囲が極めて重い刑に限られていることは明らかである。

 尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点(現行刑法上、これは外患誘致罪を除いても最も重いものである。)においてあまりにも厳しいものというべく、上記のごとき立法目的、すなわち、尊属に対する敬愛や報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点のみをもってしては、これという自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点のみをもってしては、これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり、合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはとうていできない。

 以上のしだいで、刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通刑に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがって、尊属殺にも刑法199条を適用するほかはない。」

※刑法199条は、平成16年に、有期懲役刑の下限が3年から5年に引上げられた。

(ポイント)

 尊属殺を類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、ただちに合理的な根拠を欠くものということはできず、憲法14条1項に違反するということもできない。しかし、刑法給00条は、法定刑を死刑または無期懲役のみに限っている点において、普通殺人罪の199条法定刑に比して著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条に違反して無効である。

→違憲判決

●尊属殺人について

  刑を加重すること自体 → 合憲

  しかし

  刑を死刑・無期懲役にすること → 違憲

21.女子再婚禁止期間事件(最判平7.12.5)

 (事案)

 Xは婚姻届を提出したが、前婚解消後6か月の再婚禁止を規定した民法733条に反するとして、届出は受理されず、禁止期間が経過した後に婚姻した。そこで、Xは、民法733条により、婚姻の届出の受理が遅れ精神的損害を被ったとして、国会や内閣の立法不作為による国家賠償を求める訴えを提起した。

(争点)

女性の6か月の再婚禁止期間を定める民法733条は、憲法14条に違反しないか。

※民法733条1項は、「女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない」という規定である。

(判旨)

「合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反するものではなく、民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されている以上、国会が民法733条を改廃しないことが直ちに国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。」

(ポイント)

 民法733条の規定は、憲法14条に違反しない。つまり、合憲である。

 

22.非摘出子相続分規定事件(最大決平7.7.5)

(事案)

 非摘出子であったXは、遺産相続に際して、民法900条4項ただし書は憲法14条1項に反し無効であるとして、平等な割合による遺産分割を求めた。 

(争点)

  非摘出子の法定相続分を摘出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの規定は、憲法14条1項に違反し無効であるか。

※民法900条4項は、「子・・・が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、摘出でない子の相続分は、摘出である子の相続分の2分の1と・・・する」という規定である。

(判旨)

「本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した摘出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である非摘出子の立場にも配慮して、非摘出子に摘出子の2分の1の法定総相続分を認めることにより、非摘出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非摘出子の保護の調整を図ったものと解される。これを言い換えれば、民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。

 現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が非摘出子の法定相続分を摘出子の

2分の1としたことが、右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、合理的理由のない差別とはいえず、憲法14条1項に反するものとはいえない。」

(ポイント)

 民法900条4号ただし書の規定は、憲法14条1項に反しない。つまり、合憲である。

→その後、民法が改正され、次のようになりました。

非嫡出子が相続人になる場合、法定相続分は嫡出子と同じです。

以前は非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする旨が民法に規定されていましたが、平成2594日付の最高裁決定により、同規定は憲法第14条に定められる、「法の下の平等」に反し違憲である旨が示されました。

その後、同年125日の民法改正により当該規定は削除され、嫡出子と非嫡出子の法定相続分を同じとする現行のルールに落ち着きました。

 

23.生後認知児童国籍確認事件(最大判平20.6.4)

 (事案)

 国籍法2条1号は、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」、日本国籍を取得するとする。したがって、婚外子の場合、父から胎児認知を受けていれば、生来的に日本国籍を取得する。

 また、国籍法3条1項は、「父母の婚姻及びその認知により摘出子たる身分を取得した子」は、法務大臣に届け出ることで、日本の国籍を取得することができるとする。

 そうすると、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子は、父からの生後認知を受けても、父母の婚姻によって準正の摘出子たる身分を取得しなければ、日本国籍を取得できないことになる。

 このような法律関係にあって、法律上の婚姻関係にない日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に本邦において出生したXらが、出生後父から認知を受けたことを理由として平成17年に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ、国籍取得の条件を備えておらず、日本国籍を取得していないものとされた。そこで、Xらは、日本国籍を有することの確認を求めて訴えを提起した。

(争点)

国籍法3条1項は、憲法14条1項に違反しないか。

(判旨)

「本件区別については、これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの、立法自体との間における合理的関連性は、我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており、今日において、国籍法3条1項の規定は、日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも、日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非摘出子に対して、日本国籍の取得において著しく差別的取扱いを生じさせていたといわざるを得ず、国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても、この結果について、上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。

 そうすると、本件区別は、遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には、立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものになっていたと解される。

 したがって、上記時点において、本件区別は合理的な理由のない差別になっていたといわざるを得ず、国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは、憲法14条1項に違反するものであったというべきである。

日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し、父から出生後に認知された子は、父母の婚姻により摘出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは、同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。」

(ご参考)

憲法14条1項

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(ポイント)

 日本人の父と外国人の母との間に出生した子は、父からの生後認知を受けても、父母の婚姻によって摘出子の身分を取得しなければ、日本国籍を取得できないことになる国籍法3条1項は、遅くとも平成17年当時において、憲法14条1項に違反する。→違憲判決

 

24.衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭51.4.14)

(事案)

 昭和47年に行われた衆議院銀総選挙において、各選挙区間の議員1人当たりの有権者数の格差が4.99対1に達していた。これを理由として、公職選挙法204条に基づき、選挙無効の訴えが提起された。

(争点)

     憲法14条に定める法の下の平等には、選挙における投票価値の平等に含まれるか。

    最大5対1に達する不均衡をもたらす定数配分規定は、違憲であるか。

    憲法違反の議員定数配分規定に基づいて行われた選挙は無効であるか。

(判旨)

「選挙権の平等は、単に選挙人資格に対する制限の撤廃による選挙権の拡大を要求するにとどまらず、更に進んで、選挙権の内容の平等、換言すれば、各選挙人の投票の価値、すなわち各投票が選挙の結果に及ぼす影響力においても平等であることを要求せざるをえないものである。各投票人の投票価値に実質的な差異が生ずる場合には、常に右の選挙権の平等の原則との関係で問題を生ずる。各選挙候補者に投じた1票がその者を議員として当選させるために寄与する効果に大小が生ずる場合もまた、その一場合にほかなえあない。憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である。

 投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。本件議員定数配分規定をみると、著しい不均衡は、かなり以前から選挙権の平等の要求に反すると推定される程度に達していたと認められることを考慮し、更に、公選法自身施行後5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更生するのを例とする旨を規定しているにもかかわらず、昭和39年の改正後本件選挙まで8年余りにわたってこの点についての改正がなんら施されていないことをしんしゃくするときは、前記規定は、憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がなされてなかったものと認めざるをえない。それ故、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲を断ぜられるべきものであったというべきである。そして、選挙区割及び議員定数の配分は、不可分の一体をなすと考えられるから、右配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招来している部分のみではなく、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。

 本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであることは上記のとおりであるが、そのことを理由としてこれを無効とする判決をしても、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずる。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違憲である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当である。

(ポイント)

    憲法14条1項は、各選挙人の投票価値の平等も要求する。

    したがって、最大格差約5対1に達する定数配分規定は、全体として違憲である。→違憲判決

    しかし、本件選挙は違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体は無効としない。事情を考慮した「事情判決の法理」を用いた。

●議員定数について

  憲法14条1項は投票価値の平等も要求

 したがって

最大格差約5倍の定数配分規定は違憲

 しかし

本件選挙自体は無効としない

 

25.衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭60.7.17)

(事案)

 昭和58年12月18日施行の衆議院議員選挙における定数配分は、昭和50年の改正によるものであるが、この改正の結果、昭和45年10月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差は最大4.8対1から2.92対1に縮小したところ、昭和55年6月施行の衆議院議員選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差は最大3.94対1に達し、さらに本件選挙当時においては、その較差が最大4.40対1に拡大するに至っていた。

 そこで、広島県第一区における選挙について、同選挙区の選挙人Xらがその無効を求めた。

(争点)

 本件衆議院議員選挙における議員定数配分規定が、直ちに憲法違反となるか。

(判旨)

「公職選挙法の制定又はその改正により具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票に有する価値に不平等が存し、あるいわその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。

 もっとも、制定又は改正の当時合憲であった議員定数配分規定の下における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。)の較差がその後の人口の異動によって拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至った場合には、そのことによって直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われるないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。

 本件選挙当時の右格差が選挙区間における投票価値の不平等はは、選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙の制度の下で、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものというべきであり、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかったものと評価せざるを得ない。したがって、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。

(ポイント)

 衆議院議員定数不均衡に関する2つ目の違憲判決である。

 最大格差約4.40対1という選挙区間における投票価値の不平等は、合理性を有するものとは考えられない程度に達していたというべきであり、また、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかったものと評価せざるを得ないから、本件議員定数配分規定は、

本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲である。→違憲判決

 憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて憲法に違反するものというべきであるとする、合理的期間論を採用している。

 

26.参議院議員定数不均衡訴訟(最大判平12,9.6)

(事案)

 平成10年に施行された参議院議員選挙において、最大格差が4.98対1となっており、いわゆる逆転現象(選挙人の多い選挙区の議員定数よりも少なくなっている現象)も生じていた。これを理由として、公職選挙法204条に基づき、選挙無効の判決を求める訴えが提起された。

(争点)

約5対1の投票価値の不平等をもたらす参議院議員選挙の定数配分規定は、憲法に違反するか。

(判旨)

 参議院議員の選挙制度の仕組みの下においては、投票価値の平等の要求は一定の譲歩を免れないところであり、また、較差をどのような形で是正するかについては種々の政策的又は技術的な考慮要素が存在する。さらに、参議院(選挙区選出)議員について、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解される。これらにかんがみると、本件改正の結果なお右のような格差が残ることとなったとしても、右の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、本件改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえない。そして、前述のような本件改正後の本件定数配分規定の下における議員1人当たりの人口の較差及び選挙人数の較差の推移にかんがみると、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」

(ポイント)

 衆議院議員選挙では意見になる約5倍の較差であっても、参議院議員選挙では合憲である。

27.売春条例事件(最大判昭33,10.15)

(事案)

 Yは東京都内において料亭を経営していた者であるが、同料亭内で複数の従業員に不特定の客を相手に売春をさせ、その報酬の一部を自ら取得していた。このため、東京都の売春等取締条例違反により罰金に処せられた。Yは、控訴も棄却されたので、上告した。

(争点)

 条例による地域差は、憲法14条に違反しないか。

(判旨)

「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである。それ故、地方公共団体が売春の取締について各別に条例を制定する結果、その取締に差別を生ずることがあっても、所論のように地域差の故をもって違憲ということはできない。」

(ポイント)

 憲法が各地方公共団体に条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは当然に予期されるから、条例による地域差は、憲法14条に違反しない。

 

28.サラリーマン税金訴訟(最大判昭60.3.27)

(事案)

 Xは、私立大学の教授であるが、所得税について雑所得があるのに確定申告をしなかったため、税務署長により、それを加算した決定および無申告加算税の賦課決定がなされた。Xは、不服申立てを経て、本件課税処分の取消しを求めて出訴した。

(争点)

    租税の分野における所得の性質の違いなどを理由とする取扱いの区別について、憲法14条1項に違反するかどうかの判断基準は何か。

    事業所得等に係る必要経費については、事業所得者等に実際に要した金額による実額控除を認めているのに対し、給与所得については、必要経費の実額控除を認めず、代わりに同法定所得による概算控除を認める旧所得税法の規定は、憲法14条1項に違反しないか。

(判旨)

 「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。

 旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者との租税負担の均衡に配慮しつつ、右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ、右の目的は正当性を有するものというべきである。本件訴訟における全資料に徴しても給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の前記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であって、右給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ない。旧所得税法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた前記の区別は、合理的なものであり、憲法14条1項の規定に違反するものではないというべきである。

(ポイント)

①租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が当該目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法14条1項に違反しない。

②給与所得の金額の計算につき必要経費の実額控除を認めない旧所得税法の規定は、憲法14条1項に違反しない。

 

憲法14条1項

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

29.謝罪広告事件(最大判昭31.7.4)

(事案)

 衆議院議員総選挙に立候補したYは、選挙運動中、対立候補であるXが汚職をした旨の公表をした。そのため、Xは、虚偽の事実の公表により名誉を毀損されたとして、名誉回復のための謝罪文の掲載を求めて訴えを提起した。一審、二審でYに対して謝罪広告の掲載を命ずる判決が出されたので、Yは謝罪広告の強制は良心の自由を侵害するものであるとして争った。

(争点)

 謝罪広告の掲載を命ずる判決は、思想・良心の自由を侵害するか。

(判旨)

「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度の謝罪広告を新聞紙に掲載するべきことを命ずる原判決は、倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない。」

(ポイント)

 単に事態の真相を告白し、陳謝の意を表する程度のものである謝罪広告を強制する判決は、憲法19条に違反しない、つまり、謝罪広告は合憲である。

 

憲法19条

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 

30.加持祈祷事件(最大判昭38.5.15) 

(事案)

 Yは、精神障害の治療のため、Aに対して加持祈祷を行ったが、その結果、Aは急性心臓麻痺で死亡し、Yは傷害致死罪(刑法205条)の有罪判決を受けた。そのため、Yが信教の自由を理由に上告した。

(争点)

精神障害の治療のために加持祈祷を行い、患者を死亡するに至らしめたような場合でも、憲法20条1項により保障される宗教的行為といえるか。

(判旨)

 「被告人の本件行為は、被害者Aの精神障害平癒を祈願するため、線香護摩による加持祈祷の行としてなされたものであるが、被告人の右加持祈祷行為の動機、手段、方法およびそれによって右被害者の生命を奪うに至った暴行の程度等は、医療上一般に承認された精神障害者に対する治療行為とは到底認め得ないというのである。しからば、被告人の本件行為は、一種の宗教行為としてなされたものであったとしても、他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たるものであり、これにより被害者を死に到したものである以上、被告人の右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであって、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかはない。」

(ポイント)

 他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な行為は、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱している。つまり、保障されない。

憲法20条1項

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

 

31.宗教法人の解散命令(最決平8.1.30)

(事案)

 A宗教法人は、その代表役員Bが多数の信者とともに大量殺人を目的として計画的、組織的に毒ガスの一種であるサリンの生成を企てた行為が、宗教法人法81条1項1号の「法例に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」および2号前段の「・・・・・宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」に該当するとして、解散命令を受けた。これに対し、Aは、信者の信教の自由を害すると主張した。

(争点)

宗教法人法に基づく宗教法人の解散命令は、憲法20条1項の信教の自由を侵害するか。

(判旨)

 「宗教法人の解散命令の制度は、専ら宗教法人の世界的側面を対象とし、かつ、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に溶かいする意図によるものではなく、その制度の目的も合理的であるということができる。そして、代表役員であったB及びその指示を受けた多数の幹部は、大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、計画的、組織的にサリンを生成したというものであるから、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたことが明らかである。右のような行為に対するには、抗告人を解散し、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、他方、解散命令によって宗教団体であるオウム真理教やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる。したがって、本件解散命令は、宗教団体であるオウム真理教やその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、必要でやむを得ない法的規制であるということができる。

 宗教上の行為の自由は、もとより最大限に尊重すべきものであるが、絶対無制限のものではなく、以上の諸点にかんがみれば、本件解散命令及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は、憲法20条1項に違背するものではない。」

(ポイント)

 宗教法人法に基づく宗教法人の解散命令は、憲法20条1項に違反しない。つまり、合憲である。

 

憲法20条1項

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

 

32.津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13)

(事案)

 津市は、市体育館の竣工にあたり、神道式の地鎮祭を挙行し、その費用を市の公金から支出した。当時市議会議員であったXは、当該支出行為は、憲法20条3項および89条に反する違法なものであるとして、地方自治法242条の2(住民訴訟)に基づき、市長Yに対し、本件支出によって市が被った損害の填補を請求した。

(争点)

    政教分離原則とはどのような法的性格のものか。

    憲法20条3項が禁止する「宗教的活動」とはどのような行為か。

    本件神道式の地鎮祭は「宗教的活動」にあたるか。

(判旨)

「元来、政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であって、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信協の自由の保障を確保しようとするものである。ところが、宗教は、極めて多方面にわたる外部的な社会事業としての側面を伴うのが常であって、この側面においては、教育、福祉、文化、民族風習など広汎な場面で社会生活と接触することになり、そのことからくる当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは教育、福祉、文化などに関する助成、援助等の諸施策を実施するにあたって、宗教とのかかわり合いを生ずることを免れないこととなる。したがって、現実の国家制度として、国家と宗教の完全なる分離を実現することは、実際上不可能に近いものといわなければならない。わが憲法の政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解するべきである。

 憲法20条3項は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と規定するが、ここにいう宗教的活動とは、前述の政教分離原則の意義に照らしてこれをみれば、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。

 本件竣工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である。」

(ポイント)

    政教分離規定は、制度的保障であり、間接的に信協の自由の保障を確保しようとするもの。

国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、そのかかわり合いが相当とされる限度を超える場合に、その行為を許さないとするもの。つまり、非完全な分離でもよい。

    憲法20条3項が禁止する「宗教的活動」とは、行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるような行為をいう。このようなに、目的と効果の2点から判断するという目的効果基準を採用している。

    神道式地鎮祭の目的は、専ら世俗的なものであり、その効果は、神道を援助、助長、促進しまたは他の宗教に圧迫、干渉を加えるものではないから、憲法20条3項で禁止する「宗教的活動」にはあたらない。つまり、地鎮祭は合憲である。

政教分離原則の法的性格 → 制度的保障、非完全分離

宗教的活動の判断基準  → 目的効果基準

地鎮祭の合憲(違憲)制 → 合憲

憲法20条3項

国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

憲法89条

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

33.自衛官合祀拒否訴訟(最大判昭63.6.1)

(事案)

 自衛隊員であるAは公務中の事故で死亡したが、山口県隊友会(私人)が、自衛隊職員の協力を得て、Aの合祀を県護国神社に申請し、合祀されることとなった。そのため、キリスト教信者であるAの妻Xが、隊友会と国を相手として、人格権侵害を理由に、精神的損害の賠償と合祀の取消しを求めた。

(争点)

    自衛隊職員の合祀申請に対する協力行為は、憲法20条3項で禁止されている宗教的活動にあたるか。

    静寂な宗教的環境の下で信仰生活を送る利益(宗教的じんかくけん)は、法的利益として認められるか。

(判旨)

「本件合祀申請に至る過程において件隊友会に協力していた地連職員の具体的行為は、その宗教とのかかわり合いは間接的であり、その意図、目的も、合祀実現により自衛隊員の社会的地位の向上と志木の高揚を図ることにあったと推認されるから、どちらかといえばその宗教的意識も希薄であったといわなければならないのみならず、その行為の態様からして、国又はその機関として特定の宗教への関心を呼び起こし、あるいはこれを援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるような効果をもつものであることは否定できないが、これをもって宗教的活動とまではいうことが¥はできないものといわなければならない。

 人が自己の信仰生活の静謐を他社の宗教上の行為によって害されたとし、そのことに不快の感情を持ち、そのようなことがないよう望むことのあるのは、その心情として当然であるとしても、かかる宗教上の感情を被侵害利益として、直ちに損害賠償を請求し、又は差止めを請求するなどの法的救済をもとめることができるとするならば、かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ることは、見易いところである。信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることをようせいしているものというべきである。原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。

(ポイント)

    自衛隊職員ンお合祀申請に対する協力行為は、目的効果基準に照らして、憲法20条3項で禁止されている宗教的活動にあたらない。

    静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益は、直ちに法的利益とは認められない。否定説である。

 

34.箕面忠魂碑訴訟(最判平5.2.16)

(事案)

 箕面市は、小学校の増改築工事に伴い、校庭にあった遺族会が管理する忠魂碑を移転する必要が生じたため、移転先の敷地を遺族会に無償貸与し、本件忠魂碑における神式、仏式の慰霊祭に市の教育長を参列させた。市の住民であるXが、これら市の慰霊祭への関与は憲法20条3項および89条に違反するとして、住民訴訟を提起した。

(争点)

    市の忠魂碑移設のための敷地の無償貸与は、政教分離原則に違反するか。

    市の教育長が忠魂碑の慰霊祭に参列する行為は、政教分離原則に違反するか。

(判旨)

「旧忠魂碑は、地元の人々が郷土出身の戦没者の慰霊、顕影のために設けたもので、元来、戦没者記念碑的な性格のものであり、神道等の特定の宗教とのかかわりは、少なくとも戦後においては希薄であり、箕面市が旧忠魂碑ないし本件忠魂碑に関してした本件土地を代替地として買い受けた行為(本件売買)、旧忠魂碑を本件敷地上に移設、再建した行為(本件移設・再建)、市遺族会に対し、本件忠魂碑の敷地として本件敷地を無償貸与した行為(本件貸与)は、いずれれも、その目的は、小学校の校舎の建替え等のためであり、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。したがって、箕面市の右各行為は、憲法20条3項により禁止されている宗教的活動には当たらない。

 慰霊祭への被上告人(教育長)の参列は、地元におけて重要な公職にある者の社会的儀礼として、地区遺族会が主催する地元の戦没者の慰霊、追悼のための宗教的行事に際し、戦没者やその遺族に対して弔意、哀悼の意を表する目的で行われたものである。その目的は、戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという、専ら世俗的なものであり、その効果も、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為とは認められない。したがって、憲法上の政教分離原則及びそれに基づく

政教分離規定に違反するものではない。

(ポイント)

①忠魂碑は戦没者の慰霊のための記念碑で宗教的施設ではなく、遺族会も憲法20条3項の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」ではないから、市の行為は政教分離原則に違反しない。合憲である。

②慰霊祭に公務員である教育長が参列したことは、戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという専ら世俗的な目的であり、その効果も特定の宗教を援助、助長、促進または他の宗教に圧迫、干渉を加えるものではないから、政教分離原則に違反しない。合憲である。

 

35.愛媛玉串料訴訟(最大判平9.4.2)

(事案)

 愛媛県は、靖国神社・県の護国神社に対して、玉串料その他の名目で、公金より金品を支出していた。これに対して、県の住民であるXらが、当該支出行為は憲法20条3項および89条に違反する違法なものであるとして、県知事Yらに対し、本件支出によって県が被った損害の賠償を請求した。

(争点)

    県のなした公金による玉串料の支出は、憲法20条3項に違反するか。

    県のなした公金による玉串料の支出は、憲法89条に違反するか。

(判旨)

「本件玉串料等の奉納は、たとえそれが戦没者の慰霊及びその遺族の慰謝を直接の目的としてされたものであったとしても、世俗的目的で行われた社会的儀礼にすぎないものとして憲法に違反しないということはできない。

 県が本件玉串料等を靖國神社又は護国神社に奉納したことは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認められるべきであり、これによってもたらされる県と靖國神社等とにかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らして相当でされる限度を超えるものであって、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たると解するのが相当である。そうすると、本件支出は、同項の禁止する宗教的活動を行うためにしたものとして、違法というべきである。

 また、靖國神社及び護国神社は憲法89条にいう宗教上の組織又は団体に当たることが明らかであるところ、本件玉串料等を靖國神社又は護国神社に前記のとおり奉納したことによってもたらされる県と靖國神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと解されるのであるから、本件支出は、同条の禁止する公金の支出に当たり、違法というべきである。」

(ポイント)

    公金による玉串料の奉納は、その目的が宗教的な意義をもつことを免れず、その効果も特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認められるべきであるから、憲法20条3項で禁止する「宗教的活動」にあたり、憲法20条3項に違反する。

    靖国神社・護国神社は憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」にあたり、目的効果基準に照らして、本件支出は憲法89条で禁止する公金の支出にあたり、憲法89条に違反する。

 

36,砂川神社訴訟(最大判平22.1.20)

(事案)

 北海道砂川市は、町内会に対して無償で、市有地を神社施設の敷地としての利用に供していた。本件神社は、宗教法人法所定の宗教法人ではなく、神社附近の住民らで構成される氏子集団によって管理運営されていた。

(争点)

市が、町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為は、憲法89条、20条1項後段に違反するか。

(判旨)

「憲法89条は、公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益若しくは維持のため、その利用に供してはならない旨を定めている。その趣旨は、国家が宗教的に中立であることを要求するいわゆる政教分離の原則を、公の財産の利用提供等の財政的な側面において徹底させるところにあり、これによって、憲法20条1項後段の規定する宗教団体に対する特権の付与の禁止を財政的側面からも確保し、信教の自由の保障を一層確実なものにしようとしたものである。しかし、国家を宗教とのかかわり合いには種々の形態があり、およそ国又は地方公共団体が宗教との一切の関係を持つことが許されないいうものではなく、憲法89条も、公の財産の利用提供等における宗教とのかかわり合いが、我が国の

社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に、これを許さないとするものと解される。

 国又は地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は、一般的には、当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として、憲法89条との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。もっとも、国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されているといっても、当該施設の性格や来歴、無償提供に至る経緯、利用の態様等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところである。例えば、一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても、同時に歴史的、文化財的な建造物として保護の対象となるものであったり、観光資源、国際親善、地域の親睦の場などといった他の意義を有していたりすることも少なくなく、それら文化的あるいは社旗的な価値や意義に着目して当該施設が国公有地に設置されている場合もあり得よう。これらの事情のいかんは、当該利用提供行為が、一般人の目がから見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから、政教分離原則との関係を考えるに当たっても、重要な考慮要素とされる。

 そうすると、国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が、信教の自由の保障の確保という制度の根本目との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては、当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての利用に用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解するのが相当である。

 以上のように解すべきことは、当裁判所の判例(最大判昭52.7.13津地鎮祭判決、最大判平9.4.2愛媛玉串料訴訟等)の趣旨とするところからも明らかである。

 前期事実関係等によれば、本件神社物件は、一体として神道の神社施設に当たる。

 また、本件神社において行われている諸行事は、地域の伝統的行事として親睦の意義を有するとしても、神道の方式にのっとって行われているその態様にかんがみると、宗教的な意義の希薄な、単なる世俗的な行事にすぎないということはできない。

 本件神社物件を管理し、上記のような祭事を行っている氏子集団は、宗教的行事を行うことを主たる目的としている宗教団体であって、寄附を集めて本件神社の祭事を行っており、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に当たるものと解される。

 しかし、本件氏子集団は、祭事に伴う建物使用の対価を町内会に支払うほかは、本件神社物件の設置に通常必要とされる対価を何ら支払うことなく、その施設に伴う便益を享受している。すなわち、本件利用提供行為は、その直接の効果として、氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にしているものということができる。

 そうすると、本件利用提供行為は、市が、何らの対価を得ることなく本件各土地上に宗教的施設を設置させ、本件氏子集団においてこれを利用して宗教的活動を行うことを容易にさせているものといわざるを得ず、一般人の目から見て、市が特定の宗教に対して特別の利益を提供し、これを援助していると評価されてもやむを得ないものである。前記事実関係等によれば、本件利用提供行為は、もともとは小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという世俗的、公共的な目的から始まったもの、で本件神社を特別に保護、援助するという目的によるものではなかったことが認められるものの、明らかな宗教的施設といわざるを得ない本件神社物件の性格、これに対し長期間にわたり継続的に便益を提供し続けていることなどの本件利用提供行為の具体的態様等にかんがみると、本件において、当初の動機、目的は上記評価を左右するものではない。

 以上のような事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すると、本件利用提供行為は、市と本件神社ないし神道とのかかわりあいが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして、憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり、ひいては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与に該当すると解するのが相当である。

(ポイント)

 目的効果基準の不使用が、最大の特色である。

 国・公共団体等の行為の目的やその効果ではなく、宗教的施設の性格、土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されているに至った経緯、無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を顧慮し、社会通念に照らして総合的に判断して、国・地方公共団体と宗教団体のかかわり合いが違憲。→違憲判決

 

37.エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8)

(事案)

 A市立工業高等専門学校の第1学年に在学していた生徒Xは、その信仰する宗教(「エホバの証人」)の絶対平和主義の教義に基づき、必須科目の体育の剣道実技に参加しなかった。このため、学校長YはXの体育の単位を認定せず、Xに対して原級留置の処分をし、次年度も同じ理由で同じ処分を繰り返した。その結果、Xは、2回連続の原級留置を根拠とする退学処分となった。そこで、Xは、このアック処分は当人の信教の自由を侵害するものであるとして、処分の取消しを求める訴訟を提起した。

(争点)

    信仰上の理由により剣道の授業を拒否する生徒に対し、代替措置を採ることは、政教分離原則に違反するか。

    学校長による本件退学処分は、その裁量権を逸脱するか。

(判旨)

「信仰上の真しな理由から剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないものであった、およそ代替措置を採ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法20条3項に違反するということができないことは明らかである。

 信仰上の理由による剣道実技の履修許否を、正当な理由のない履修許否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討することもなく、体育科目を不認定とした担当教員らの評価を受けて、原級留置処分をし、さらに、不認定の主たる理由及び全体成績について勘案することなく、2年続けて原級留置となったため進級等規定及び退学内規に従って学則にいう「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に当たるとし、退学処分をしたという上告人の措置は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会通念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかなく、本件各処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」

(ポイント)

①信仰上の真しな理由により剣道の授業を拒否する生徒に対し、代替措置を執ることは、目的効果基準に照らして、政教分離原則に違反しない。

②信仰上の理由による剣道実技の履修許否を、正当な理由のない履修許否と区別することなく、代替措置について何ら検討することもなく、退学処分にした学校長の措置は、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものである。

 

38.新潟県公安条例事件(最大判昭29.11.24)

(事案)

 公安委員会の許可を得ることなく集団示威運動を行った行為が、新潟県公安条例に違反するとされた。

(争点)

 県の公安条例による行列更新・集団示威運動の許可制は、集団行動の自由を保障した憲法21条に違反し、許されないのか。

(判旨)

 「行列行進又は公衆の集団示威運動(以下単にこれらの運動という)は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらないかぎり、本来国民の自由とするところであるから、条例においてかれらの行動につき単なる届出制を定めることは格別、そうでなく一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されないと解するを相当とする。しかしこれらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉に著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、予じめ許可を受けしめ、又は届出をなさしめてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これをもって直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解することはできない。けだしかかる条例の規定は、なんらこれらの行動を一般に制限するのでなく、前示の観点から単に特定の場所又は方法について制限する場合があることを認めるに過ぎないからである。さらにまた、これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず又は禁止することができる旨の規定を設けることも、これをもって直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにならないと解すべきである。」

(ポイント)

①集団行動を一般的な許可制で事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されない。しかし、②特定の場所または方法につき合理的かつ明確な基準のもとで許可制をとることは許される。さらに、③公共の安全に対し明らかに差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、許可せずまたは禁止できる旨の規定を設けることも許される。

 

39.東京都公安条例事件(最大判昭35.7.2)

(事案)

 公安委員会の許可を得ないで集会およびデモ行進を主催・指導し、また許可条件に違反するデモ行進を指導したとして、Yらが東京都公安条例に違反するとして起訴された。

(争点)

 集会や集団行進の際に東京都公安委員会の許可を必要とした東京都公安条例は、憲法21条に違反するか。

(判旨)

 「集団行動による思想等の表現は、単なる言論、出版等によるものとはことなって、現在する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によって支持されていることを特徴とする。平穏静粛な集団であっても、甚だしい場合には、一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によって法と秩序を蹂躪し、集団行動の指揮者はもちろん警察力を以てしても如何ともし得ないような事態に発展する危険が存在すること、群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかである。従って地方公共団体が、集団行動による表現の自由に関するかぎり、いわゆる『公安条例』を以て、地方的情況その他諸般の事情を十分考慮に入れ、不測の事態に備え、法と秩序を維持するに必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることは、けだし止む得ない次第である。」

(ポイント)

 東京都公安条例は、憲法21条に違反しない。

 

40.泉佐野市民会館事件(最判平7.3.7)

(事案)

 Xらは、市立泉佐野市民ホールで、「関西新空港反対全国決起大会」を開催することを企画し、4月2日に泉佐野市長に対して、市立泉佐野市民会館条例に基づき、「全関西実行委員会」を使用団体として、ホールの使用許可を申請した。同条例7条は、本件会館を使用してはならない事由として3つの場合を規定しており、その1号は「公の秩序をみだすおそれがある場合」、3号は「その他会館の管理上支障があると認められる場合」であり、本件集会の実質的主催者はいわゆる過激派の一団体であり、その団体は本件申請直後に連続爆破事件を起こすなどしており、本件会館を使用させると不測の事態の発生が憂慮され、その結果、周辺住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあること、また、対立する他の過激派集団による介入も懸念されることなどから、本件条例7条1号および3号を根拠に、市長名で申請を不許可とする処分を行った。Yらは、本件不許可処分に対して、本件条例の違憲、違法、本件不許可処分の違憲・違法を主張して、泉佐野市に対して国家賠償法による損害賠償を請求した。

(争点)

    条例の「公の秩序をみだすおそれのある場合」とは何か。

    不許可が許されるのはいかなる場合か。

(判旨)

 「集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使するべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、その基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合にかぎられるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかふぉうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例7条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、集会の自由を不当に害するものではなく、また、検閲にあたるものではなく、したがって、憲法21条に違反するものではない。

 このような較量をするに当たっては、集会の自由の制約は、基本的人権のいち精神的事由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下にされなければならない。

 本件条例7条1号は、『公の秩序を乱すおそれがある場合』を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではないというべきである。

憲法21条

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(ポイント)

①「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回復し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきである。なお、較量にあたっては、精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下にされなければならない(二重の基準値)

 二重の基準値とは、精神的事由を規制する立法は、経済的自由を規制する立法に比べて、厳しい基準でその基準でその合憲性を判断するという考え方である。根拠としては、精神的自由の優越的地位からあげられる。

 ●二重の基準論

                [裁判所の審査基準]

   精神的自由規制立法  →  厳格な基準

   経済的自由規制立法  →  穏やかな基準

 

    危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である(「明白かつ現在の危険」の法理)

 

41.猿仏事件(最大判昭49.11.6)

(事案)

 北海道猿払村の郵便局で機械的業務に従事する郵便局員Yが、日本社会党を応援する目的で、勤務時間外に、選挙用ポスターを国の施設以外の場所に掲示するなどした。この行為が、公務員の政治運動を禁止する国家公務員法102条1項および人事院規則14-7に違反するとして、Yが起訴された。

(争点)

 国家公務員の政治活動を一律に禁止する国家公務員法102条1項および人事院規則14-7は、政治活動の自由を保障する憲法21条に違反しないか。

(判旨)

 「憲法21条の保障する「表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでとりわけ重要なものであり、法律によってもみだりに制限することができないものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をゆうするものであるから、その限りにおいて、憲法21条による保障を受けるものとであることも、明らかである。国公法102条1項及び規則によって公務員に禁止されている政治的行為も多かれ少なかれ政治的意見の表明を内包する行為であるから、もしそのような行為が国民一般に対して禁止されるのであれば、憲法違反の問題が生ずることはいうまでもない。

 行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。したがって、校務員の政治的中立性を損なうおそのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。

 国公法102条1項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたっては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益との均衡の三点から検討することが必要である。そこで、まず、禁止の目的およびこの目的と禁止される行為との関連性について考えると、もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損われ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的傾向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損なわれることを免れない。このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであって、その目的は正当なものというべきである。また、右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれのあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであって、たとえその禁止が、公務員の職種、職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。次に利益の均衡の点について考えてみると、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をならいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意思表明の自由が成約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 したがって、国公法102条1項および規則5項3号、6項13号は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない。

 

憲法21条

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

国家公務員法102条1項

(政治的行為の制限)

第百二条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

人事院規則一四―七(政治的行為)

人事院は、国家公務員法に基き、政治的行為に関し次の人事院規則を制定する。

(ポイント)

 国家公務員の政治的活動の一律禁止が、合憲か否かを判断するには、①禁止の目的、②この目的と禁止される政治的行為との関連性、③政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止されることにより失われる利益との均衡、の3点から検討する。

 ①行政の中立的運営と、これに対する国民の信頼の確保という規制目的は正当。②この目的達成のため公務員の政治的行為を一律に禁止するという手段は、目的との間に合理的関連性がある。③公務員の政治的行為の禁止によって得られる利益と、公務員の政治的自由を制限するという失われる利益の均衡はとれている。

 国家公務員法102条1項および人事院規則14-7は憲法21条に違反せず、合憲である。

 

42.サンケイ新聞事件(最判昭62.4.24)

(事案)

 自由民主党が日本共産党(X)に関する意見広告をサンケイ新聞(Y)紙上に掲載した。

これに対して、Xは、当該意見広告は中傷にあたるとして、Yに対して、無料での反論文の掲載を請求した。

(争点)

反論文掲載請求権は、表現の自由を保障する憲法21条1項により直接保障されるか。

(判旨)

 「私人間において、当事者の一方が情報の収集、管理、処理につき強い影響力をもつ日刊新聞紙を全国的に発行、発売する者である場合でも、憲法21条の規定から直接に、所論のような反論文掲載の請求権が他方の当事者に生ずるものでない。」

(ポイント)

 私人間において、憲法21条の規定から直接に、反論文掲載請求権を認めることはできない。つまり、否定説である。

 共産党    →    サンケイ新聞

     反論文掲載請求

        憲法21条1項

 

43.博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭44.11.26)

(事案)

 米原子力空母寄港反対闘争に参加するため博多駅に下車した学生に対し、機動隊員が行き過ぎた制止行為を行ったとして、特別公務員暴行陵虐罪、職権濫用罪で告発された。しかし、地検が機動隊員を不起訴処分としたため、刑事訴訟法262条により付審判請求がなされた。この付審判請求の審理にあたって、裁判所は、そのときの模様を撮影したとされるテレビフィルムの提出をテレビ局に命じた。

(争点)

    報道の自由は、憲法21条で保障されるか。

    報道のための取材の自由は、憲法21条で保障されるか。

    裁判所がテレビフィルムの提出を命じることは、報道・取材の自由に対する侵害となるか。

(判旨)

 「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない。

 しかし、取材の自由といっても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。公正な掲示裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によって得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなってもやむをえないところというべきである。しかしながら、このような場合においても、一面において、取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、多面において取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合いでその他諸般の事情を比較考量して決せられるべきである。

 本件フィルムの提出命令は、憲法21条に違反するものではない。」

 

(ポイント)

    報道の自由は、憲法21条によって保障される。

    報道のための取材の自由は、憲法21条の趣旨に照らし十分尊重に値する。

 この点、憲法21条によって保障される報道の自由とは異なることに特に注意が必要である。つまり、取材の自由は、憲法21条によって「保障」まではされず、「尊重」されるにとどまるのである。取材は、報道のための手段にすぎないからである。

 報道の自由 → 憲法21条から保障

 取材の自由 → 憲法21条から尊重(保障・・・✕)

③提出命令の合憲性は、公正な裁判の要請に基づく提出命令の必要性と、取材の自由が妨げられる程度および報道の自由に及ぼす影響の度合い等の諸事情を比較衡量して決せられる。

本件の提出命令は、証拠上重要な価値があり、テレビフィルムはすでに放映済みである点などから、合憲である。

 

44.TBSビデオテープ差押え事件(最決平2.7.9)

(事案)

 TBSX)は、「潜入ヤクザ24時一巨大組織の舞台裏」と題するドキュメンタリーの中で、暴力団員による債権取り立ての模様を約11分間放送したが、この番組を発端として、当該取り立てを行った組員が逮捕・起訴された。この事件の捜査にあたって、警視庁捜査四課は、差押え許可状により、取立場面を取材した未編集テープ29巻を証拠として押収した。これに対し、Xが不服を申し立てた。

(争点)

報道機関の取材テープに対する捜査機関の差押処分は、憲法21条に反しないか。

(判旨)

「報道機関の取材ビデオテープが軽視できない悪質な被疑事件の全容を解明する上で重要な証拠価値を持ち、他方、右テープが被疑者らの協力によりその犯行場面等を撮影収録したものであり、右テープを編集したものが放映済みであって、被疑者らにおいてその放映を了承していたなど判示の重要関係の下においては、右テープに対する捜査機関の差押処分は、憲法21条に違反しない。

(ポイント)

 報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分は、一定の要件の下では、憲法21条に反しない。つまり、合憲である。

 

45.石井記者事件(最大判昭27.8.6)

(事案)

 国家公務員法違反事件の捜査中に証人として召喚された新聞記者Yが、証人としての宣言と証言を拒絶したため、証言拒絶罪(刑事訴訟法161条)で起訴された。

(争点)

 憲法21条により、新聞記者に取材源を秘匿するための証言拒絶権が認められるか。

(判旨)

「憲法21条は一般人に対し、平等に表現の自由を保障したものであって、新聞記者に特種の保障を与えたものではない。憲法の右規定の保障は、公の福祉に反しない限り、いいたいことはいわせなければならないということである。未だいいたいことの内容も定まらず、これからその内容を作り出すための取材に関しその取材源について、公の福祉のため最も重大な司法権の公正な発動につき必要欠くべからざる証言の意義をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保障したものとは到底解することができない。」

(ポイント)

 憲法21条は、新聞記者に証言拒絶権を認めていない。取材源を秘匿する権利はない。

 

46.取材源に関する証言拒否と取材の自由(最決平19.10.3)

(事案)

 NHKは、ニュースにおいて、A社が所得隠しをし、日本の国税当局から追徴課税を受け、また、所得隠しに係る利益がアメリカ合衆国の関連会社に送金され、同会社の役員により流用されてたとして、合衆国の国税当局も追徴課税をしたなどの報道をし、合衆国内でも同様の報道がされた。Xらは、合衆国の国税当局の職員が、日米同時税務調査の過程で、日本の国税庁の税務官に対し、国税庁が日本の報道機関に違法に情報を漏えいすると知りながら、無権限でしかも虚偽の内容の情報を含むAおよびXらの徴税に関する情報を開示したことにより、国税庁の税務官が情報源となって本件報道がされ、その結果、Xらが、株価の下落等による損害を被ったなどと主張して、合衆国(Y)を被告として、合衆国アリゾナ州地区連邦地方裁判所に損害賠償請の訴えを提起した。

 その過程で、Xらは、日本に居住する記者の証人尋問を申請したため、同裁判所は、この証人尋問を日本の裁判所に嘱託し、同証人尋問は、国際司法共助事件として新潟地方裁判所に係属した。この証人尋問において、記者は、取材源の特定に関する証言を拒絶し、同地方裁判所はその証言拒否に理由があるものと認めた。原審も、報道関係者の取材源は民事訴訟法197条1項1号所定の職業の秘密に該当するなどとして、本件証言拒否には理由があるものと認めた。

(争点)

  民事事件において証人となった報道関係者が、民事訴訟法197条1項3号に基づいて取材源に係る拒絶をすることができるか。

(判旨)

 「民事訴訟法197条1項3号は、『職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合』には、証人は、証言を拒むことができると規定している。ここにいう『職業の秘密』とは、その事情が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものというと解される。もっとも、ある秘密が上記の意味での職業の秘密にあたる場合においても、

そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義、価値、当該取材の態様、将来における同様の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的意義・価値・当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。

 取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有するというべきである。そうすると、当該報道が公共の利益に関するものであって、その取材の手段、方法が一般の刑事法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、当該民事事件が社会的意義や影響ある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現するべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり、証人は、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができると解するのが相当である。

 したがって、民訴法197条1項3号に基づき、本件の取材源に係る事項についての証言を拒むことができるというべきであり、本件証言拒絶には正当な理由がある。」

 

民事訴訟法197条1項3号

第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。

一 第百九十一条第一項の場合

二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合

三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

 

(ポイント)

 民事事件において証人となった報道関係者は、当該報道が公共の利益に関するもので、その取材の手段・方法が一般の刑罰法令に触れる、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、当該民事事件の社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現するべき必要性が高く、当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、民事訴訟法197条1項3号に基づき、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができる。

 すなわち、民事事件の承認の報道関係者は、取材源に係る証言を拒絶できる場合がある。

 

47.外務省秘密漏洩事件(最決昭53.5.31)

(事案)

  西山記者(Y)は、1971年に調印された沖縄返還交渉に関する情報を入手するため、外務省の女性事務官Aと肉体関係を持ち、Aから国家機密にあたる情報を入手した。そのため、Yが国家公務員法の秘密漏示そそのかし罪で起訴された。

(争点)

  国家機密に対する取材につき、正当な取材活動として認められるのはどの範囲か

(判旨)

 「報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当でなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段、方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。

 しかしながら、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑事法令に触れる行為の伴う場合は勿論、その手段、方法が一般の刑事法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躝する等法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。」

(ポイント)

 取材が、真に報道の目的からでたもので、手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものであれば、正当な取材活動であり違法ではないが、手段・方法が法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認することのできない態様のものである場合には、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法である。

 ●取材の手段・方法が

    相当な場合   → 合法

    不相当な場合  → 違法(本件)

 

48.北海タイムス事件(最大決昭33.2.17)

(事案)

 新聞社のカメラマンYが、法廷内で裁判官の制止を無視して被告人の写真を撮影したため、過料に処ぜられた。

(争点)

 法廷内の写真撮影を、裁判所の裁量に委ねている刑事訴訟規則215条は、報道・取材の自由を侵害するか。

(判旨)

 「公判廷の状況を一般に報道するための取材活動であっても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害するがごときものは、もとより許されない。刑事訴訟法規則215条は写真撮影の許可等を裁判所の裁量に委ね、その許可に従わないかぎりこれらの行為をすることができないことを明らかにしたのであって、右規則は憲法に違反するものではない。」

(ポイント)

 法廷内での写真撮影の許可を裁判長の裁量とし、撮影を制限している刑事訴訟規則は、合憲である。つまり、写真撮影の許可性は合憲。

 

49.チャタレイ事件(最大判昭32.3.13)

(事案)

 性的描写のある外国小説「チャタレイ夫人の恋人」の翻訳本を出版した出版者・翻訳者らが、刑法175条(わいせつ物頒布罪)で起訴された。

(争点)

 刑法175条のいわゆる「わいせつ文書」とは何か。刑法175条の規定は、憲法21条に違反しないか。

 ※刑法175条は、「わいせつな文書、図書その他の物を頒布し、販売した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する」とする規定である。

(判旨)

 「刑法175条の猥褻文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。

 出版その他表現の自由は極めて重要なものであるが、しかしやはり公共の福祉によって制限される。そして性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することが公共の福祉の内容をなすことについて疑問の余地がないものであるから、刑法175条は憲法21条1項に反しない。

 

刑法175条

(わいせつ物頒布等)

第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

憲法21条1項

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 

(ポイント)

「わいせつ文書」とは、①徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反する文書をいう。最高裁らしい非常に硬い文書表現である。

→刑法175条は、憲法21条に反しない。つまり、合憲である。

 

50.悪徳の栄え事件(最大判昭44.10.15)

(事案)

 性的描写のある外国小説「悪徳の栄え」の翻訳本を出版した出版者・翻訳者らが、刑法175条(わいせつ物頒布罪)で起訴された。

(争点)

 わいせつ性を有する文書が、同時に芸術性・思想性を有する場合であっても、刑法175条の処罰対象とするべきか。

(判旨)

 「芸術的・思想的価値のある文書であっても、これを猥褻性を有するものとすることはなんらさしつかえのないものと解せられる。もとより、文書がもつ芸術性・思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下の猥褻性が解消されないかぎり、芸術的・思想的価値のある文書であっても、猥褻の文書としての取扱いを免れることはできない。

 文書の個々の章句の部分は、全体としての文書の一部として意味をもつものであるから、その章句の部分の猥褻性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならないものである。」

(ポイント)

 芸術性・思想性のある文書でも、わいせつ性が解消されない限り、処罰の対象となりうる。

 

51.法廷メモ採取事件(最大判平元。3。8)

(事案)

 裁判の傍聴人Xが、傍聴の際にメモ採取の許可を裁判長に求めたが、裁判長は許可しなかった。そこで、裁判所におけるメモ採取不許可処分は違法な行為であるとして、Xが国家賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

    憲法82条1項は、裁判の公開の原則を定めているが、傍聴人のメモ採取の自由を権利として保障したものか。

    筆記行為の自由や法廷内で傍聴人がメモを取る行為は、憲法21条により保障されるか。

(判旨)

 「憲法82条1項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規程は、各人が裁判所に対して傍聴をすることを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより、傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものでないことも、いうまでもないところである。」

 憲法21条1項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことができないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する目的は、右規程の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然ンに導かれるところである(最大判昭和58年6月22日 よど号ハイジャック新聞記事抹消事件参照)。市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権規約」という。)19条2項の規定も、同様の趣旨にほかならない。筆記行為は、一般的には人の生活活動の1つであり、生活のさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法定における裁判を見聞することができるのであっるから、傍聴人が法定においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。

 もっとも、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現んお事由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないをいうべきである。」

憲法82条1項

第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

憲法21条1項

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

(ポイント)

①憲法82条1項は、裁判の公開を制度として保障したものであり、傍聴人のメモを取る自由を権利として保障したものではない。

    筆記行為の自由は、憲法21条1項の精神に照らし尊重されるべきである。

法廷でメモを取る行為も尊重に値し、故なく妨げられてはならない。

 ●法廷でメモを取る権利(筆記行為の自由)

   憲法82条1項   →  保障されない

   憲法21条1項   →  保障される

  

52.軽犯罪法事件(最大判昭45.6.17)

(事案)

 電力会社等が所有・管理する電柱に無断で政治的アピールを印刷したビラを貼ったYが、軽犯罪法1条33号前段に違反するとして起訴された。

(争点)

 みだりに他人の家屋、工作物にはり札をする行為を禁止する軽犯罪法の規定は、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反するか。

(判旨)

 軽犯罪法1条33号前段は、主として他人の家屋その他の工作物に関する財産剣、管理権を保護するために、みだりにこれらの物にははり札をする行為を規制の対象とするとしているものと解すべきところ、たとい思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。したがって、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であって、右法条を憲法21条1項に違反するものということはできない。」

(ポイント)

 はり札行為を禁止する規定は、公共の福祉から、憲法21条1項に違反しない。合憲である。

 

53.戸別訪問事件(最判昭56.6.15)

(事案)

 衆議院銀選挙の際に、Yらは、候補者Aに投票させる目的で、選挙人の家を戸別に訪問し、投票を依頼したため、戸別訪問を一律に禁止した公職選挙法138条に1項違反として起訴された。

(争点)

 戸別訪問を禁止する公職選挙法138条1項の規定は、政治的行為の自由を保障した憲法21条に違反するか。

(判旨)

 「戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になり易く、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もって選挙の自由と公正を確保することを目的としているところ、右の目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるということができる。そして、戸別訪問の禁止によって失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることはではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するにすぎない反面、禁止によって得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる。

 以上によれば、戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。

公職選挙法

(戸別訪問)

第百三十八条 何人も、選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて戸別訪問をすることができない。

(ポイント)

 戸別訪問を禁止する規定は、弊害を防止するために、憲法21条に違反しない。合憲である。

※なお、このテーマに関しては、参考として、伊藤正巳裁判官の補足意見を(最判昭56.7.21)を挙げておく。

「選挙運動においては、各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示されなければならないものではあるが、そては、あらゆる言論が必要最小限度の制約のもとに自由に競いあう場ではなく、各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従って運動するものと考えるべきである。法の定めたルールを各位候補者が守ることによって公正な選挙が行われるのであり、そこでは合理的なルールの設けられることが予定されている。このルールの内容をどのようなものとするかについては立法政策に委ねられている範囲が広く、それに対して必要最小限度の制約のみが許容されるという合憲のための厳格な基準は適用されないと考える。憲法47条は、国会議員の選挙に関する事項は法律で定めることとしているが、これは、選挙運動のルールについて国会の立法の裁量の余地の広いという趣旨を含んでいる。国会は、選挙人の定め方、投票の方法、わが国における選挙の実態など諸般の事情を考慮して選挙運動のルールを定めうるものであり、これが合理的とは考えられないような特段の事情がない限り、国会の定めるルールは各候補者の守るべきものとして尊重されなければならない。」

 

54.岐阜県青少年保護育成条例事件(最判平元。9.19)

(事案)

 自動販売機により図書を販売することを業とする会社の代表取締役Yは、同社の業務に関し、5回にわたり、同社が岐阜県内に設置した自販機に「有害図書」を収納したとして、本条例違反に問われた。

 本条例では、知事は図書の内容が著しく性的感情を刺激し、または著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めるときは、当該図書を有害図書として指定するものとされたいる(6条1項)。

(争点)

 本件条例の規定は、憲法21条1項に違反しないか。

(判旨)

 「自動販売機による有害図書の販売は、売りてと対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激し易いことなどの点において、書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいといわざるをえない。有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において、憲法21条1項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害図書の流通を幾分制約することにはなるものの、青少年の健全なる育成を阻害する有害図書を浄化するための規制に伴うやむをえない制約であるから、憲法21条1項に違反するものではない。」

(ポイント) 

 本件条例の規定は、憲法21条1項に違反しない。合憲である。

 

55.営利抗告の制限(最大判昭36.2.15)

(事案)

 旧あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法7条は、あん摩、はり、きゅう等の業務または施術所に関し、いかなる方法によるかを問わず、同条1項各号に列挙する事項以外の事項について広告することを禁止し、同項により広告することができる事項についても、施術者の技能、施術方法または経歴に関する事項にわたってはならないものとしていた。

 きゅう業を営むYは、その業に関し、きゅうの適応症であるとした神経痛、リウマチ、血の道、胃腸病等の病名を記載したビラ約7000枚を各所に配布したとして、同法違反で起訴された。

(争点)

 本件広告の制限は、憲法21条に違反するか。

(判旨)

 「あん摩師、はり師、きゅう師および柔道整復師があん摩、はり、きゅう等の業務又は施術所に関し制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽膨大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであって、このような弊害を未然に防止するための一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。されば同条は憲法21条に違反しない。」

(ポイント)

 営利抗告の制限は、憲法21条に違反しない。合憲である。

 

56。税関検査事件(最大判昭59.12.12)

(事案)

 外国から性的行為を撮影した8ミリ映画、書籍等を郵便で輸入しようとしたXは、函館税関札幌税関支署長から関税定率法の定める輸入禁制品に該当する旨の通知を受けた。そこで、Xは、函館税関長に異議申し出をしたが、棄却されたため、当該通知および棄却決定の取消しを求めて起訴した。

(争点)

    憲法21条2項で禁止される検問の意義とは何か。

    輸入手続において税関職員が行う検査は検閲に当たるか。

    税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制は、憲法21条1項に違反するか。

    合憲限定解釈の可否。

(判旨)

 「憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない。」と規定する。憲法が、表現の自由につき、広くこれを保障する旨の一般的規定を同条1項に置きながら、別に検閲の禁止についてかような特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては、公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法12条、13条参照)を認めない絶対的な禁止を宣言した趣旨と解すべきである。

 憲法21条2項にいう『「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象として、その全部又は一部の発表を禁止を目的として、対象とされる一定の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当を認めたものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解するべきである。

 税関検査により輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済のものであって、その輸入を禁止したからといって、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。税関検査は、憲法21条2項にいう、[検閲]に当たらないものというべきである。

 わが国内における健全な性的風俗を維持確保する見地からするときは、猥褻表現物がみだりに国外から流入するすることを阻止することは、公共の福祉に合致するものであり、税関検査による猥褻表現物の輸入制限は、憲法21条1項の規定に反するものではないというべきである。

 関税定率法21条1項3号にいう「風俗を害すべき書籍 図画」等との規定を合理的に解釈すれば、右にいう「風俗」とは専ら性的風俗を意味し、右規程により輸入禁止の対象とされるのは猥褻な書籍、図書等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、右規程は、何ら明確性に欠けるものではなく、憲法21条1項の規定に反しない合憲的なものというべきである。

憲法

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(ポイント)

①検閲は、①行政権が、②思想内容の表現物を、③発表の禁止を目的に、④発表前に、行われるものである。検閲は、絶対的に禁止されてる。

    主体  → 行政権

    対象  → 思想内容等の表現物

    目的   → 発表の禁止

     時期  → 発表前

②輸入書籍等は外国ですでに発表済のものであるから、税関検査は、検閲の定義を満たさず、検閲にあたらない。

③わいせつ表現の輸入を規制することは、公共の福祉に合致するから、憲法21条1項に反しない。

④一定の要件の下で、合憲限定解釈が許容される。ここで合憲限定解釈とは、条文の文言の意味を限定することによって、違憲判断を避ける解釈方法をいう。

 

57.北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)

(事案)

 北海道知事選挙に立候補を予定していたYは、雑誌「北方ジャーナル」に自分の名誉を毀損する記事が掲載される予定であることを知り、裁判所に対して、印刷・出版を差し止める仮処分を申請し、裁判所はこれを認めた。このため、「北方ジャーナル」の代表取締役Xは、本件仮処分およびその申請を不法行為であるとして、Yと国に対して、損害賠償を求める訴えを提起した。

(争点)

     裁判所の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項で禁止されている検閲に当たるか。

    裁判所の仮処分による事前差止めが検閲に当たらないとしても、事前抑制に当たって表現の自由を侵害し、許さないのではないか。

    事前差止めが例外的に許されるためには、そのような要件が必要か。

※裁判所の仮処分とは、権利が侵害されるおそれがある場合に、これを予防して、当該権利の保全を図るために裁判所が執る手段である。

(判旨)

「仮処分による事前差止めは、表御現物の内容を網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発生られたものであって、右判示にいう[検閲]には当たらないものというべきである。

 表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ない聴視者の側に到達させる途を閉ざし、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、事実上の抑止効果が事後制裁の場合よりも大きいと考えられるのであって、表現行為による事後抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。

 出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであって、とりわけ、その対象が公務員の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されないものといわなければならない。ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実態的要件を具備するときに限って、例外的に事前差止めが許されるものというべきであり、このように解しても上来説示にかかる憲法の趣旨に反するものとはしえない。

 事前差止めを命ずる仮処分命令を発するについては、口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきものと解するのが相当である。」

(ポイント)

    裁判所による事前差止めは検閲には当たらない。

    裁判所の仮処分による事前差止めは、事前抑制に該当するので、その対象が公務員・公職選挙の候補者に対する評価、批判等である場合は、原則として許されない。

    事前差止めが例外的に許される事件は、①表現内容が真実ではないこと、専ら公益を図る目的ではないこと、が明白であること、②被害者が重大にして著しく甲斐づく困難な損害を被るおそれがあること、③原則として、表現者に表現内容が真実であることの主張・立証の機会を与えることである。

●裁判所の事前差止め

 検閲(21条2項)・・・絶対的禁止

              当たらない

                ↓

             事前抑制(21条1項)・・・原則的禁止

              当たる → 例外あり

 

 

 

58.第一次家永教科書事件(最判平5.3.16)

(事案)

 東京教育大学教授の家永三郎(X)は、高校用日本史教科書「新日本史(五訂版)」を執筆したが、特定申請で不合格となり、修正後の再申請で条件付合格の処分を受けた。そこで、Xは、文部大臣(現文部科学大臣)の措置を違憲・違法として、国家賠償を請求した。

(争点)

    教科書検定制度は、教育を受ける権利を保障する憲法26条1項に違反するか。

    教科書検定制度は、憲法21条2項で禁止される検閲に当たるか。また、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反しないか。

(判旨)

 「普通教育の場においては、児童、生徒の側にはいまだ授業の内容を批判する十分な能力は備わっていないこと、学校、教師を選択する余地も乏しく教育の機会均等を図る必要があることなどから、教育内容が正確かつ中立・公正で、地域、学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準であることが要請される。本件検定が、右の各要請を実現するためにおこなわれるものであることは、その内容から明らかであり、その審査基準である旧検定基準も、右目的のための必要かつ合理的な範囲を超えているものとはいえず、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような内容を含むものでもない。したがって、本件検定は、憲法26条の、教育基本法10条の規定に違反するものではない。

 本件検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲には当たらず、憲法21条2項前段の規定に違反するものではない。

 普通教育の場においては、教育の中立、公正、一定水準の確保等の要請があり、これを実現するためには、これらの観点に照らして不適切と認められる図書の教科書としての発行、使用等を禁止する必要があること、その制限も、右の観点からして不適切と認められる内容を含む図書のみを、教科書という特殊な形態において発行を禁止するものにすぎないことなどを考慮すると、本件検定による表現の自由の制限は、合理的で必要やむを得ない限度のものというべきであって、憲法21条1項の規定に違反するものではない。」

(ポイント)

    教科書検定制度は、憲法26条1項に違反しない。

    教科書検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲に当たらない。また、検定による表現の自由の制限は、憲法21条1項に違反しない。以上から、合憲である。

憲法26条

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

 

59.東大ポポロ事件(最大判昭38.5.22)

(事案)

 東京大学の公認学生団体である「ポポロ劇団」が、大学内で松川事件を題材とした演劇を上演していた。学生Yが演劇会場に潜入していた私服警察官を発見し、身柄を拘束するとともに暴行を加えたため、「暴行行為等処罰ニ関スル法律」に違反するとして起訴された。

(争点)

    大学の有する学問の自由と自治の内容は何か。

    大学の有する学問の自由と自治の保障は学生にも及ぶか。

※松川事件では、昭和24年に福島県東北線松川駅付近で起こった列車転覆事件であり、労働組合や共産党員が逮捕・起訴された。

(判旨)

 「大学については、教授その他の研究者がその専門の研究の結果を教授する自由は、これを保護されると解するのを相当とする。すなわち、教授その他の研究者は、その研究の結果を大学の講義または演習において教授する自由を保障されるのである。そして、以上の自由は、すべて公共の福祉による制限を免れるものではないが、大学における自由は、右のような大学の本質に基づいて、一般の場合よりもある程度広く認められると解される。

  大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。この自由は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される。また、大学の施設と学生の管理についてもある程度で認められ、これらについてある程度で大学に自主的な秩序維持の機能が認められている。

 このように、大学の学問の自由と自治は、直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味する解される。大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によって自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められるのである。

 学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものではなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。」

(ポイント)

    大学の学問の自由と自治は、直接には、教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治を意味する。

    学生は、教授の有する学問の自由と自治の効果として、学問の自由と大学の自治の保障を受けるにすぎない。

したがって、学生の集会の真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものではなく、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、特別の学問の自由と大学の自治は享有しない。

60.小売市場事件(最大判昭47.11.22)

(事案)

 無許可で小売市場を開設したため、小売市場簿許可制を定めている小売商業調整特別措置法に違反したとして起訴されたYが、同法の許可制および許可条件としての距離制限規定は、営業の自由を侵害するとして争った。

(争点)

    営業の自由に対する規制の類型にはどのようなものがあるか。

    小売市場開設の許可制は、営業の自由を侵害し、憲法22条1項に違反するか。

(判旨)

「憲法22条1項に基づく個人の経済活動に対する法的規制は、個人の自由な経済活動からもたらされる諸々の弊害が社会公共の安全と秩序の見地から看過することができないような場合に、消極的に、かような弊害を除去ないし緩和するために必要かつ合理的な規制である限りにおいて許されるべきことはいうまでもない。のみならず、憲法その他の条項をあわせ考察すると、憲法は、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており、その見地から、すべての国民にいわゆる生存権を保障し、その一環として、国民の勤労権を保障する等、経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請していることは明らかである。このような点を総合的に考察すると、憲法は、国の債務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なって、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容尾するところと解するのが相当である。 

 社会経済の分野において、法的規制措置の必要の有無や法的規制措置の対象手段、態様などを判断するにあたっては、その対象となる社会的経済の実態についての正確な基礎資料が必要であり、具体的な法的規制措置が現実の社会経済にどのような影響を及ぼすのか、その利害損失を洞察するとともに、広く社会経済政策全外との調和を考慮する等、相互に関連する諸条件についての適正な評価と判断が必要であって、このような評価と判断の機能は、まさに立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前として、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。

 小売市場の許可規制は、国が社会経済の調和的発展を企図するという観点から中小企業保護政策の一方策としてとった措置ということができ、その目的において、一応の合理性を認めることができないわけではなく、また、その規制の手段態様においても、それが著しく不合理であることが明白であることが明白であるとは認められない。」

(ポイント)

1. 営業の自由に対する規制は、①消極目的規制と、②積極目的規制に区別できる。

    消極目的規制  個人の自由な経済活動からもたらされる諸々の弊害が、社会公共の安  

全と秩序の維持の見地から看破することができない場合に、必要かつ

合理的な規制である限り許される規制である。簡単にいうと、国民の

生命・健康を守るための規制のこと。

    積極目的規制  経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請する規制である。

簡単にいうと、社会経済的弱者を守るための規制のこと。

 

2. 小売市場開設に対する規制は、②の規制に該当するが、立法目的に合理性があり、規制の手段・態様が著しく不合理とは認められないので、憲法22条1項に違反しない。すなわち、積極目的規制の法律については、「当該規制手段が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲である」とする、(明白性の原則)を採用し、合憲と判示したものである。①の規制については、薬局距離制限事件の判例参照。

 

61.薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30)

(事案)

 Xは、薬事法に基づいて薬局の営業許可を県知事に申請したが、配置基準の規定に適合しないという理由で不許可処分となった。そのため、Xは、薬局開設の距離制限を定めた薬事法の規定は憲法22条1項に違反するとして、不許可処分の取消しを求める提起をした。

憲法22条1項

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

(争点)

 薬局開設の許可基準として距離制限を定めた規定は、憲法22条1項に違反するか。

(判旨)

「職業選択の自由は、それ以外の憲法の保障をする自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が『公共の福祉に反しない限り』という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。

 一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によって右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する。

 薬局の開設等の許可基準の1つとして地域的制限を定めた薬事法6条2項、4項は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法22条1項に違反し、無効である。」

(ポイント)

 薬局の距離規定は、国民の生命・健康に対する危険の防止、具体的には不良医薬品の供給防止、という消極目的の規制であるので、規制の必要性・合理性の審査、より緩やかな規制手段で目的が達成できるかの検討が必要である。

 そうすると、本件薬局の距離制限規定には、規制の必要性と合理性の存在は認められず、また、立法目的である不良医薬品の供給防止は、より緩やかな規制手段、例えば行政法上の取締りの強化によっても十分に達成できるので、違憲である。すなわち、消極目的規制の法律については、「同じ目的を達成するより緩やかな規制手段があれば違憲である」とする。厳格な合理性の基準を採用し、違憲と判示したものである。つまり、判例は、国民の生命・健康を守るという同じ目的を達成できる、距離制限よりも緩やかな行政法上の取締り強化という規制手段があるから、と考えたのである。→違憲判決

●営業の自由規制立法についての規制目的二分論

 国民の生命・健康を守る消極目的の規制と、弱者を守る積極目的の規制の2つに分け、違憲判断の基準に違いを設けようとする考え方である。

規制の目的    違憲性審査基準       判例

消極目的     厳格な合理性の基準     薬局距離制限事件(違憲判決)

積極目的     明白性の原則        小売市場事件(合憲判決)

 

62.公衆浴場距離制限事件(最大判昭30.1.26)

(事案)

 公衆浴場法2条は公衆浴場の営業免許を知事の許可制としていたが、Yは許可を受けずに公衆浴場を営業したため起訴された。

(争点)

 公衆浴場の営業許可に対する距離制限は、憲法22条1項に違反するか。

(判旨)

 「公衆浴場の設置場所が配置の適正さを欠き、その偏在乃至濫立を来すに至るがごときことは、公共の福祉に反するものであって、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる宗男の規定を設けることは、憲法22条に違反するものとは認められない。」

(ポイント)

 公衆浴場法の距離制限規定は、憲法22条1項に違反せず、合憲である。

 

63.酒類販売業の免許制事件(最判平4.12.15)

(事案)

 Xが酒類販売業の開設免許の申請を所轄税務署長Yにしたところ、酒類法の免許拒否事由にあたるとして拒否処分を受けた。そのため、Xはこの処分の取消しを求める訴訟を提起した。

(争点)

  酒類販売業の免許制を定めた酒税法の規定は、憲法22条1項に違反するか。

(判旨)

 「酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを拒否するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために探られた合理的な措置であったということができる。その後の社会情勢の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないにしても、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い。

 酒類の販売免許制度が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規程が憲法22条1項に違反するものということはできない。」

(ポイント)

 酒税法の酒類販売業免許制の規定は、憲法22条1項に違反せず、合憲である。

 

64.帆足計事件(最大判昭33.9.10)

(事案)

 当時、全参議院議員であった、帆足計(X)らは、昭和27年4月3日より10日までモスクワ市で開催される国際経済会議への出席を招請されたため、外務大臣に対して、この国際経済会議への出席を渡航目的とするソ連行きの一般旅券の発給を申請した。ところが、外務大臣は、旅券法旧13条1項5号(現7号)の「外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」には一般旅券の発給をしないことができる旨の指定などを理由として、旅券発行の拒否処分を行い、その旨の通知をした。そのため、Xは会議に参加できなかった。

(争点)

 国民に海外旅行の自由は保障されているか。

(判旨)

 「憲法22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由をも含むものと解すべきであるが、外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきである。

 そして旅券発行を拒否することができる場合として、旅券法13条1項5号が規定したのは、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のために合理的な制限を定めたものとみることができる。」

(ポイント)

 憲法22条2項の「外国に移住する自由」には、外国へ一時旅行する自由も含まれる。海外旅行の自由は、外国移住の自由によって保障される。

 

65.森林法共有林事件(最大判昭62.4.22)

(事案)

 父から山林を譲り受けた兄弟が、各自2分の1の割合で当該山林を共有していたが、弟Xは、兄Yに対して、共有山林の分割を求めて訴訟を提起した。しかし、持ち分割合2分の1以下の共有者からの分割請求を禁止した森林法旧186条の規定により、分割請求が認められなかった。そのため、Xが、森林法旧186条の規定は健保29条1項の財産権の保障に違反するとして争った。

憲法29条1項

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

(争点)

    憲法29条1項の「財産権」の保障の意味は何か。

    持分価額2分の1以下の共有者からの分割請求を禁止した森林法の規定は、憲法29条2項に違反しないか。

(判旨)

「憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至ったため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権委ついて規制を加えることができる、としているのである。

 財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである。

 森林法186条が共有森林にき持分割合2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法186条の立法目的との関係において、道理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであって、この点に関する立法府の判断は、その合理性の範囲を超えるものであるといわなければならない。したがって、同条は、憲法29条2項に違反し、無効というべきである。

(ポイント)

①憲法29条1項の「財産権」の保障とは、①個人の現に有する具体的な財産権の保障と、②私有財産制の保障の2つを意味する。すなわち、人権保障と財産的保障の2つである。

②森林法旧186条の規定の立法目的は、森林の細分化を防止することで森林経営の安定を図り、もって国民経済の発展に資することにある。しかし、この立法目的達成との関連において、持分割合2分の1以下の共有者からの分割請求を禁止した規定に合理性と必要性を認めることはできないので、違憲である。→違憲判決

 

66.奈良県ため池条例事件(最大判昭38.6.26)

(事案)

 代々ため池の堤とうで耕作を行ってきたYが、県の条例によりため池の堤とうの耕作を禁止された後も耕作を続けたため、起訴された。

(争点)

 憲法29条2項は「法律」で財産権の内容を制限できるとしているが、「条例」によって財産権を制限することは、憲法29条2項に違反しないか。

(判旨)

「ため池の破損、決かいの原因となるため池の提とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであって、憲法、民法の保障する財産権の行使の枠外にあるものというべく、従って、これらの行為を条例をもって禁止、処罰しても憲法および法律に抵触またはこれを逸脱するものとはいえない。

 本条例は、ため池の提とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものではあるが、結局それは、災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已む得ないものであり、そのような制約は、ため池の提とうを使用し得る財産権を有する者が当然受任しなければならない責務というべきものであって、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としない。」

(ポイント)

 条例によって財産権を制限することも許され、憲法29条2項に違反しない。

 

67.自作農創設特別措置法事件(最大判昭28.12.23)

(事案)

 農地改革によって農地を買収されたXが、自作農創設特別措置法の買収価格の算定が著しく低額であるとして、増額を請求した。

(争点)

憲法29条3項の「正当な補償」とは、いかなる補償をいうか。

(判旨)

 「憲法29条3項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられるか価格に基づき、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではないと解するのが相当とする。けだし、財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律で定められるのを本質とするから(憲法29条2項)、公共の福祉を増進し又は維持するため必要ある場合は、財産権の使用収益又は処分の権利にある制限を受けることがあり、また財産権の価格についても特定の制限を受けることがあって、その自由な取引による価格の成立を認められないこともあるからである。

(ポイント)

 憲法29条3項の「正当な補償」とは、その当時の経済状態において成立することが考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいう。すなわち、相当保障で足りる、と判示した。

 

68.土地収用法事(最判昭48.10.16)

(事案)

 Xらが所有する本件土地は、昭和23年5月20日建設院告示215号に基づき内閣総理大臣が決定した倉吉都市計画街路用地にあたっており、昭和39年11月14日において、起業者たる鳥取県知事Yから土地収用法旧33条に基づく鳥取県告示7号をもって土地細目の公告がなされた。その上で、YXらとの間で協議がなされたが、これが調わないため、同年3月23日に都市計画法旧20条に基づき建設大臣(現国土交通大臣)による土地収用の裁定がなされ、次いで、同年6月22日にその損失補償額についての鳥取県収用委員会の裁定が下された。

 これに対して、Xらは、当該損失補償額は近傍類地の取引の実例からして低すぎると主張して提訴した。

(争点)

 土地収用法に基づき都市計画事業の用に供するために収用された土地の「補償」には、いかなる補償が必要か。

(判旨)

 「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とする者であるから、完全な補償、すなわち、収容の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものである。」

(ポイント)

 土地収用法における損失の補償は、完全な補償であるべきである。すなわち、自作農創設特別措置法の農地改革とは異なり、完全補償が要求される、と判事したことに注意が必要である。

  農地改革  →  相当補償(合理的に算出された相当な額)

  土地収用症 →  完全補償(収用の前後を通じて被収用者の財産価値を

等しくする額)

 

69.河川附近地制限令事件(最大判昭43.11.27)

(事案)

 砂利採取業者Yは、河川敷を賃借して砂利を採取していたが、その地域が県知事により河川附近地に指定されたため、河川附近地制限令により、知事の許可がなければ事業を継続することができなくなった。しかし、Yの許可申請は拒否され、無許可で事業を継続したため、Yは制限令違反に問われた。

(争点)

 補償規定のない河川附近制限令は、憲法29条3項に違反して無効か。

(判旨)

 「河川附近地制限令4条2号による制限について同条に損失補償に関する規定がないからといって、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではないから、単に一般的な場合について、当然に受忍すべきものとされる制限を定めた同令4条2号およびこの制限違反について罰則を定めた同令10条の各規定を直ちに違憲無効の規定と解すすべきではない。

 したがって、右各規程の違憲無効を口実にして、同令4条2号の制限を無視し、所定の許可を受けることなく砂利を採取した被告人に、同令10条の定める刑責を肯定した原判決の結論は、正当としてこれを支持するすることができる。

(ポイント)

 直接憲法29条3項を根拠に補償要求する余地がありうるので、補償規定のない河川附近地制限令も憲法29条3項に違反せず、無効ではない。

憲法29条3項

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

2財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

70.第三者所有物没収事件(最大判昭37.11.28)

(事案)

 密輸出を企てたYらは、関税法違反で有罪判決を受けたが、没収の対象となった物には第三者の所有物も含まれていた。そこで、Yらは、第三者に手続的保障を与えることなく財産を没収したことは、憲法29条1項、31条に違反すると主張して争った。

(争点)

第三者に対して手続を保障せずにその所有物を没収することは、憲法29条1項、31条に違反するか。

(判旨)

「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有者を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところであるといわなければならない。けだし、憲法29条1項は、財産権はは、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及びものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁論、防御の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法的手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。従って、前記関税法118条1項によって第三者の所有者を没収することは、憲法31条、29条に違反するものと断ぜざるをえない。」

(ポイント)

 第三者に対して、告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有物を没収することは、適正な法律手段によらないで、財産権を侵害する制裁を科することになり、憲法29条1項、31条に違反する。→違憲判決

  告知、弁解、防御の機会を与えないこと   →  憲法31条違反

  所有物を没収すること           →  憲法29条違反

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

     財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。

③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 

71.徳島市公安条例事件(最大判昭50.9.10)

(事案)

 Yは、徳島県反戦青年委員会主催の集団示威行進に青年・学生約300人と参加したが、その際、徳島市内の車道上において、先頭列外付近に位置して所携の笛を吹くなどして集団行進者に蛇行進をさせるよう刺激を与え、集団行進者が交通秩序の維持に反する行為をするように扇動したことなどが、徳島市公安条例3条3項の遵守事項(「交通秩序を維持すること」)などに違反するとして起訴された。

(争点)

    憲法31条は、刑罰法規の明確性を要求しているか。明確性を要求しているとした場合、その判断基準は何か。

     徳島市公安条例3条3項の遵守事項(「交通秩序を維持すること」)は、憲法31条に違反するか。

憲法31条

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

(判旨)

 「刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反し無効であるとされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる声、重大な弊害を生ずるからであると考えられる。

 本条例3条3号の規定(『交通秩序を維持すること』との規定)は、確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない。」

(ポイント)

①刑罰法規があいまい不明確な場合は、憲法31条に違反し無効である(明確性の原則=あいまい不明確ゆえに無効)

                   ▼

 ある刑罰法規があいまい不明確ゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人が、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断ができるような基準が読み取れるかどうかによって決定すべきである。つまり、判断基準は、通常の一般人である。

②「交通秩序を維持すること」という規定は、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読み取ることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない。

 

72.条例違反者に対する罰則(最大判昭37.5.30)

(事案)

 Yは、売春を行う目的で大阪市内において通行人を勧誘したことから、「街頭等における売春勧誘行為等の取締条例」(昭和25年12月1日公布施行にかかる大阪市条例)の2条1項に違反したとして起訴されたが、Y側は、本条例違反者に対する罰則の根拠となる地方自治法14条1項および旧5項(現3項)は、条例に対する授権の範囲が不特定かつ抽象的であり、その結果、一般に条例でいかなる事項についても罰則を付することが可能となるから、罰刑法定主義を定めた憲法31条に違反するものであるとして、無罪を主張した。

(争点)

 法令に特別の定めがあるものを除くほかは、地方公共団体がその条例中に条例違反者に対して一定範囲の刑罰を科する旨の規定を設けることができると定める地方自治法14条1項・旧5項(現3項)およびそれに基づく本件条例は、憲法31条に違反しないか。

(判旨)

「地方公共団体の規定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同92条)、直接憲法94条により法律の範囲内において制定する機能を認められた自治立法に外ならない。従って条例を制定する機能もその効力も有するものといわなければならない(昭和29年11月24日大法廷判決参照)。

 論旨は、右地方自治法14条1項、5項が法令に特別ん定めがあるものを除く外、その条例中に条例違反者に対し前示の如き刑の科する旨の規定を設けることができるとしたのは、その授権の範囲が不特定かつ抽象的で具体的に特定されていない結果一般に条例でいかなる事項についても罰則を付することが可能となり罰刑法定主義を定めた憲法31条に違反する、と主張する。

 しかし、憲法31条は必ずしも刑罰がすべての法律そのもので定められなければならないとするのではなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によっても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号および1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的なものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といっても、上述のように、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもって罰則を定めることが席るとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によって刑罰を科するものということができるのであって、所論のように同条に違反するとは言えない。従って地方自治法14条5項に基づく本件条例の右条項も憲法同条に違反するものということができない。

(ポイント)

 条例は、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であり、国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されていれば足りる。

 したがって、地方自治法14条3項のように、限定された刑罰の範囲内において条例によって罰刑を定めることができるとしたことは、憲法31条が意味する法律の定める手続によって刑罰を科するということができ、同条に違反しない。合憲である。

   ●条例と罰刑

     授権の要否

        ・・・必要  →  その程度

                   ・・・相当の具体性と限定性

   

73.成田新法事件(最大判平4.7.1)

(事案)

 成田新法に基づき、運輸大臣(現国土交通大臣)Yは、Xの所有する家屋の使用禁止命令を行った。これに対して、Xは、事前の手続保証なしに行政処分を行うことは適正手続を定めた憲法31条に反するとして、当該禁止処分の取消しを請求した。

憲法31条

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

(争点)

 憲法31条の適正手続の保障は、行政手手続にも適用されるか。

(判旨)

 「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続につては、それが刑事手続でないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当でない。しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

 工作物使用禁止命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない。

(ポイント)

 憲法31条の適正手続の保障は、行政手続にも適用されうる。

 →  適用OK !

 

74.川崎民商事件(最大判昭47.11.22)

 

(事案)

 川崎民主商工会の会長であるYは、過少申告の疑いがあるとして所得税法に基づいて税務署員から質問検査を受けたが、このような検査は憲法35条1項、38条1項に違反するとして、検査を拒否した。このため、Yは旧所得税法に違反するとして起訴された。

憲法第35条

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

憲法第38条

第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

(争点)

    刑事手続以外の手続にも憲法35条1項の令状主義の保障が及ぶか。

    刑事手続以外の手続にも憲法38条1項の黙秘権の保障が及ぶか。

(判旨)

 「憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規程による保障の枠外にあると判断することは相当でない。しかしながら、右所得税法70条10号、63条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としていからといって、これを憲法35条1項による保障は、純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以上の手続においても、実質上、掲示責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続は、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。しかし、旧所得税法70条10号、12号、63条の検査、質問の性質が上述のようなものである以上、右各規程そのものが憲法38条1項にいう、『自己に不利益な供述』を強要するものとすることはできない。」

(ポイント)

    刑事手続にも、憲法35条1項の保障は及ぶ。

しかし、旧所得税法による質問検査が令状によらないからといって、憲法35条1項に違反しない。

    憲法38条1項による保障は、純然たる刑事手続以外においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶ。

しかし、旧所得税法による質問検査はそれに該当せず、憲法38条1項に違反しない。

 

75.高田事件(最大判昭47.12.20)

(事案)

 15年にわたって公判での審理が中断された場合、迅速な裁判を受ける権利を保障する憲法37条1項の規定を直接の根拠に、審理を打ち切ることが可能であるか問題となった。

(争点)

 憲法37条1項を根拠に、審理の打ち切りができるか。

(判旨)

「憲法37条1項の保障する迅速な裁判をうける権利は、憲法をうける権利は、憲法の保障する基本的な人権の1つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判をうける被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具多的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことも認められている趣旨の規定であると解する。」

憲法37条1項

第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

(ポイント)

 憲法37条1項は、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められた場合には、その審理を打ち切るという非常救済手段を認めている。

 

76.裁判を受ける権利(最大判昭24.3.23)

(事案)

 1947年(昭和22年)5月3日の憲法施行と同時に裁判所法が施行され、それ以前の裁判管轄によれば「支部→地裁→高裁」という審級順序であったものが、「地裁→高裁→最高裁」という審級順序に変更された。

 同年5月2日付公判請求書により、旧審級で裁判を受けたXは、「同公判請求書の受付印が何者かにより5日から2日に訂正されており、本来なら新法施行後の5日の受付とするものであった。したがって、当該裁判は新法による審級で行われるべきであり、高裁で第二審の裁判を受ける権利を奪ったのは憲法32条の正当な裁判所の裁判を受ける権利の侵害である」として、最高裁に上告した。

(争点)

憲法32条は、具体的な管轄権を持つ裁判所の裁判を受ける権利まで保障しているか。

憲法32条

 第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

(判旨)

 「憲法第32条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定しているが、同条の趣旨は凡て国民は憲法又は法律に定められた裁判所においてのみ裁判を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によって裁判をされることはないことを保障したものであって、訴訟法で定める管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利を保障したものではない。」

(ポイント)

 憲法32条は、訴訟法で定める管轄権を有する具体的裁判所において裁判を受ける権利を保障したのではない。

 

77.在宅投票事件(最判昭60.11.21)

(事案)

 在宅投票制度の悪用が続出したため、国会は1952年に同制度を廃止し、その後も立法化しなかった。このため、投票場に行くことの困難であったXが、選挙の投票ができず精神的損害を受けたとして、国家賠償請求訴訟を提起した。

(争点)

 国会議員の立法行為に国家賠償法が適用されるか。

(判旨)

 「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員のお立法行為は、立法の内容が憲法の一般的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえてと当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の想定の適用上、違法の評価を受けないものとわなければならない。

 結局、本件立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわざるを得ない。」

(ポイント)

 国会議員の立法行為にも国家賠償法は適用されるが、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行う例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価は受けない。このように、極めて例外的にのみ、違法性を認める判決である。

 

78.郵便法違憲事件(最大判平14.9.11)

(事案)

 不動産会社Xは、勝訴判決に基づき、Aに対する債権の弁済を得るため、裁判所に対してAの銀行預金の差押命令を申し立てた。同裁判所は、差押命令を行い、命令正本を特別送達の方法で銀行宛に出したが、郵便業務従事者が私書箱に投函したため送達が1日遅滞し、差押えを察知したAが預金を引き出してしまい、Xは債権回収の目的を達することができなかった。そこで、Xが、国に対して損害賠償を求めた。

(争点)

 国の損害賠償責任を制限している郵便法の旧規定は、憲法17条に違反するか。

※特別送達郵便とは、特別送達のための書留郵便の一種である。

(判旨)

 「書留郵便物」について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは、通常の職務規範に従って業務執行がされている限り、ごく例外的な場合にとどまるはずであって、このような事態は、書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければならない。そうすると、このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し、又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い。

 法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は、制限している部分は、憲法17条が立法的に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。

 これら特別送達郵便の特殊性に照らすと、法雄68条、73条に規定する免責又は責任制限を設けることの根拠である法1条に定める目的自体は前記のとおり正当であるが、特別送達郵便につては、郵便業務従事者の軽過失にょる不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、その目的の達成が害されるということはできず、上記各条に規定する免責又は責任制限に合理性、必要性異があるということは困難であり、そのような免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の逸脱したものであるといわなければならない。

 そうすると、法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである。

(ポイント)

 書留郵便物について、郵便業務従事者の故意・重過失につて損害が生じた場合に、不法行為に基づくの損害賠償責任を免除・制限している郵便法の旧規定は、憲法17条に違反する。

 特別送達郵便について、郵便業務従事者の軽過失によって損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除・制限している郵便法の旧規定は、憲法17条に違反する。→違憲判決

憲法17条

第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

 

79.三井美唄事件(最大判昭43.12.4)

(事案)

  市会議員選挙において、労働組合の役員であったYらは組合として統一候補を擁立することを決定していたが、前回選挙で当選していた組案員Aは、独自の立場で立候補しようとした。YらはAの立候補を断念させようと説得を試みたが、Aが応じなかったため、Aに対して組合員としての権利を1年間停止する処分をした。

(争点)

 公職選挙への立候補の自由は、憲法15条1項で保障されるか。

憲法15条1項

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

(判旨)

 「憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。

 立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要雄である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の1つと解すべきである。」

(ポイント)

 立候補の自由は、直接の規定はないが、憲法15条1項で保障される。

 

80.在外邦人選挙権制限違憲事件(最大判平17.9.14)

(事案)

 平成8年の衆議院議員選挙に投票できなかった在外住民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)Xらが、国に対して、在外国民の選挙権を認めていない公職選挙法に基づく損害賠償を求めた。その後、平成10年に公職選挙法が改正され在外国民の選挙権を認めることになったが、当分の間、衆議院比例代表選出議員の選挙についてだけ投票をすることを認め、衆議院小選挙区議員の選挙および参議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものであったため、改正後の公職選挙法が違法であることの確認と衆議院小選挙区選挙と参議院選挙区選挙の選挙権を有することの確認を追加的に請求した。

(争点)

    在外国民に選挙権を認めていなかったことは憲法に違反するか。その後

在外国民に比例代表選出議員の選挙権のみを認めることは、憲法に違反するか。

    本件立法の不作為は、違法として国家賠償請求の対象となるか。

(判旨)

「世界各地に散在する多数の在外国民に選挙権の行使を認めるに当たり、公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達等に関して解決されるべき問題があったとしても、既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が、10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項および3項、43条1項並びに44条ただし書きに違反するものであったというべきである。

 本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成13年及び同16年に、在外国民についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると、遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票することを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。

 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、上告人らは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。

(ポイント)

①平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時、公職選挙法が、在外国民が国政選挙において投票をするのを全く認めていなかったことは、憲法15条1項・3項、43条1項、44条但書に違反する。

 公職選挙法の規定のうち、在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、遅くとも、本件判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙または参議院議員の通常選挙の時点においては、憲法15条1項、3項、43条1項、44条但書に違反する。→違憲判決

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。

但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

②在外国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには、立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、投票を可能にするための法律案が廃案となった後、平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が投票を可能にするため立法措置を執らなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。

 

81.朝日訴訟(最大判昭42.5.24)

(事案)

  生活保護法による医療扶助と生活扶助を受けていた朝日茂(X)が、兄から仕送りを受けることとなったため、社会福祉事務所は、生活扶助を打ち切り、医療扶助は一部自己負担とする決定をした。そのため、Xは、この決定を不服として、厚生大臣(現厚生労働大臣)に不服申立てをしたが却下裁決がされたので、この裁決の取消しを求める訴えを提起した。

(争点)

    憲法25条1項の生存権の規定は、どのような法的性格を有するか。

    生活保護基準の設定は、厚生大臣の裁量に委ねられ、司法審査の対象とならないか。

(判旨)

 「憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によって、はじめて与えられているというべきである。

 しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴って向上するのはもとより、多数の不確定要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがって、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬがれない。本件厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権をを濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」

(ポイント)

①憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。しなわち、25条1項は、単なる宣言文にすぎず、具体的権利の規定ではないという考え方を採用している。

②生活保護基準の設定は厚生労働大臣の合目的的な裁量に委ねられており、裁量権の逸脱・濫用がない限り違法の問題は生じず、司法審査の対象とならない。つまり、原則として司法審査の対象とならない。

 

82.掘木訴訟(最大判昭57.7.7)

(事案)

 国民年金法に基づく障害福祉年金を受給していたXが、県知事に対して児童扶養手当法に基づく児童扶養手当の受給資格の認定を請求したが、併給禁止条項があることを理由に却下された。そのため、Xは、当該条項は憲法25条に違反するとして、却下処分の取消しを求める訴えを提起した。

(争点)

 本件児童扶養手当法の併給禁止規定は、憲法25条に違反するか。

(判旨)

「憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定してその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規程にいう『健康的で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件は、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規程を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門時術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。

 社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、一方府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。本件併給調整条項が憲法25条に違反して無効であるとする上告人の主張を排斥した原判決は、結局において正当というべきである。」

(ポイント)

 憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえない場合を除き、裁判所の審査対象とならない。

 本件併給禁止規定も立法裁量の範囲内であり、憲法25条に違反しない。

 ●立法裁量(行政裁量)と裁判所の司法審査

    原則 → 審査対象とならない

    例外 → 逸脱・濫用の場合は、審査対象となる

憲法25条

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 

83.塩見訴訟(最判平元.3.2)

(事案)

 韓国籍だったXは、子どもの頃のはしかにより失明し、国民年金法(81年改正前)別表1級に該当する状態であった。その後、Xは、日本国籍を取得し、大阪府知事に対して国民年金法81条1項の障害福祉年金受給請求を行ったが、同法56条1項但書により、廃疾認定日に国民でなかったことを理由に請求を却下されたので、処分の取消しを求めた。

(争点)

国民年金法の国籍条項は、憲法14条、25条等に違反するか。

(判旨)

 「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は特別の条約の存しない限り、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。

(ポイント)

 限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される。

 障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外しても、立法裁量の範囲内であるから、国民年金法の国籍条項は、憲法に違反しない。

 

84.旭川学力テスト事件(最大判昭51.5.21)

(事案)

 文部省(現文部科学省)の企画した全国中学一斉学力テストを市立中学校において校長が実施しようとしたところ、Yらはこれを阻止するため同校校舎に侵入し、テストの実施を阻害した。そのため、Yらは、建造物侵入・公務執行妨害で起訴されたが、本件学力テストは違法であり、公務執行妨害罪は成立しないと主張した。

(争点)

    憲法23条の学問の自由は、①学問研究の自由、②研究発表の自由、③教授の自由を内容とするが、教授の自由は、普通教育課程の教師にも認められるか。

    教育内容を決定する権限はどこにあるか。

(判旨)

 「右の2つの見解(国家教育権説・国民教育権説)はいずれも極端かつ一方的であり、そのいずれも全面的に採用することはできない。

 憲法26条の規定の背後には、国民各自が1個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずからの学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するとの観念が存在していると考えられる。換言すれば、子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能であhなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある責務に属するものとしてとらえられているのである。

 しかしながら、このように、子どもの教育が、専ら子どもの利益のために、教育を与える者の責務として行われるべきものであるということからは、このような教育の内容及び方法を、誰がいかにして決定すべく、また、決定することができるかという問題に対する一定の結論は、当然には導き出されない。

 普通教育の場においても、一定の範囲における教授の自由が保障されるべきことを肯定できないではない。しかし、大学教育の場合には、学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し、普通教育においては、児童生徒にこのような能力がなく、教師が児童生徒に対して強い影響力、支配力を有することを考え、また、普通教育においては、子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく、教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があること等に思いをいたすときは、普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されないところといわなければならない。

 親は、子どもに対する自然的関係により、子どもの将来に対して最も深い関心をもち、かつ、配慮をすべき立場にある者として、子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが、このような親の教育の自由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また、私学教育における自由や前述した教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当であるけれども、それ以外の領域においては、国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、また、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有するものと解さざるをえず、これを否定すべき理由ないし根拠は、どこにもみいだせないものである。もとより、政党政治の下で多数決原理によってされる国政上の意思決定は、さまざまな政治的要因によって左右されるものであるから、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでない教育にそのような政治的影響が深く入り込む危険があることを考えるときは、教育内容に対する右のごとき国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される。」

憲法23条

第二十三条 学問の自由は、これを保障する。

憲法26条

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

(ポイント)

①普通教育の教師にも、一定の範囲の教授の自由が保障されるが、完全な教授の自由を認めることはできない。

②国は、必要かつ相当と認められる範囲で、教育内容についても決定権を有する。

 

85.全農林警職法事件(最大判昭48.4.25)

(事案)

 全農林労組の幹部であったYらは、警察官職務執行法の改正に反対する運動の一環として、勤務時間内職場集会を指示し、その結果、組合員約3,000人が参加して集会が開かれた。そのため、Yらが、国家公務員法の禁止する違法な争議のあおり行為を行ったとして起訴された。

(争点)

    公務員の労働基本権を制限することは、憲法に違反しないか。

    合憲限定解釈は許されるか。

    政治ストは許されるか。

(判旨)

「公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によって賃金その他の労働条件が決定されている立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。この労度追う基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、公務員の地位の特殊性と職務の公共性をかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである。公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定まられ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、国公法98条5項がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであって、憲法28条に違反するものではない。

 公務員の行う争議行為のうち、同法によって違法とされるものとそうでないものとの区別を認め、さらに違法とされる争議行為にも違法性の強いものと弱いものとの区別を立て、あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのはその者につき、争議行為の企画、共謀、説得、態通、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論ずるように不明確な限定解釈は、かえって犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存するものといわなければならない。いわゆる全司法仙台事件についての当該裁判所の半径(最大判昭44.4.2)は、本判決において判示したところに抵触する限度で、変更を免れないものである。

 私企業の労働者たると、公務員を含むその他の労働者たるとを問わず、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係があるとはいえない警職法の改正に対する反対のような政治的目的のために争議行為を行なうがごときは、もともと憲法28条の保障とは無関係なものというべきである。」

憲法28条

第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

憲法31条

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

国家公務員法98条5項

(法令及び上司の命令に従う義務並びに争議行為等の禁止)

第九十八条 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

② 職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。

③ 職員で同盟罷業その他前項の規定に違反する行為をした者は、その行為の開始とともに、国に対し、法令に基いて保有する任命又は雇用上の権利をもつて、対抗することができない。

(ポイント)

    公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があり、憲法に違反しない。つまり、合憲である。

    不明確な限定解釈は、憲法31条に違反する疑いがある。

    政治的目的の争議行為は、憲法28条とは無関係である。許されない。

 

86.教科書費国庫負担請求事件(最大判昭39.2.26)

(事案)                                

  公立小学校の教科書代を保護者に負担させることは、憲法26条2項に反するか。憲法26条2項後段の「無償」の範囲が問題となった。

(争点)

  憲法26条2項後段の「無償」の意味

(判旨)

  「憲法26条2項後段の「義務教育は、これを無償とする。」という意味は、国が義務教育を提供するにつき有償としないこと、換言すれば、子女の保護者に対し、その子女に普通教育を受けさせるにつき、その対価を徴収しないことを定めたものであり、教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。憲法の義務教育は無償とするとの規定は、授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償しなければならないことを定めたものと解することはできない。」

 憲法26条

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

(ポイント)

 憲法26条2項後段の「無償」とは、授業料不徴収の意味である。つまり、授業料無償説をとる。

 授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用の負担まで無償としなければならないことを定めたものではない。つまり、一切の無償説はとらない。

 

87.議員の免責特権と国家賠償責任(最大判平9.9.9)

(事案)

  衆議院議員が社会労働委員会で行った発言に対し、その質疑のなかで取り上げられた病院の院長の名誉が毀損され、その結果、同人が自殺に追い込まれたとして、その院長の妻Xが、質疑を行った議員に対しては民法709条、710条に基づき、また、国に対しては国家賠償法1条1項に基づいて、それぞれ損害賠償を請求した。

民法709条

民法710条

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

国家賠償法1条1項

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

(争点)

  国会議員の免責特権の限界

(判旨)

「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。

(ポイント)

 国家賠償法上の責任が肯定されるためには、国会議員が、その職務とはかかわりなく違法・不当な目的をもって事実を摘示したり、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなどの特別な事情が必要。

 

88.ロッキード・丸紅ルート事件(最大判平7.2.24)

(事案)

 ロッキード社の意向を受けた販売代理店丸紅の社長らが、当時の内閣総理大臣にロッキード社旅客機の購入を全日空に勧奨するよう依頼し、成功報酬として現金5億円の供与を約束して、その承諾を得た。その後、全日空の同機購入の決定がなされたために金銭授受が行われ、贈賄罪などで起訴された。

(争点)

 民間会社の旅客機導入につき、内閣総理大臣は職務権限があるといえるか。

(判旨)

 「内閣総理大臣は、憲法上、行政権を行使する内閣の首長として(66条)、国務大臣の任免権(68条)、内閣を代表して行政各部を指揮監督する職務権限(72条)を有するなど、内閣を統率し、行政各部を統括調整する地位にあるものである。そして、内閣法は、閣議は内閣総理大臣が主宰するものと定め(4条)、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督し(6条)、行政各部の処分又は命令を中止させることができるものとしている(8条)。このように、内閣総理大臣が行政各部に対し指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

(ポイント)

 内閣総理大臣が運輸大臣(現国土交通大臣)に対し民間航空会会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨するよう働きかけることは、内閣総理不大臣の運輸大臣に対する指示として、賄賂罪の職務行為にあたる。

 

89.板まんだら事件(最判昭56.4.7)

(事案)

 宗教団体創価学会の会員であったXが、宗教物「板まんだら」を安置する建築物を建立するための募金に応じて金員を寄付した。その後、Xが、「板まんだら」が偽物であったとして、錯誤無効により寄付金の返還を請求した。

(争点)

 信仰の対象の価値ないし宗教上の協議に関する判断が、裁判所による司法審査の対象となるか。

(判旨)

「本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する分須の形式をとっており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについて前提問題であるにとどまるものとされているが、本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に徴すると、本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められることからすれば、結局本件訴訟は、その実質において法令の争訟にあたらないものといわなければならない。」

(ポイント)

 信仰の対象の価値ないし宗教上の教義に関する判断は、裁判所による司法審査の対象とならない。法例を適用することによって終局的に解決することが不可能なものであって、「法律上の争訟」にあたらないからである。

●裁判所法3条1項

 裁判所は、日本国憲法に特別の定めがある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に権限を有する。

<法律上の争訟>

 ①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、②法令を適用することによって終局的に解決できるもの

 

90.国家試験と司法審査(最判昭41.2.8)

(事案)

 旧技術士法に基づく第3回技術士国家試験鉱業部門本試験(筆記試験および口頭試験)を受けたが不合格をなったXは、科学技術庁長官を相手取って、本試験における自分の解答は正しいものであって、不合格判定は誤りであるから、当該判定を合格に変更するか、または誤りの判定により被った受験料・旅費等の損害を賠償するよう請求した。

(争点)

 国家試験の合否判定は、司法審査の対象となるか。

(判旨)

 「法例の適用によって解決するに適さない単なる政治的または経済的問題や技術上または学術上に関する争は、裁判所の裁判を受けうべき事柄ではないのである。国家試験における合格、不合格の判定も学問または技術上の知識、能力、違憲等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであって、その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して、その争を解決調整できるものとはいえない。」

(ポイント)

 国家試験の合格、不合格の判定は、司法審査の対象とならない。法律上の争訟に当たらないからである。

 

91.警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7)

(事案)

 

大阪府の住民であったXらは、府議会で議決された予算に計上されている警察費は、衆議院における無効な会期延長によって議決された無効な警察法の改正に基づくものであって、その支出は違法であるとして、地方自治法242条の2の規定に基づき、同知事に対して警察費の支出禁止を求めて訴訟を提起した。

地方自治法242条の2

242条の2

普通地方公共団体の住民は、前条第1項の規定による請求をした場合において、同条第4項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第9項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第4項の規定による監査若しくは勧告を同条第5項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第9項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求

二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求

四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第243条の23項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあっては、当該賠償の命令をすることを求める請求

(争点)

 国会の両院における法律制定の議事手続は、司法審査の対象となるか。

(判旨)

「国会の両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべき同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない。従って、同法を無効とすることはできない。」

(ポイント)

 国会の両院における法律制定の議事手続は、自律権に属する行為であり、裁判所の司法審査の対象とならない。

 自律権とは、国会または各議院の内部事項について自主性に決定できる権能をいう。

 

92.苫米地事件(最大判昭35.6.8)

(事案)

 1952年、第3次吉田内閣によって、いいわゆる「抜き打ち解散」が行われたが、同解散が憲法違反であるとして、当時の衆議院銀苫米地義三(X)が、衆議院議員たる資格の確認と際費支払いを求めて出訴した。

(争点)

 衆議院の解散は、司法審査の対象となるか。

(判旨)

 「わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある現度の制約は免れないのであって、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治的判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解するべきものである。

 衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことはあきらかである。そして、その理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であって、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない。

 本件の解散が憲法7条に依拠して行われたことは本件において争いのないところであり、政府の見解は、憲法7条によって、―すなわち憲法69条に該当する場合でなくとも、―憲法上有効に衆議院の解散を行い得るものであり、本件解散は右憲法7条に依拠し、かつ、内閣の助言と承認により適法に行われたものであるとするにあることはあきらかであって、裁判所―としてhじゃ、この政府の見解を否定して、本件解散を憲法上無効なものとすることはできないのである。」

憲法7条

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

二 国会を召集すること。

三 衆議院を解散すること。

四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。

七 栄典を授与すること。

八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

九 外国の大使及び公使を接受すること。

十 儀式を行ふこと。

憲法69条

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

(ポイント)

 衆議院の解散は、統治行為に当たるから、裁判所の審査に対象とはならない。統治行為とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為で、裁判所による法律的な判断が可能であるのに、司法審査の対象から除外される行為をおいう。

 

93.村会議員出席停止事件(最大判昭35.10.19)

(事案)

 合併に伴い、役場の位置をめぐって村議会が紛糾し、この議案を成立させるために必要である出席議員の3分の2以上の同意を得られる見込みがなかったため、多数派が、反対波議員Xらを3日間の出席停止とする懲罰の決議をし、体積させた上で、村役場位置条例改正案を可決した。これに対して、Xらが懲罰および条例改正決議の無効を争った。

(争点)

 地方議会における議員を出席停止とする懲罰決議が、司法審査の対象となるか。

(判旨)

 「司法裁判権が、憲法又は他の法律によってその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法3条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の係争といっても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対償の外に」おくを相当とするものがあるのである。

 けだし、自律的な法規範をもつ社会ないし団体に在っては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。

 もっとも昭和35年3月9日大法廷判決は議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項としているが、右は議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止まらないからであって、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしているのである。従って、前者を司法裁判所に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである。」

(ポイント)

 地方議会における出席停止の懲罰決議は、内部規律の問題であるから、部分社会の法理により、司法審査の対象にならない。

 一方、地方議会における議員の除名処分の懲罰決議は、重大事項で、内部規律の問題に止まらないので、司法審査の対象となる。

 部分社会の法理とは、一般市民社会とは異なる特殊な「部分社会」を形成し、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は、司法審査の対象から除外されるという考えである。「部分社会」の具体例には、地方議会、大学、政党などがある。

 ●地方議会の議員懲罰

   出席停止  →  司法審査の対象・・・

            ∵  内部問題

   除名    →  司法審査の対象・・・〇

            ∵  重大問題

   ※政党の除名との違いに注意

 

 ●除名処分に対する司法審査

   地方議会の議員懲罰としての除名処分・・・〇

   政党による党員処分としての除名処分・・・✕(共産党袴田事件参照)

 

94.富山大学単位不認定事件(最判昭52.3.15)

(事案)

 国立大学の学生Xらが受講していた科目の担当教授であったAに対し、学部長は年度途中において授業停止の措置を採るとともに、学生に対して代替科目の受講を指示した。それにもかかわらず、XらはAの講義を受講し続け、Aによる試験を受けて合格の判定を得た。これに対して大学側の単位認定が行われなかったので、Xらは単位不認定の違法を確認する訴訟を提起した。

(争点)

    大学における単位不認定行為は、司法審査の対象となるか。

    大学における専攻科修了の不認定行為は、司法審査の対象となるか。

(判旨)

 「一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。そして、大学は、国公立であると私立であるとを問わず、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものである。

 単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民秩序と直接の関係を有するものではないことは明らかである。それゆえ、単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。

 学生が専攻科修了の要件を充足したにもかかわらず大学が専攻科修了の認定をしないときは、学生は専攻科を終了することはできず、専攻科入学の目的を達することができないのであるから、国公立の大学において右のように大学が専攻科修了の認定をしないことは、実質的にみて、一般市民としての学生の国公立大学の利用を拒否することにほかならないものというべく、その意味において、学生が一般市民として有する公の施設を利用する権利を侵害するものであると解するのが、相当である。されば、本件専攻科修了の認定、不認定に関する争いは司法審査の対象になる。」

(ポイント)

    大学における単位不認定の行為は、原則として、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題であるから、部分社会の法理により、司法審査の対象とならない。

    大学における専攻科修了の不認定行為は、内部問題にとどまらないので、司法審査の対象となる。

※なお、ここで「専攻科修了」の認定とは、簡単にいえば、「卒業」の認定のことである。つまり、単なる単位の認定・不認定は審査しないが、卒業の認定・不認定は審査するということになる。

●大学の認定・不認定行為

  単位の不認定            →  司法審査の対象・・・

                       ∵  内部問題

  専攻科修了(卒業)の不認定   →  司法審査の対象・・・〇

                       ∵  重大問題   

 

95.共産党袴田事件(最判昭63.12.20)

(事案)

 政党Xの幹部として活動していたYは、Xの最高幹部燈と意見を異にしたため、除名処分を受けた。Yは、X所有の家屋に居住していたため、XYに対し、家屋所有権に基づき、その明渡しを求めたため、前提となる除名処分の違法性・有効性が問題となった。

(争点)

 政党の除名処分に対して、司法審査できるか。

(判旨)

 「政党は、議会制民主主義を支える上においてきわめて重要な存在であるということができる。したがって、政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。他方、右のような政党の性質、目的からすると、自由な意思によって政党を結成し、あるいはそれに加入した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然である。右のような政党の結社としての自主性にかんがみると、政党のお内部的自律件に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし、したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の侵犯県は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない。

 本件除名処分は右規約に則ってされたものということができ、右規約が公序良俗に反するなどの特段の事情のあることについて主張立証もない本件においては、その手続には何らの違法もないというべきであるから、右除名処分は有効であるといわなければならない。」

(ポイント)

 政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。

 政党には、地方議会よりも高度の自主性と自律性を認めて、たとえ除名処分であっても、原則として審査しないのである。地方議会による議員除名の違いに特に注意が必要である。

 

96.特別裁判所(最大判昭31.5.30)

(事案)

 Yは、家出中の児童を淫行させたとして児童福祉法60条違反で起訴されたところ、当該犯罪について家庭裁判所の専属管轄権を定めた少年法37条1項4号の規定は、特別裁判所を禁じた憲法76条2項に違反し、無効であると主張した。

憲法76条2項

第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

② 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

児童福祉法60条

第六十条 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

② 第三十四条第一項第一号から第五号まで又は第七号から第九号までの規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

③ 第三十四条第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

④ 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

     第一項及び第二項(第三十四条第一項第七号又は第九号の規定に違反した者に係る部分に限る。)の罪は、刑法第四条の二の例に従う。

少年法37条1項4号

第三十七条 削除

(争点)

 家庭裁判所は、憲法76条2項で禁止される特別裁判所に当たるか。

(判旨)

 「家庭裁判所は、一般的に司法権を行う通常裁判所の系列に属する下級裁判所として裁判所法により設置されたものに外ならず、憲法76条2項が禁止する特別裁判所ではない。」

(ポイント)

 家庭裁判所は、憲法76条2項で禁止される特別裁判所ではない。もちろん合憲である。

 憲法76条2項で禁止される特別裁判所とは、司法権を行う通常裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関である。なお、弾劾裁判所は、特別裁判所に当たるが、憲法自信が認める例外である。

 

97.裁判を受ける権利と裁判の公開(最大判昭35.7.6)

(事案)

 借家をめぐる争いにつき、調停に代わる裁判として、非訟事件手続法の規定を適用し、非公開で、かつ決定の形式をもって事案ンお祭壇画なされた。これにつき、Xは、裁判を受ける権利の憲法32条、裁判の公開の同82条に違背すると主張した。

憲法32条

第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

憲法82条

第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

② 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

 (争点)

 憲法82条により公開を要する裁判とは何か。

 ※非訴訟事件手続法は、訴訟事件以外の裁判手続に関する法律であり、対審は非公開で行われる。

(判旨)

 「憲法32条において、何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。と規定し、82条において、裁判の対審及び判決は、対審についての同条2項の例外の場合を除き、公開法廷でこれを行う旨を定めている。即ち、憲法は一方において基本的人権として裁判請求権を認め、何人も裁判所に対し裁判を請求して司法権による権利、利益の救済を求めることができることとすると共に、他方において、純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審および判決によるべき旨を定めたのである。若し性質上純然たる訴訟条件につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し、当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によってなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に、同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没収するものといわねばならない。」

(ポイント)

 憲法82条により公開の対象となる裁判は、憲法32条と同様、純然たる訴訟事件の裁判を指す。

 難しい概念であるが、純然たる訴訟事件とは、当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し、当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判をいう。

 

98.非訴訟手続法による過料の裁判の公開(最大判昭41.12.27)

(事案)

 財団法人の理事であるXらは、新たに理事が就任したので、法定期間内にその登記をしなければならないにもっかわらず、登記手続をとらなかった。このため、京都地方裁判所により、非訟事件手続法旧207条に基づき各200円の過料に処せられた。Xらは、非訟事件手続による裁判も公開されるべきであり、裁判の公開を想定した憲法82条に反するとして抗告した。

(争点)

 非訟事件手続法による過料の裁判は公開を要するか。

(判旨)

 「民事上の秩序罰としての過料を科する作用は、国家のいわゆる後見的民事監督の作用であり、その実質においては、一種の行政処分としての性質を有するものであるから、必ずしも裁判所がこれを科することを憲法上の要件とするものではなく、行政庁がこれを科することにしても、なんら違憲とすべき理由はない。従って、法律上、裁判所がこれを科することにしている場合でも、過料を科する作用は、もともと純然たる訴訟事件としての性質の認められる掲示制裁を科する作用とは異なるのであるから、憲法82条、32条の定めるところにより、公開の法廷における対審及び判決によって行わなければならないものではない。」

(ポイント)

 非訟事件手続法による過料の裁判は、憲法32条、82条に違反しない。

 

99.裁判官の分限処分と裁判の公開(最大判平10.12.1)

(事案)

 仙台地方裁判所判事補Xは、いわゆる「組織的犯罪対策法案」に反対する市民集会にパネリストとして参加する予定であったが、同裁判長により、裁判所法52条1号の禁止する「積極的に政治運動をすること」に該当するおそれがあるとして、出席を見合わせるよう警告を受けた。そこで、Xは、一般参加者として集会に出席し、会場の一般参加者から職名を明らかにした上で発言をした。このXの発言に対し分限処分が申し立てられ、5人の裁判官からなる仙台高等裁判所特別部は、Xが言外に同法案反対の意思を表明する発言をし、もって同法案の廃案を目指している団体等の政治運動に積極的に荷担したとして、裁判所法49条所定の職務上の義務違反に、Xを紹介処分(戒告)に付す決定を下した。

裁判所法52条1号

(政治運動等の禁止)

第五十二条 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。

一 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。

裁判所法49条

(懲戒)

第四十九条 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。

(争点)

    裁判官の「積極的政治活動」を禁止することと憲法21条1項との関係。

    裁判官の分限処分の裁判と憲法82条の「裁判の公開」。

※分限とは、公務員の身分の不利益な変動のことである。

(判旨)

「憲法21条1項」の表現の自由は基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、その保障は裁判官にも及び、裁判官も一市民として右自由を有することは当然である。しかし、右自由も、もとより絶対的なものではなく、憲法上の他の要請により制約を受けることがあるのであって、憲法上の特別な地位である裁判官の職にある者の言動については、おのずから一定の制約を免れないというべきである。裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、必然的に裁判官の表現の自由を一定範囲で制約することにはなるが、右制約が合理的で必要なやむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならず、右の禁止の目的が正当であって、その目的と禁止との間に合理的関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら、憲法21条1項に違反しないというべきである。

 裁判官に対する懲戒は、裁判所が裁判という形式をもってすることとされているが、一般の公務員に対する懲戒と同様、その実質においては裁判官に対する行政処分の性質を有するものである。したがって、裁判官に懲戒を課する作用は、固有の意味における司法権の作用ではなく、懲戒の裁判は、純然たる訴訟事件②ついての裁判には当たらないことが明らかである。したがって、分限事件についいては憲法82条1項の適用はないものというべきである。

憲法21条1項

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

憲法82条1項

第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

(ポイント)

    裁判官が積極的に政治活動をすることを禁じても、憲法21条1項に違反しない。

    裁判官分限事件には、憲法82条1項は適用されない。

     

100.国民審査の性格(最大判昭27.2.20)

(事案)

 Xは、最高裁判所裁判官国民審査法36条に基づき、審査無効の訴えを提起したが、原審が請求棄却の判決を下したので、最高裁判所に上告した。

最高裁判所裁判官国民審査法36条

(審査無効の訴訟)

第三十六条 審査の効力に関し異議があるときは、審査人又は罷免を可とされた裁判官は、中央選挙管理会を被告として第三十三条第二項の規定による告示のあつた日から三十日内に東京高等裁判所に訴えを提起することができる。

(争点)

    国民審査制度の法的性格は何か。

    審査の方法に関して、罷免の可否不明により記載のない投票に「罷免を可としない」という法律上の効果を付与していることは、憲法の保障する思想・良心の自由および表現の自由を侵すか。

(判旨)

 「最高裁判所裁判官任命に関する国民審査の制度はその実質において解職の制度であるから、積極的に罷免を可とするものと、そうでないものとの2つに分かれるのであって、前者が後者より多数であるか否かを知らんとするものである。

 罷免する方がいいか悪いかわからない者は、積極的に「罷免を可とするもの」に属しないこと勿論だから、そういう者の投票は前記後者の方に入るのが当然である。それ故法が連記投票にして、特に罷免すべきものと思う裁判官にだけ✕印をつけ、」それ以外の裁判官については何も記さずに投票させ、✕印のないものを「罷免を可としない投票」(この用語は正確でない。前記の様に「積極的に罷免する意思を有するものではない」という消極的なものであって、「罷免しないことを可とする」という積極的の意味を持つものではない)の数に算えたのは前記の趣旨に従ったものであり、憲法の規定する国民審査制度の趣旨に合するものである。罷免する方がいいか悪いかわからない者は、積極的に「罷免を可とする」という意思を持たないこと勿論だから、かかる者の投票に対し、「罷免を可とするものではない」との効果を発生せしめることは、何等意思に反する効果を発生せしめるものではない、解職制度の制度かからいえば寧ろ意思に合する効果を生ぜしめるものといって差支ないのである。それ故思想の自由や良心の自由を制限するものでないこと勿論です。

(ポイント)

    国民審査は、最高裁判所裁判官の会食の制度である。つまり、リコール制である。

    記載のない投票に「罷免を可としない」という法律上の効果を付与していることは、憲法の保障する思想・良心の自由および表現の自由を侵するものではない。合憲である。

 

101.警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)

(事案)

 当時の左派社会党書記長鈴木茂三郎(X)が、国が1951年4月1日以降に行った警察予備隊の設置ならびに維持に関する一切の行為が、憲法9条に違反して無効なものであることの確認を求める訴えを、最高裁判所に直接提起した。 

(争点)

 最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるか。

(判旨)

 「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異るところはないのである(憲法76条1項参照)。わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。」

(ポイント)

 最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断できる権限を有しない。違憲審査権の性格は、付随的違憲審査制である。なぜなら、憲法81条は「第6章司法」の章に定められており、また、抽象的意見審査制の規定がないからである。

(違憲審査権の性格)

付随的違憲審査制    通常の裁判所が、具体的な事件を裁判する際に、

(判例・通説)      その前提として、事件の解決に必要な限度で、違憲審査を行う。アメリカ型

抽象的違憲審査制    特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な事件と関係なく、

            抽象的に違憲審査を行う。  ドイツ型               

 

102.砂川事件(最大判昭34.12.16)

(事案)

 砂川町にあったアメリカ軍使用の立川飛行場拡張のため測量が開始されたが、その際、基地拡張に反対する集団が境界柵を破壊し、飛行場内に立ち入った。そのため、集団に参加していたYらが、日米安全保障条約に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反として起訴された。

(争点)

    日米安保条約は、裁判所による司法審査の対象となるか。

    憲法は、自衛権に基づいて他国に日本の安全保障を求めることを禁止しているか。日本に駐留する外国軍隊は、憲法9条2項で保有が禁じられる「戦力」にあたるか。

(判旨)

 「憲法9条は、いわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されるものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである。

 同条2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解するべきである。

 本件安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎にきわめて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、その内容がいけんなりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなる点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否や判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、したがって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、それは、第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきものであると解するを相当とする。そして、このことは、本件安全保障条約またはこれに基く政府の行為の違憲なりや否やが、本件のような前提問題となっている場合であると否とにかかわらないのである。

 アメリカ合衆国軍隊の駐留は、憲法9条、98条2項および前文の趣旨に適合こそすれmこれらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。」

憲法9条

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

憲法98条2項

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

② 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

(ポイント)

    条約も司法審査の対象となり得るが、安保条約のように主権国としてわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度に政治性を有するものは、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、司法審査の対象とならない。

●条約の司法審査

  一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法審査の対象とならない。

     憲法は、自衛権に基づいて他国に安全保障を求めることを禁止するものではない。外国の軍隊は、憲法9条2項の「戦力」に該当しない。

 

103.福岡県青少年保護育成条例事件(最大判昭60.10.23)

(事案)

 福岡県青少年保護育成条例は、小学校就学時から満18歳に達するまでの者を青少年と定義した(3条1項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない」(10条1項)とし、違反者に対して、2年以下の懲役または10万円以下の罰金に科す(16条1項)とともに、違反者が青少年であるときは刑罰ウィ「適用しない(17条)と規定していた。

 Yは、高校1年に在学中の少女に「淫行」を働いたとして起訴された。

(争点)

 「淫行」の意義。

(判旨)

「本条例10条1項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。」

(ポイント)

 「淫行」とは、青少年を誘惑し、威嚇し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為をいうと解する、合憲限定解釈をしている。

 

104。旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18.3.1)

(事案)

 国民健康保険は、国民健康保険税として徴収する場合と国民健康保険料として徴収する場合があるが、Y市は、国民健康保険法に基づいて、国民健康保険料として徴収していた。

Xは、Y市を保険者とする国民健康保険の一般被保険者であるが、平成6年度から同8年度までの各年度分の国民健康保険の保険料について、Y市から賦課処分を受け、また、Y市長から賦課処分を受け、また、Y市長から所定の減免事由に該当しないとして減免しない旨の通知を受けた。そこで、Xは、Y市に対し各賦課処分の取消しおよび無効確認を、Y市長に対し上記各減免非該当処分の取消しおよび無効確認をそれぞれ求めた。

(争点)

 国民健康保険料に租税法律主義を定める憲法84条が適用されるか。

(判旨)

「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。

 市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。したがって、上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである(国民健康保険は、目的税であって、上記の反対給付として徴収されるものであるが、形式が税である以上は、憲法84条の規定が適用されることとなる。)。

もっとも、憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、同条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり、憲法84条に規定する租税ではないという理由だから、そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則のうち外にあると判断することは相当でない。そして、租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。

(ポイント)

市町村が行う国民健康保険の保険料については、憲法84条の規定が直接に適用されることはないが、同条の趣旨は及ぶ。

そして、国民健康保険法の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められているかは、賦課徴収の強制の度合いのほか、社会保険としての国民健康保険の目的、特質等も総合考慮して判断する。

憲法84条

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 

 

105.パチンコ球遊器事件(最大判昭33.3.28)

(事案)

 Xらは、パチンコ球遊器製造業者であるが、その製造するパチンコ球遊器に対し、それが物品税の課税物件たる遊戯具(旧物品税法1条1項二種丁類28)に該当するとの理由で、物品税を賦課された。それまで、パチンコ球遊器は原則的に「遊戯具」に属さない非課税物品として長く取扱われてきたが、昭和26年3月、東京国税局長が、同年9月、国税庁長官が、これぞれ管下の下級税務庁に「パチンコ球遊器は遊戯具であるから物品税を賦課せよ」との趣旨の通達を発するに至り、各税務官庁は、この通達に基づいて、パチンコ球遊器に物品税を課税することになったものであった。

(争点)

 通達をきっかけに租税を課すのは、憲法84条の租税法律主義に反しないか。

(判旨)

 「本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものがあって、差諭旨得ない。」

(ポイント)

 課税が通達を機縁として行われたものでも、通達内容が法の正しい解釈に合致するものであれば、当該課税処分は法の根拠に基く処分といえる。

106.定住外国人の選挙権(最大判平7.2.28)

(事案)

 在日韓国人Xらは、自分たちが選挙人名簿に登録されていないことは不当であるとして、選挙管理委員会Yらに対して、異議の申出をしたが、Yらが却下の決定をしたので、この却下決定の取消しを求める訴えを提起した。

(争点)

    憲法15条1項の選挙権は、外国人にも保障されるか。

    憲法93条2項の「住民」に外国人は含まれるか。

    定住外国人に法律でもって地方選挙権を付与することは許されるか。

     

(判旨)

「公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規程による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。

 憲法93条2項にいう『住民』とは、地方公共付団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規程は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。

 憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙区権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。」

憲法15条1項

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

憲法93条2項

第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

(ポイント)

    公務員の選定権を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみを対象と市、外国人には及ばない。

    憲法93条2項の「住民」は、日本国民のみを指し、外国人は含まれない。したがって、憲法93条2項により地方議会の議員等の選挙権が外国人にほしょうされるものではない(肯定説ではない)。

    定住外国人に法律でもって地方選挙権を付与することは憲法上禁止されていない(否定説ではない)。ただし、付与するかどうかは国の立法政策の問題である。

  ●定住外国人の地方選挙権

    立法可能接

    法律で、地方選挙権を付与することは憲法上禁止されない(判例)

 

107.百里基地訴訟(最大判平元.6.20)

(事案)

 Xは、自己の所有する土地を基地反対波町長Yの使用人Aに売却する契約を締結した。しかし、売買代金の一部が不払いのため、Xは、債務不履行を理由として売買契約を解除し、自衛隊基地用地として国に売却した。X及び国は、Aと実質的な買主Yに対し、所有権確認の訴えなどの民事訴訟を提起した。

(争点)

     国が行う私法上の行為は、憲法98条1項の「国務に関するその他の行為」に該当するか。

    私法上の行為に憲法9条が適用されるか。

憲法98条1項

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

憲法9条

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(判旨)

「憲法98条1項にいう『国務に関するその他の行為』とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、したがって、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的、具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為であるから、かかる法規範を定立する限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。

 憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が行政の主体としてではなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解するのが相当である。

 憲法9条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となりうるものであることはいうまでもないが、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではない。憲法9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範であるから。私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法90条にいう「公の秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはないのであって、右の規範は、私法的な価値秩序の下で確立された私的自治の原則、契約に向けての信義則、取引の安全等の私法上の規範によって相対化され、民法90条にいう、」「公の秩序」の内容の一部を形成するのであり、したがって私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。

 自衛隊の基地建設を目的ないし動機として締結された本社売買契約が、その私法上の契約としての効力を否定されるような行為であったとはいえない。また、上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは理念ないし目的としての抽象的概念であるから、憲法9条を離れてこれとは別に、民法90条にいう「公の秩序」の内容の一部を形成することはなく、したがって私法上の行為の効力の判断基準とはならないものというべきである。」

(ポイント)

    私人と対等の立場で行う国の行為は、「国務に関するその他の行為」に該当しない。

    憲法9条は、私法上の行為に直接適用されない。

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