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平成30年6月と令和2年10月に、相次いで結審した「同一労働同一賃金」に関する重要な最高裁判例を以下の通り、ご案内申し上げます。

①大阪医科薬科大学事件

(令和2年10月13日  最高裁第三小法廷判決) 

大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日  最高裁第三小法廷判決)

 

令和元年(受)第1055号,第1056号 地位確認等請求事件

令和2年10月13日 第三小法廷判決

 

 主 文

 1 第1審被告の上告に基づき,原判決を次のとおり変更する。

 第1審判決を次のとおり変更する。

 (1) 第1審被告は,第1審原告に対し,5万5110円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (2) 第1審原告のその余の請求を棄却する。

 2 第1審原告の上告を棄却する。

 3 訴訟の総費用は,これを250分し,その1を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告の負担とする。

 理 由

令和元年(受)第1055号上告代理人谷村和治ほかの上告受理申立て理由及び同第1056号上告代理人鎌田幸夫ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも

排除されたものを除く。)について1 本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務していた第1審原告が,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している正職員と第1審原告との間で,賞与,業務外の疾病(以下「私傷病」という。)による欠勤中の賃金等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったとして,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求める事案である。- 2 -2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア 第1審被告は,大阪医科大学(以下「本件大学」という。),同大学附属病院等を運営している学校法人であり,平成28年4月1日,学校法人大阪薬科大学と合併した(合併前の名称は学校法人大阪医科大学)。

イ 第1審原告は,平成25年1月29日,第1審被告との間で契約期間を同年3月31日までとする有期労働契約を締結し,アルバイト職員として勤務した。その後,第1審原告は,契約期間を1年として上記契約を3度にわたって更新し,平成28年3月31日をもって退職した。なお,第1審原告は,平成27年3月に適応障害と診断され,同月9日から上記の退職日まで出勤せず,同年4月から5月にかけての約1か月間は年次有給休暇を取得した扱いとなり,その後は欠勤扱いとなった。

(2)ア 第1審原告が在籍した当時,第1審被告には,事務系の職員として正職員,契約職員,アルバイト職員及び嘱託職員が存在したが,このうち無期労働契約を締結している職員は正職員のみであった。また,正職員と契約職員は月給制,嘱託職員は月給制又は年俸制であった。これに対し,アルバイト職員は時給制であり,このうち正職員と同一の所定労働時間(以下「フルタイム」という。)である者の数は4割程度であり,短時間勤務の者の方が多かった。平成27年3月時点において,第1審被告の全職員数は約2600名であり,このうち事務系の職員は,正職員が約200名,契約職員が約40名,アルバイト職員が約150名,嘱託職員が10名弱であった。

イ 第1審原告が在籍した当時,正職員には,学校法人大阪医科大学就業規則(以下「正職員就業規則」という。)のほか,就業規則の性質を有する学校法人大阪医科大学給与規則(以下「正職員給与規則」という。)及び学校法人大阪医科大学休職規程(以下「正職員休職規程」という。)が適用されていた。これらの規則等に基づき,正職員には,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,年次有給休暇(正職員就業規則の定める日数),夏期特別有給休暇,私傷病- 3 -による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与されていた。正職員給与規則上,基本給は,採用時の正職員の職種,年齢,学歴,職歴等をしんしゃくして決定するものとされ,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされていた。また,賞与に関しては,第1審被告が必要と認めたときに臨時又は定期の賃金を支給すると定められているのみであった。上記の当時,アルバイト職員には,学校法人大阪医科大学アルバイト職員就業内規(以下「アルバイト職員就業内規」という。)が適用されていた。アルバイト職員就業内規に基づき,アルバイト職員には,時給制による賃金の支給及び労働基準法所定の年次有給休暇の付与がされていたが,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,その余の年次有給休暇,夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった。アルバイト職員就業内規上,賃金は,職種の変更等があった場合に時給単価を変更するものとされ,昇給の定めはなかった。

(3)ア 正職員は,本件大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり,その業務の内容は,配置先によって異なるものの,総務,学務,病院事務等多岐に及んでいた。正職員が配置されている部署においては,定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め,中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に伴う責任は大きいものであった。また,正職員就業規則上,正職員は,出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われており,平成25年1月から同27年3月までの間においては約30名の正職員がその対象となっていた。一方,アルバイト職員は,アルバイト職員就業内規上,雇用期間を1年以内とし,更新する場合はあるものの,その上限は5年と定められており,その業務の内容は,定型的で簡便な作業が中心であった。また,アルバイト職員については,アルバイト職員就業内規上,他部門への異動を命ずることがあると定められていたが,業務の内容を明示して採用されていることもあり,原則として業務命令によっ- 4 -て他の部署に配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。なお,契約職員は正職員に準ずるものとされ,第1審被告において,業務の内容の難度や責任の程度は,高いものから順に,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員とされていた。

イ 第1審被告においては,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員への試験による登用制度が設けられていた。前者については,アルバイト職員のうち,1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するものとされ,受験資格を有する者のうち3~5割程度の者が受験していた。平成25年から同27年までの各年においては16~30名が受験し,うち5~19名が合格した。また,後者については,平成25年から同27年までの各年において7~13名が合格した。

(4)ア 本件大学には,診療科を持たない基礎系の教室として,生理学,生化学,薬理学,病理学等の8教室が設置され,教室事務を担当する職員(以下「教室事務員」という。)が1,2名ずつ配置されており,平成11年当時,正職員である教室事務員が9名配置されていた。教室事務員については,その業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,第1審被告は,平成13年頃から正職員を配置転換するなどしてアルバイト職員に置き換え,同25年4月から同27年3月までの当時,正職員は4名のみであった。これらの正職員のうち3名は教室事務員以外の業務に従事したことはなかったところ,正職員が配置されていた教室では,学内の英文学術誌の編集事務や広報作業,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在しており,第1審被告が,アルバイト職員ではなく,正職員を配置する必要があると判断していたものであった。

イ 第1審原告が平成25年1月に締結した有期労働契約では,就業場所は本件大学薬理学教室,主な業務の内容は薬理学教室内の秘書業務,賃金は時給950円であった。同契約は,同年4月以降に3度にわたって更新され,その際,時給単価- 5 -が若干増額されることがあった。もっとも,具体的な職務の内容に特段の変更はなく,その業務の内容は,所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理や日程調整,電話や来客等の対応,教授の研究発表の際の資料作成や準備,教授が外出する際の随行,教室内における各種事務(教員の増減員の手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成や提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理,備品管理,清掃やごみの処理,出納の管理等であった。また,第1審原告の所定労働時間はフルタイムであった。そして,第1審被告は,第1審原告が多忙であると強調していたことから,第1審原告が欠勤した際の後任として,フルタイムの職員1名とパートタイムの職員1名を配置したが,恒常的に手が余っている状態が続いたため,1年ほどのうちにフルタイムの職員1名のみを配置することとした。

(5)ア 第1審原告の平成25年4月から同26年3月までの賃金の平均月額は14万9170円であり,同期間を全てフルタイムで勤務したとすると,その賃金は月額15~16万円程度であった。これに対し,平成25年4月に新規採用された正職員の初任給は19万2570円であり,第1審原告と同正職員との間における賃金(基本給)には2割程度の相違があった。

イ 第1審被告においては,正職員に対し,年2回の賞与が支給されていた。平成26年度では,夏期が基本給2.1か月分+2万3000円,冬期が同2.5か月分+2万4000円,平成22,23及び25年度では,いずれも通年で基本給4.6か月分の額が支給されており,その支給額は通年で同4.6か月分が一応の基準となっていた。また,契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていた。これに対し,アルバイト職員には賞与は支給されていなかった。なお,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額は,平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額の55%程度の水準であった。

ウ 第1審被告においては,正職員が私傷病で欠勤した場合,正職員休職規程により,6か月間は給料月額の全額が支払われ,同経過後は休職が命ぜられた上で休- 6職給として標準給与の2割が支払われていた。これに対し,アルバイト職員には欠勤中の補償や休職制度は存在しなかった。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,第1審原告の賞及び私傷病による欠勤中の賃金に係る損害賠償請求を一部認容した。

(1) 第1審被告の正職員に対する賞与は,その支給額が基本給にのみ連動し,正職員の年齢や成績のほか,第1審被告の業績にも連動していない。そうすると,上記賞与は,正職員としてその算定期間に在籍し,就労していたことの対価としての性質を有するから,同期間に在籍し,就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し,賞与を全く支給しないことは不合理である。そして,正職員に対する賞与には付随的に長期就労への誘因という趣旨が含まれることや,アルバイト職員の功労は正職員に比して相対的に低いことが否めないことに加え,契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていることに照らすと,第1審原告につき,平成25年4月に新規採用された正職員と比較し,その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

(2) 第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金は,正職員として長期にわたり継続して就労したことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から,その生活保障を図る趣旨であると解される。そうすると,フルタイムで勤務し契約を更新したアルバイト職員については,職務に対する貢献の度合いも相応に存し,生活保障の必要があることも否定し難いから,欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理である。そして,アルバイト職員の契約期間は原則1年であり,当然に長期雇用が前提とされているものではないことに照らすと,第1審原告につき,欠勤中の賃金のうち給料1か月分及び休職給2か月分を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 賞与について- 7 -ア 労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

() 第1審被告の正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり,基本給とは別に支給される一時金として,その算定期間における財務状況等を踏まえつつ,その都度,第1審被告により支給の有無や支給基準が決定されるものである。また,上記賞与は,通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており,その支給実績に照らすと,第1審被告の業績に連動するものではなく,算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして,正職員の基本給については,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており,勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上,おおむね,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば,第1審被告は,正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

() そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該- 8 -業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容は共通する部分はあるものの,第1審原告の業務は,その具体的な内容や,第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると,相当に軽易であることがうかがわれるのに対し,教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。さらに,第1審被告においては,全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており,その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ,第1審被告は,教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,平成13年頃から,一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。その結果,第1審原告が勤務していた当時,教室事務員である正職員は,僅か4名にまで減少することとなり,業務の内容の難度や責任の程度が高く,人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように,教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。また,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情ついては,教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認- 9 -められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

() そうすると,第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて,教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば,正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり,そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや,正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても,教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

ウ 以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

(2) 私傷病による欠勤中の賃金について第1審被告が,正職員休職規程において,私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは,正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと,同賃金は,このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。- 10 -そして,第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の職務の内容等をみると,前記(1)のとおり,正職員が配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務等が存在し,正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるなど,教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったことは否定できない。さらに,教室事務員である正職員が,極めて少数にとどまり,他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては,教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか,職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在するものである。そうすると,このような職務の内容等に係る事情に加えて,アルバイト職員は,契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば,教室事務員であるアルバイト職員は,上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。また,第1審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがって,教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものとはいえない。

以上によれば,本件大学の教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で,アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

②メトロコマース事件(令和2年10月13日
 最高裁第三小法廷判決)

メトロコマース事件(令和2年10月13日  最高裁第三小法廷判決) 

令和元年(受)第1190号,第1191号 損害賠償等請求事件

令和2年10月13日 第三小法廷判決 

 主 文

 1 第1審被告の上告に基づき,原判決主文第2項を次のとおり変更する。

 第1審判決中,第1審原告X1及び第1審原告X2に関する部分を次のとおり変更する。

 (1) 第1審被告は,第1審原告X1に対し,33万0880円及びうち原判決別紙「控訴人X1の差額一覧」記載の各金員に対する各日から,うち3万0080円に対する平成26年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (2) 第1審被告は,第1審原告X2に対し,17万6440円及びうち原判決別紙「控訴人X2の差額一覧」記載の各金員に対する各日から,うち1万6040円に対する平成26年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (3) 第1審原告X1及び第1審原告X2のその余の請求をいずれも棄却する。

 2 第1審原告らの上告を棄却する。

 3 訴訟の総費用のうち,第1審被告と第1審原告X1との間で生じたものはこれを40分し,その1を第

1審被告の負担とし,その余を第1審原告X1の負担とし,第1審被告と第1審原告X2との間で生じたものはこれを200分し,その3を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告X2の負担とする。

 理 由

令和元年(受)第1190号上告代理人髙橋一郎,同近衞大,同河本みま乃の上告受理申立て理由及び同第1191号上告代理人滝沢香ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について

1 本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して東京地下鉄株式会社(以下「東京メトロ」という。)の駅構内の売店における販売業務に従事していた第1審原告らが,第1審被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者のうち上記業務に従事している者と第1審原告らとの間で,退職金等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったなどと主張して,第1審被告に対し,不法行為等に基づき,上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア 第1審被告は,東京メトロの完全子会社であって,東京メトロの駅構内における新聞,飲食料品,雑貨類等の物品販売,入場券等の販売,鉄道運輸事業に係る業務の受託等の事業を行う株式会社である。第1審被告の平成25年7月1日当時の従業員数は848名であった。

なお,第1審被告は,平成12年10月,営団地下鉄グループの関連会社等の再編成に伴い,売店事業を行っていた財団法人地下鉄互助会(以下「互助会」という。)から売店等の物販事業に関する営業を譲り受けるなどした。

イ 第1審原告らは,いずれも高等学校等を卒業した後,社会人生活を経て,第1審原告X2は平成16年4月,第1審原告X1は同年8月,それぞれ後記(2)エの契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。

(2)ア 第1審被告は,本社に経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステーション事業本部を設けており,リテール事業本部は基幹事業としてメトロス事業所を管轄し,同事業所が東京メトロの駅構内の売店を管轄している。平成26年4月当時,第1審被告の経営する売店110店舗のうち,56店舗は第1審被告の直営する売店METRO’S(以下,単に「売店」といい,売店における販売業務を「売店業務」という。)であり,その他の店舗は他社に業務を委託していた。その後,売上高の大きな割合を占めていた新聞及び雑誌の売上高の減少による不採算店舗の閉鎖や大手コンビニエンスストアとの提携によるコンビニ型店舗の展開等により,売店数は,平成27年8月時点で42店舗,同28年3月時点で25店舗にそれぞれ減少し,他方,コンビニ型店舗は平成28年度までに27店舗が開業するなどした。

第1審被告においては,従業員は,社員(以下「正社員」という。),契約社員A(平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ,それぞれ適用される就業規則が異なっていた。

イ 正社員は,無期労働契約を締結した労働者であり,定年は65歳であった。正社員は,本社の経営管理部,総務部,リテール事業本部及びステーション事業本部の各部署に配置されるほか,各事業本部が所管するメトロス事業所,保守管理事業所,ストア・ショップ事業所等に配置される場合や関連会社に出向する場合もあ

った。平成25年度から同28年度までにおける第1審被告の正社員(同年度については職種限定社員を含む。)は560~613名であり,うち売店業務に従事していた者は15~24名であった。なお,第1審被告は,東京メトロから57歳以上の社員を出向者として受け入れ,60歳を超えてから正社員に切り替える取扱いをしているが,上記出向者は売店業務に従事していない。正社員の労働時間は,本社では1日7時間40分(週38時間20分),売店勤務では1日7時間50分(週39時間10分)であり,職務の限定はなかった。また,正社員は,業務の必要により配置転換,職種転換又は出向を命ぜられることがあり,正当な理由なく,これを拒むことはできなかった。

ウ 契約社員Aは,主に契約期間を1年とする有期労働契約を締結した労働者である。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢をいう。以下同じ。)は65歳と定められていた。契約社員Aは,契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられ,本社の経営管理部施設課,メトロス事業所及びストア・ショップ事業所以外には配置されていなかった。なお,平成28年4月,契約社員Aの名称は職種限定社員に改められ,その契約は無期労働契約に変更された。

エ 契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり,一時的,補完的な業務に従事する者をいうものとされていた。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年は65歳と定められていた。なお,契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であった。契約社員Bの労働時間は,大半の者が週40時間と定められていた。契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあったが,業務の内容に変更はなく,正社員と異なり,配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

オ 第1審原告らの就業場所は,リテール事業本部メトロス事業所管轄METRO’S売店,従事する業務の種類は,売店における販売及びその付随業務であり,労働時間は,1日8時間以内(週40時間以内)であった。

(3)ア 正社員の賃金は月給制であり,月例賃金は基準賃金と基準外賃金から成り,昇格及び昇職制度が設けられていた。基準賃金は,本給,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当により,基準外賃金は,年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当等により,それぞれ構成されていた。

本給は年齢給及び職務給から成り,前者は,18歳の5万円から始まり,1歳ごとに1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円であり,後者は,三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円までであった。正社員には,年2回の賞与及び退職金が支給されていた。賞与は,平成25年度から同29年度までの各回の平均支給実績として,本給の2か月分に17万6000円を加算した額が支給された。退職金は,第1審被告の作成した退職金規程により,計算基礎額である本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものと定められていた。

イ 契約社員Aの賃金は月給制であり,月例賃金額は16万5000円(本給)であった。これに加えて,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給され,本人の勤務成績等による昇給制度が設けられていた。

契約社員Aには,年2回の賞与(年額59万4000円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。なお,契約社員Aについては,平成28年4月に職種限定社員に名称が改められ,その契約が無期労働契約に変更された際に,退職金制度が設けられた。

ウ 契約社員Bの賃金は時給制の本給及び諸手当から成っていた。本給は,時間給を原則とし,業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定めるものとされており,第1審原告らが入社した当時は一律1000円であったが,平成22年4月以降,毎年10円ずつ昇給するものとされた。諸手当は,年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当等であり,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当は支給されていなかった。

契約社員Bには,年2回の賞与(各12万円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。

エ 第1審被告においては,業務上特に顕著な功績があった従業員に対し,褒賞を行うものとされていたが,正社員には,勤続10年及び定年退職時に金品が支給されていたのに対し,契約社員A及び契約社員Bには,これらが支給されていなかった。

(4)ア 平成27年1月当時,売店業務に従事する従業員は合計110名であり,その内訳は,正社員が18名,契約社員Aが14名,契約社員Bが78名であった。このうち正社員は,互助会において売店業務に従事し,平成12年の関連会社等の再編成の後も引き続き第1審被告の正社員として売店業務に従事している者と,後記(5)の登用制度により契約社員Bから契約社員Aを経て正社員になった者とが,約半数ずつでほぼ全体を占めていた。なお,その後,上記の互助会の出身者が他の部署に異動したことがあったほか,平成28年3月には,売店業務に従事する従業員が合計56名に減少し,このうち正社員は4名となった。イ 販売員が固定されている売店における業務の内容は,売店の管理,接客販売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務であり,これらは正社員,契約社員A及び契約社員Bで相違することはなかった。もっとも,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を行っていたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあり,契約社員Aも,正社員と同様に代務業務を行っていた。これに対し,契約社員Bは,原則として代務業務を行わず,エリアマネージャー業務に従事することもなかった。(5) 第1審被告においては,契約社員Bから契約社員A,契約社員Aから正社員への登用制度が設けられ,平成22年度から導入された登用試験では,原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。平成22年度から同26年

度までの間においては,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名が,それぞれ合格した。

(6) 第1審被告は,第1審原告らが加入する労働組合との団体交渉を経て,契約社員Bの労働条件に関し,平成21年以降,年末年始出勤手当,早番手当及び皆勤手当の導入や,年1日のリフレッシュ休暇及び会社創立記念休暇(有給休暇)の付与などを行った。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,第1審原告らの退職金に係る不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも一部認容した。一般に,退職金には賃金の後払い,功労報償等の様々な性格があるところ,長期雇用を前提とする無期労働契約を締結した労働者(以下「無期契約労働者」という。)に対し,福利厚生を手厚くし,有為な人材の確保及び定着を図るなどの目的もって退職金制度を設ける一方,本来的に短期雇用を前提とした有期労働契約を締結した労働者(以下「有期契約労働者」という。)に対し,これを設けないとい

う制度設計自体は,人事施策上一概に不合理であるとはいえない。もっとも,第1審被告においては,契約社員Bは契約期間が1年以内の有期契約労働者であり,賃金の後払いが予定されているとはいえないが,原則として契約が更新され,定年が65歳と定められており,実際に第1審原告らは定年により契約が終了するまで1

0年前後の長期間にわたって勤務したことや,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば,少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額

すら一切支給しないことは不合理である。したがって,売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの間の退職金に関する労働条件の相違は,労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても,第1審原告らのような長期間勤務を継続した契約社員Bに全く退職金の支給を認めない点において,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

(2)ア 第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。そして,上記退職金は,本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ,その支給対象となる正社員は,第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され,業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり,また,退職金の算定基礎となる本給は,年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。このような第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

イ そして,第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員Bである第1審原告らの労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると,両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく,これを拒否することはできなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。

さらに,第1審被告においては,全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが,売店業務に従事する正社員と,第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは,職務の内容及び変更の範囲につ

き相違があったものである。そして,平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は,同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体をめ,売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり,上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし,賃金水準を変更したり,他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。このように,売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また,第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

ウ そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。なお,契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ,その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの,このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また,契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや,契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば,無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって,上記の判断を左右するものでもない。

(3) 以上によれば,売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

5 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する第1審被告の論旨は理由があり,他方,第1審原告らの論旨は理由がなく,第1審原告らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。そして,同請求に関する部分以外につい

ては,第1審原告ら及び第1審被告の各上告受理申立て理由が上告受理の決定においてそれぞれ排除された。以上によれば,第1審原告X1の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ22万0800円,8万円及び3万0080円の合計33万0880円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求

める限度で理由があり,第1審原告X2の請求は,住宅手当,褒賞及び弁護士費用に相当する損害金としてそれぞれ11万0400円,5万円及び1万6040円の合計17万6440円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容すべきであり,その余はいずれも理由がないから棄却すべ

きである。したがって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記の各金額を超える部分はいずれも破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第1項のとおり変更することとし,また,第1審原告らの上告はいずれも棄却すべきである。よって,裁判官宇賀克也の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文

のとおり判決する。なお,裁判官林景一,同林道晴の各補足意見がある。裁判官林景一の補足意見は,次のとおりである。私は,多数意見に賛同するものであるが,本件の退職金に関する相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かの判断の在り方等について,若干の意見の補足をしたい。

1 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たっては両者の職務の内容等を考慮すべき旨を規定しており,その判断に当たっては,当該労働条件の性質やこれを定めた目的を踏まえて検討すべきものである。そして,原審が適法に確定した事実関係を前提とすれば,多数意見が述べるとおり,第1審原告らと比較の対象とされた売店業務に従事する正社員の職務の内容等に相違があったことは否定できないところ,原審は,無期契約労働者に対してのみ退職金制度を設けること自体は人事施策上一概に不合理であるとはいえないとしつつ,上記の職務の内容等を十分に考慮することなく,契約社員Bの契約が原則として更新され,定年制が設けられ,第1審原告らが長期間にわたって勤務したこと等を考慮して,退職金に関する相違の一部を不合理と認められるものに当たると判断した。しかしながら,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,多数意見が述べるおり,原審が摘示した上記の諸事情を考慮しても,第1審原告らに対し退職金を支給しないことが不合理であるとまで評価することができるものとはいえないといわざるを得ない。なお,有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており,有期契約労働者と比較の対象とされた無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合には,両者の間に退職金の支給に係る労働条件の相違を設けることが不合理と認められるものに当たると判断されることはあり得るものの,上記に述べたとおり,その判断に当たっては,企業等において退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的をも十分に踏まえて検討する必要がある。退職金は,その支給の有無や支給方法等につき,労使交渉等を踏まえて,賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ,退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。

2 更に付言すると,労働契約法20条は,有期契約労働者については,無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである(最高裁平成28年(受)第2099号,第2100号同30年6月1日判決・民集72巻2号88頁参照)。そして,退職金には,継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば,企業等が,労使交渉を経るなどして,有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは,同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。現に,同条が適用されるに際して,有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。

裁判官林道晴は,裁判官林景一の補足意見に同調する。

裁判官宇賀克也の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見とは異なり,本件の事実関係の下で,長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ,第1審被告の上告及び第1審原告らの上告は,いずれも棄却すべきものと考える。その理由は,以下のとおりである。多数意見のいうように,第1審被告の正社員に対する退職金の性質やこれを支給する目的を踏まえ,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮して,退職金に係る労働条件の相違が不合理と評価することができるかどうかを検討すべきものとする判断枠組みを採ることには異論はない。また,林景一裁判官の補足意見が指摘するとおり,退職金は,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があること等からすれば,裁判所が退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を是正する判断をすることには慎重さが求められるということもできる。しかし,契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期契約労働者として採用されるものの,当該労働契約は原則として更新され,定年が65歳と定められており,正社員と同様,特段の事情がない限り65歳までの勤務が保障されていたといえる。契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であるから,契約社員Bは,平均して約18年間にわたって第1審被告に勤務することが保障されていたことになる。他方,第1審被告は,東京メトロから57歳以上の社員を出向者として受け入れ,60歳を超えてから正社員に切り替える取扱いをしているというのであり,

このことからすると,むしろ,正社員よりも契約社員Bの方が長期間にわたり勤務することもある。第1審被告の正社員に対する退職金は,継続的な勤務等に対する功労報償という性質を含むものであり,このような性質は,契約社員Bにも当てはまるものである。また,正社員は,代務業務を行っていたために勤務する売店が固定されておらず,複数の売店を統括するエリアマネージャー業務に従事することがあるが,契約社員Bも代務業務を行うことがあり,また,代務業務が正社員でなければ行えないような専門性を必要とするものとも考え難い。エリアマネージャー業務に従事する者は正社員に限られるものの,エリアマネージャー業務が他の売店業務と質的に異なるものであるかは評価の分かれ得るところである。正社員は,配置転換,職種転換は出向の可能性があるのに対して,契約社員Bは,勤務する売店の変更の可能性があるのみという制度上の相違は存在するものの,売店業務に従事する正社員は,互助会において売店業務に従事していた者と,登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めており,当該売店業務がいわゆる人事ローテーションの一環として現場の勤務を一定期間行わせるという位置付けのものであったとはいえない。そうすると,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はない。以上のとおり,第1審被告の正社員に対する退職金の性質の一部は契約社員Bにも当てはまり,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はないことからすれば,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。他方,多数意見も指摘するとおり,第1審被告の正社員に対する退職金は,職務

遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いの性質も有するものであるし,一般論として,有為な人材の確保やその定着を図るなどの目的から,継続的な就労が期待される者に対して退職金を支給する必要があることは理解することができる。そして,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲

に一定の相違があることは否定できず,当該正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについて,第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえること等も考慮すると,売店業務に従事する正社員と契約社員Bとの間で退職金に係る労働条件に相違があること自体は,不合理なことではない。退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を尊重する余地があることにも鑑みると,契約社員Bに対し,正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額を超えて退職金を支給しなくとも,不合理であるとまで評価することができるものとはいえないとした原審の判断をあえて破棄するには及ばないものと考える。(裁判長裁判官 林 景一 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宮崎裕子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴)

③日本郵便 大阪事件
(令和
1()794 地位確認等請求事件
令和
21015日最高裁判所第一小法廷判決)

日本郵便 大阪事件(令和1()794 地位確認等請求事件 令和21015日最高裁判所第一小法廷判決) 

令和元年(受)第794号,第795号 地位確認等請求事件

令和2年10月15日 第一小法廷判決 

 主 文

 1 第1審被告の上告を棄却する。

 2 原判決中,次の部分を破棄する。

 (1) 第1審原告X1の平成27年4月30日以前における年末年始勤務手当及び同日以前における1月1日から同月3日までの期間(ただし,祝日を除く。)の勤務に対する祝日給に係る損害賠償請求に関する部分

 (2) 第1審原告X2及び第1審原告X3の扶養手当に係る損害賠償請求に関する部分 3 前項の破棄部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 4 第1審原告X1,第1審原告X2及び第1審原告X3のその余の上告を棄却する。

 5 第1項に関する上告費用は第1審被告の負担とし,前項に関する上告費用は第1審原告X1,第1審原告X2及び第1審原告X3の負担とする。

 理 由

第1 事案の概要

1 本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務し,又は勤務していた時給制契約社員又は月給制契約社員である第1審原告らが,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」とい- 2 -う。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)と第1審原告らとの間で,年末年始勤務手当,祝日給,扶養手当,夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア 第1審被告は,国及び日本郵政公社が行っていた郵便事業を承継した郵便局株式会社及び郵便事業株式会社の合併により,平成24年10月1日に成立した株式会社であり,郵便局を設置して,郵便の業務,銀行窓口業務,保険窓口業務等を営んでいる。

イ 第1審原告X1を除く第1審原告らは,いずれも,国又は日本郵政公社に有期任用公務員として任用された後,平成19年10月1日,郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し,同社及び第1審被告との間でその更新を繰り返して,郵便外務事務(配達等の事務)に従事し,又は従事していた時給制契約社員又は月給制契約社員である。このうち,第1審原告X3は,平成24年8月1日に時給制契約社員から月給制契約社員となったが,その余の者は,いずれも時給制契約社員である。また,第1審原告X4は,平成28年3月31日,第1審被告を退職した。第1審原告X1は,平成22年4月,郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し,同社及び第1審被告との間で有期労働契約の締結又は更新を繰り返して,郵便外務事務に従事する時給制契約社員である。

(2)ア 第1審被告に雇用される従業員には,無期労働契約を締結する正社員と有期労働契約を締結する期間雇用社員が存在し,それぞれに適用される就業規則及び給与規程は異なる。- 3 -イ 正社員に適用される就業規則において,正社員の勤務時間,1日について原則8時間,4週間について1週平均40時間とされている。平成26年3月31日以前の人事制度(以下「旧人事制度」という。)において,正社員は,企画職群,一般職群(以下「旧一般職」という。)及び技能職群に区分され,このうち郵便局における郵便の業務を担当していたのは旧一般職であった。そして,平成26年4月1日以後の人事制度(以下「新人事制度」という。)において,正社員は,管理職,総合職,地域基幹職及び一般職(以下「新一般職」という。)の各コースに区分され,このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。

ウ 期間雇用社員に適用される就業規則において,期間雇用社員は,スペシャリスト契約社員,エキスパート契約社員,月給制契約社員,時給制契約社員及びアルバイトに区分されており,それぞれ契約期間の長さや賃金の支払方法が異なる。このうち時給制契約社員は,郵便局等での一般的業務に従事し,時給制で給与が支給されるものとして採用された者であって,契約期間は6か月以内で,契約を更新することができ,正規の勤務時間は,1日について8時間以内,4週間について1週平均40時間以内とされている。また,月給制契約社員は,高い知識・能力を発揮して郵便局等での一般的業務に従事し,月給制で給与が支給されるものとして採用された者であって,契約期間は1年以内で,契約を更新することができ,正規の勤務時間は,1日について6時間以上8時間以内,4週間について1週平均40時間,35時間又は30時間とされている。

(3) 正社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程において,郵便の業務を担当する正社員の給与は,基本給と諸手当で構成されている。諸手当には,扶養手当,住居手当,祝日給,特殊勤務手当,夏期手当,年末手当等がある。このうち扶養手当は,所定の扶養親族のある者に支給されるものであり,その額- 4 -は,扶養親族の種類等に応じて,扶養親族1人につき月額1500円~1万5800円である。

また,祝日給は,正社員が祝日において割り振られた正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられて勤務したとき(祝日代休が指定された場合を除く。)及び祝日を除く1月1日から同月3日までの期間(以下「年始期間」という。)に勤務したときに支給されるものであり,その額は,月の初日から末日までの間における祝日給の支給対象時間(勤務時間)に次の算式により求められる額を乗じて得た額である。なお,正社員に適用される就業規則において,郵便の業務を担当する正社員には,年始期間について特別休暇が与えられるものとされている。((基本給の月額+基本給及び扶養手当の月額に係る調整手当の月額+隔遠地手当の月額)×12/年間所定勤務時間数)×100分の135さらに,特殊勤務手当は,著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で,給与上特別の考慮を必要とし,かつ,その特殊性を基本給で考慮することが適当でないと認められるものに従事する正社員に,その勤務の特殊性に応じて支給するものとされている。特殊勤務手当の一つである年末年始勤務手当は,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであり,その額は,12月29日から同月31日までは1日につき4000円,1月1日から同月3日までは1日につき5000円であるが,実際に勤務した時間が4時間以下の場合は,それぞれその半額である。

このほか,正社員に適用される就業規則では,郵便の業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで,冬期休暇は10月1日から翌年3月31日までの各期間において,それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。

(4)ア 期間雇用社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程において,郵便の業務を担当する時給制契約社員の給与は,基本賃金と諸手当で構成されてい- 5 -る。諸手当には,祝日割増賃金,特殊勤務手当,臨時手当等がある。このうち祝日割増賃金は,時給制契約社員が祝日に勤務することを命ぜられて勤務したときに支給されるものであり,その額は,月の初日から末日までの期間における祝日割増賃金の支給対象時間(勤務時間)に,基本賃金額(時給)の100分の35を乗じて得た額である。

イ 期間雇用社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程において,郵便の業務を担当する月給制契約社員の給与は,基本賃金と諸手当で構成されている。諸手当には,祝日割増賃金,特殊勤務手当,臨時手当等がある。このうち祝日割増賃金は,月給制契約社員が祝日において割り振られた正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられて勤務したときに支給されるものであり,その額は,月の初日から末日までの間における祝日割増賃金の支給対象時間(勤務時間)に次の算式により求められる額を乗じて得た額である。(基本賃金額(月給)×12/年間所定勤務時間数)×100分の135

ウ もっとも,郵便の業務を担当する時給制契約社員及び月給制契約社員(以下,併せて「本件契約社員」という。)に対して,扶養手当及び年末年始勤務手当は支給されず,祝日割増賃金は,正社員に対する祝日給とは異なり,年始期間に勤務したときには支給されない。なお,本件契約社員には年始期間について特別休暇は与えられていない。また,本件契約社員に対して,夏期冬期休暇は与えられていない。

(5)ア 旧一般職及び地域基幹職は,郵便外務事務,郵便内務事務等に幅広く従事すること,昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されている。他方,新一般職は,郵便外務事務,郵便内務事務等の標準的な業務に従事することが予定されており,昇任や昇格は予定されていない。また,正社員の人事評価においては,業務の実績そのものに加え,部下の育成指導状況,組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか,自己研さ- 6 -ん,状況把握,論理的思考,チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

イ これに対し,本件契約社員は,郵便外務事務又は郵便内務事務のうち,特定の業務のみに従事し,上記各事務について幅広く従事することは想定されておらず,昇任や昇格は予定されていない。また,時給制契約社員の人事評価においては,上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか,担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる。月給制契約社員の人事評価においては,業務を適切に遂行していたかなどの観点によって業績が評価されるほか,上司の指示の理解,上司への伝達等の基本的事項や,他の期間雇用社員への助言等の観点により,月給制契約社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。他方,本件契約社員の人事評価においては,正社員とは異なり,組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。

(6) 旧一般職を含む正社員には配転が予定されている。ただし,新一般職は,新居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性があるにとどまる。これに対し,本件契約社員は,職場及び職務内容を限定して採用されており,正社員のような人事異動は行われず,郵便局を移る場合には,個別の同意に基づき, 従前の郵便局における雇用契約を終了させた上で,新たに別の郵便局における勤務に関して雇用契約を締結し直している。

(7) 本件契約社員に対しては,正社員に登用される制度が設けられており,人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について,適性試験や面接等により選考される。

第2 令和元年(受)第794号上告代理人樋口隆明ほかの上告受理申立て理由第2並びに同第795号上告代理人森博行ほかの上告受理申立て理由第2及び第4の2(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について- 7 -1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,郵便事業株式会社及び第1審被告との間で更新された有期労働契約の契約期間を通算した期間(以下「通算雇用期間」という。)が5年を超えていた時期における第1審原告らの年末年始勤務手当及び年始期間の勤務に対する祝日給に係る損害賠償請求の一部を認容すべきものとする一方,第1審原告X1について,通算雇用期間が5年を超えていなかった平成27年4月30日以前の年末年始勤務手当及び同日以前の年始期間の勤務に対する祝日給に係る損害賠償請求を棄却すべきものとした。

(1) 第1審被告における年末年始勤務手当は,年末年始の時期に業務に従事しなければならない正社員の労苦に報いる趣旨で支給されるものであるところ,本件契約社員が原則として短期雇用を前提とすること等からすると,正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,直ちに労働契約法20条にいう不合理と認められるものには当たらない。もっとも,本件契約社員であっても,通算雇用期間が5年を超える場合には,正社員との間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ず,上記相違は,同条にいう不合理と認められるものに当たる。

(2) 第1審被告において,正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で,本件契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は,年始期間につき正社員に対してのみ与えられる特別休暇についての相違を反映したものであるところ,長期雇用を前提とする正社員と,原則として短期雇用を前提とする本件契約社員との間で,休暇等について異なる制度や運用を採用することには一定の合理性があるから,上記特別休暇についての相違が直ちに労働契約法20条にいう不合理と認められるものには当たらず,これを反映した上記祝日給についての相違も,同条にいう不合理と認められるものには当たら- 8 -ない。もっとも,本件契約社員であっても,通算雇用期間が5年を超える場合には,上記相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ず,上記相違は,同条にいう不合理と認められるものに当たる。

2 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理

由は,次のとおりである。

(1) 年末年始勤務手当について

第1審被告における年末年始勤務手当は,郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると,同業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,本件契約社員にも妥当するものである。そうすると,前記第1の2(5)(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。

したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。- 9 -

(2) 年始期間の勤務に対する祝日給について第1審被告における祝日給は,祝日のほか,年始期間の勤務に対しても支給されるものである。年始期間については,郵便の業務を担当する正社員に対して特別休暇が与えられており,これは,多くの労働者にとって年始期間が休日とされているという慣行に沿った休暇を設けるという目的によるものであると解される。これに対し,本件契約社員に対しては,年始期間についての特別休暇は与えられず,年始期間の勤務に対しても,正社員に支給される祝日給に対応する祝日割増賃金は支給されない。そうすると,年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解され,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間の祝日給及びこれに対応する祝日割増賃金に係る上記の労働条件の相違は,上記特別休暇に係る労働条件の相違を反映したものと考えられる。しかしながら,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。そうすると,最繁忙期における労働力の確保の観点から,本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの,年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は,本件契約社員にも妥当するというべきである。そうすると,前記第1の2(5)(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。- 10 -したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で,本件契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

3 以上と異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。第1審原告X1の論旨は以上の趣旨をいうものとして理由がある。他方,以上によれば,第1審被告の論旨は採用することができない。

第3 令和元年(受)第795号上告代理人森博行ほかの上告受理申立て理由第7について1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,第1審原告X2及び第1審原告X3の扶養手当に係る損害賠償請求を棄却した。第1審被告における扶養手当は,長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有するものであるところ,本件契約社員が原則として短期雇用を前提とすること等からすると,正社員に対して扶養手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。第1審被告において,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも,上記目的に照らせば,本件契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な- 11 -勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,前記第1の2(5)(7)のとおり,上記正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものというべきである。したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。3 以上と異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上の趣旨をいうものとして理由がある。第4 令和元年(受)第794号上告代理人樋口隆明ほかの上告受理申立て理由第3の4について1 原審は,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方で,本件契約社員である第1審原告らに対してこれを与えないという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たることを前提に,上記相違によって夏期冬期休暇の日数分の賃金に相当する額の損害が発生したと判断した。所論は,原審のこの判断には民法709条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。

2 第1審被告における夏期冬期休暇は,有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ,本件契約社員である第1審原告らは,夏期冬期休暇を与えられなかったことにより,当該所定の日数につき,本来す- 12 -る必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから,上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第5 結論

以上のとおりであるから,原判決中,第1審原告X1の平成27年4月30日以前における年末年始勤務手当及び同日以前における年始期間の勤務に対する祝日給に係る損害賠償請求に関する部分並びに第1審原告X2及び第1審原告X3の扶養手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,損害額等について更に審理を尽くさせるため,これらの部分につき本件を原審に差し戻すとともに,第1審被告の上告並びに第1審原告X1,第1審原告X2及び第1審原告X3のその余の上告を棄却することとする。なお,その余の上告受理申立て理由は,上告受理の決定において排除された。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 山口 厚 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官木澤克之 裁判官 深山卓也)

④日本郵便 東京事件
(令和
1()777 地位確認等請求事件
令和
21015日最高裁判所第一小法廷判決)

日本郵便 東京事件(令和1()777 地位確認等請求事件 令和21015日最高裁判所第一小法廷判決) 

令和元年(受)第777号,第778号 地位確認等請求事件

令和2年10月15日 第一小法廷判決

 主 文

 1 第1審被告の上告を棄却する。

 2 原判決中,第1審原告らの夏期休暇及び冬期休暇につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 3 第1審原告らのその余の上告を棄却する。

 4 第1項に関する上告費用は第1審被告の負担とし,前項に関する上告費用は第1審原告らの負担とする。

 理 由

第1 事案の概要

1 本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務している時給制契約社員である第1審原告らが,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)と第1審原告らとの間で,年末年始勤務手当,病気休暇,夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。(1)ア 第1審被告は,及び日本郵政公社が行っていた郵便事業を承継した郵便局株式会社及び郵便事業株式会社の合併により,平成24年10月1日に成立した株式会社であり,郵便局を設置して,郵便の業務,銀行窓口業務,保険窓口業務等を営んでいる。- 2 -

イ 第1審原告X1及び第1審原告X2は,いずれも,国又は日本郵政公社に有期任用公務員として任用された後,平成19年10月1日,郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し,同社及び第1審被告との間でその更新を繰り返して勤務する時給制契約社員である。また,第1審原告X3は,平成20年10月14日,郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し,同社及び第1審被告との間でその更新を繰り返して勤務する時給制契約社員である。第1審原告X1及び第1審原告X3は,郵便外務事務(配達等の事務)に従事し,第1審原告X2は,郵便内務事務(窓口業務,区分け作業等の事務)に従事している。

(2)ア 第1審被告に雇用される従業員には,無期労働契約を締結する正社員と有期労働契約を締結する期間雇用社員が存在し,それぞれに適用される就業規則及び給与規程は異なる。

イ 正社員に適用される就業規則において,正社員の勤務時間は,1日について原則8時間,4週間について1週平均40時間とされている。平成26年3月31日以前の人事制度(以下「旧人事制度」という。)において,正社員は,企画職群,一般職群(以下「旧一般職」という。)及び技能職群に区分され,このうち郵便局における郵便の業務を担当していたのは旧一般職であった。そして,平成26年4月1日以後の人事制度(以下「新人事制度」という。)において,正社員は,管理職,総合職,地域基幹職及び一般職(以下「新一般職」という。)の各コースに区分され,このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。

ウ 期間雇用社員に適用される就業規則において,期間雇用社員は,スペシャリスト契約社員,エキスパート契約社員,月給制契約社員,時給制契約社員及びアルバイトに区分されており,それぞれ契約期間の長さや賃金の支払方法が異なる。このうち時給制契約社員は,郵便局等での一般的業務に従事し,時給制で給与が支給されるものとして採用された者であって,契約期間は6か月以内で,契約を更新す- 3 -ることができ,正規の勤務時間は,1日について8時間以内,4週間について1週平均40時間以内とされている。

(3) 正社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程において,郵便の業務を担当する正社員の給与は,基本給と諸手当で構成されている。諸手当には住居手当,祝日給,特殊勤務手当,夏期手当,年末手当等がある。このうち特殊勤務手当は,著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で,給与上特別の考慮を必要とし,かつ,その特殊性を基本給で考慮することが適当でないと認められるものに従事する正社員に,その勤務の特殊性に応じて支給するものとされている。特殊勤務手当の一つである年末年始勤務手当は,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであり,その額は,12月29日から同月31日までは1日につき4000円,1月1日から同月3日までは1日につき5000円であるが,実際に勤務した時間が4時間以下の場合は,それぞれその半額である。また,正社員に適用される就業規則では,郵便の業務を担当する正社員に夏期冬期休暇及び病気休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで,冬期休暇は10月1日から翌年3月31日までの各期間において,それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。病気休暇は,私傷病等により,勤務日又は正規の勤務時間中に勤務しない者に与えられる有給休暇であり,私傷病による病気休暇は少なくとも引き続き90日間まで与えられる。

(4) 期間雇用社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程において,郵便の業務を担当する時給制契約社員の給与は,基本賃金と諸手当で構成されている。諸手当には,祝日割増賃金,特殊勤務手当,臨時手当等がある。もっとも,上記時給制契約社員に対して年末年始勤務手当は支給されない。また,上記時給制契約社員には,夏期冬期休暇が与えられない一方,期間雇用社員に適用される就業規則において,病気休暇が与えられることとされているが,私傷病による病気休暇は1年に10日の範囲で無給の休暇が与えられるにとどまる。- 4 -

(5)ア 旧一般職及び地域基幹職は,郵便外務事務,郵便内務事務等に幅広く従事すること,昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されている。他方,新一般職は,郵便外務事務,郵便内務事務等の標準的な業務に従事することが予定されており,昇任や昇格は予定されていない。また,正社員の人事評価においては,業務の実績そのものに加え,部下の育成指導状況,組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか,自己研さん,状況把握,論理的思考,チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

イ これに対し,時給制契約社員は,郵便外務事務又は郵便内務事務のうち,特定の業務のみに従事し,上記各事務について幅広く従事することは想定されておらず,昇任や昇格は予定されていない。また,時給制契約社員の人事評価においては,上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか,担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる一方,正社員とは異なり,組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。

(6) 旧一般職を含む正社員には配転が予定されている。ただし,新一般職は,転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性があるにとどまる。これに対し,時給制契約社員は,職場及び職務内容を限定して採用されており,正社員のような人事異動は行われず,郵便局を移る場合には,個別の同意に基づき,従前の郵便局における雇用契約を終了させた上で,新たに別の郵便局における勤務に関して雇用契約を締結し直している。

(7) 時給制契約社員に対しては,正社員に登用される制度が設けられており,人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について,適性試験や面接等により選考される。第2 令和元年(受)第777号上告代理人樋口隆明ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について- 5 -

1 原審は,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,同業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違及び私傷病による病気休暇として,上記正社員に対しては有給休暇を与えるものとする一方で,上記時給制契約社員である第1審原告X2に対しては無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違について,いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。所論は,原審のこの判断には同条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。

(1) 年末年始勤務手当について

第1審被告における年末年始勤務手当は,郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると,同業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると,前記第1の2(5)(7)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する- 6 -一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(2) 病気休暇について

ア 有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ,賃金以外の労働条件の相違についても,同様に,個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)。

イ 第1審被告において,私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも,上記目的に照らせば,郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,上記時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,前記第1の2(5)(7)のとおり,上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の- 7 -相違があること等を考慮しても,私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく,これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。

したがって,私傷病による病気休暇として,郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

3 以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,いずれも正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。なお,その余の上告受理申立て理由は,上告受理の決定において排除された。第3 令和元年(受)第778号上告代理人宮里邦雄ほかの上告受理申立て理由

第2の2~6について

1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,郵便の業務を担当する正社員に対しては夏期冬期休暇を与える一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対してはこれを与えないという労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たり,第1審被告が上記相違を設けていたことにつき過失があるとした上で,要旨次のとおり判断し,第1審原告らの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求を棄却した。

第1審原告らが無給の休暇を取得したこと,夏期冬期休暇が与えられていればこれを取得し賃金が支給されたであろうこととの事実の主張立証はない。したがって,第1審原告らに夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえない。

2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。第1審被告における夏期冬期休暇は,有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ,郵便の業務を担当する時給制契約社員- 8 -である第1審原告らは,夏期冬期休暇を与えられなかったことにより,当該所定の日数につき,本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから,上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。当該時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは,上記損害の有無の判断を左右するものではない。したがって,郵便の業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らについて,無給の休暇を取得したなどの事実の主張立証がないとして,夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえないとした原審の判断には,不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

3 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち第1審原告らの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。なお,その余の上告受理申立て理由は,上告受理の決定において排除された。

第4 結論

以上のとおりであるから,原判決中,第1審原告らの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,損害額について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すとともに,第1審被告の上告及び第1審原告らのその余の上告を棄却することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 山口 厚 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官木澤克之 裁判官 深山卓也)

⑤日本郵便 佐賀事件

(平成30()1519 未払時間外手当金等請求控訴,

同附帯控訴事件 令和21015

最高裁判所第一小法廷判決) 

日本郵便 佐賀事件(平成30()1519 未払時間外手当金等請求控訴,同附帯控訴事件 令和21015日最高裁判所第一小法廷判決) 

平成30年(受)第1519号 未払時間外手当金等請求控訴,同附帯控訴事件

令和2年10月15日 第一小法廷判決

 主 文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 理 由

上告代理人樋口隆明ほかの上告受理申立て理由第2及び第3の2について1 本件は,上告人と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務した時給制契約社員である被上告人が,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)と被上告人との間で,夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったと主張して,上告人に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,国及び日本郵政公社が行っていた郵便事業を承継した郵便局株式会社及び郵便事業株式会社の合併により,平成24年10月1日に成立した株式会社であり,郵便局を設置して,郵便の業務,銀行窓口業務,保険窓口業務等を営んでいる。被上告人は,平成22年6月7日,郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し,同社及び上告人との間でその更新を繰り返して,郵便外務事務(配達等の事務)に従事する時給制契約社員であったが,同25年12月14日,上告人を退職した。

(2) 上告人に雇用される従業員には,無期労働契約を締結する正社員と有期労- 2 -働契約を締結する期間雇用社員が存在し,それぞれに適用される就業規則及び給与規程は異なる。正社員に適用される就業規則において,正社員の勤務時間は,1日について原則8時間,4週間について1週平均40時間とされている。正社員の中には,被上告人と同様の業務に従事する者があるが,正社員は,業務上の必要性により配置転換や職種転換を命じられることがあり,多様な業務に従事している。また,正社員のうちの一定程度の割合の者が課長代理,課長等の役職者となるところ,正社員の人事評価においては,評価項目が多岐にわたり,組織全体への貢献を考慮した項目についても評価されるものとされている。期間雇用社員に適用される就業規則において,期間雇用社員は,スペシャリスト契約社員,エキスパート契約社員,月給制契約社員,時給制契約社員及びアルバイトに区分されており,それぞれ契約期間の長さや賃金の支払方法が異なる。このうち時給制契約社員は,郵便局等での一般的業務に従事し,時給制で給与が支給されるものとして採用された者であって,契約期間は6か月以内で,契約を更新することができ,正規の勤務時間は,1日について8時間以内,4週間について1週平均40時間以内とされている。そして,時給制契約社員は,担当業務に継続して従事し,郵便局を異にする人事異動は行われず,昇任や昇格も予定されていない。また,時給制契約社員の人事評価においては,担当業務についての評価がされるのみである。

(3) 正社員に適用される就業規則では,郵便の業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで,冬期休暇は10月1日から翌年3月31日までの各期間において,それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。これに対し,郵便の業務を担当する時給制契約社員には夏期冬期休暇が与えられない。

3 原審は,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方- 3 -で,同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを与えないという労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たり,上記相違によって夏期冬期休暇の日数分の賃金に相当する額の損害が発生したと判断した。所論は,原審のこの判断には法令の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。

(1) 有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁)ところ,賃金以外の労働条件の相違についても,同様に,個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。上告人において,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは,年次有給休暇や病気休暇等とは別に,労働から離れる機会を与えることにより,心身の回復を図るという目的によるものであると解され,夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして,郵便の業務を担当する時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされるなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって,夏期冬期休暇を与える趣旨は,上記時給制契約社員にも妥当するというべきである。そうすると,前記2(2)のとおり,郵便の業務を担当する正社員と同業務を担当する時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方で,郵便の業務を担当する時給制契約社員に対して夏期冬期休暇を与えないという- 4 -労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(2) また,上告人における夏期冬期休暇は,有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ,郵便の業務を担当する時給制契約社員である被上告人は,夏期冬期休暇を与えられなかったことにより,当該所定の日数につき,本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから,上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。

5 以上と同旨の原審の判断は,いずれも正当として是認することができる。論旨は採用することができない。また,その余の上告受理申立て理由は,上告受理の決定において排除された。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山 口 厚 裁判官 池 上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官木澤克之 裁判官 深山卓也)

⑥ハマキョウレックス事件
平成30年6月1日 最高裁第二小法廷判決

ハマキョウレックス事件 

平成28年(受)第2099号,第2100号 未払賃金等支払請求事件

平成30年6月1日 最高裁第二小法廷判決

 

 主 文

 1 本件上告を棄却する。

 2 原判決中,被上告人の平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄する。

 3 前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 4 被上告人のその余の附帯上告を棄却する。

 5 上告費用は上告人の負担とし,前項の部分に関する附帯上告

費用は被上告人の負担とする。

 理 由

第1 事案の概要

1 本件は,期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して上告人において勤務している被上告人が,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を上告人と締結している労働者(以下「正社員」という。)と被上告人との間で,無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当,通勤手当,家族手当,賞与,定期昇給及び退職金(以下,これらを併せて「本件賃金等」という。)に相違があることは労働契約法20条(労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)2条による改正後のもの。以下同じ。)に違反しているなどと主張して,上告人に対し,(1)労働契約に基づき,被上告人が上告人に対し,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(以下,この請求を「本件確認請求」という。)とともに,(2)①主位的に,労働契約に基づき,平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び通勤手当(以下「本件諸手当」という。)と,同期間に被上告人に支給され- 2 -た本件諸手当との差額の支払を求め(以下,この請求を「本件差額賃金請求」という。),②予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償を求める(以下,この請求を「本件損害賠償請求」という。)などの請求をする事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,平成25年3月31日現在の従業員数は4597人である。

(2) 被上告人は,平成20年10月6日頃,上告人との間で以下の内容の有期労働契約を締結し,トラック運転手として配送業務に従事している。上記労働契約は,その後順次更新されており,その間に被上告人の時給は1150円から1160円に増額されている(以下,更新の前後を問わず,上告人と被上告人との間の労働契約を「本件労働契約」という。)。期 間 平成20年10月6日から同21年3月31日まで(ただし,更新する場合があり得る。)勤務場所 彦根支店業務内容 配車ドライバー賃 金 時給 1150円,通勤手当 月額3000円昇給賞与 原則として昇給及び賞与の支給はない。ただし,会社の業績及び勤務成績を考慮して,昇給し又は賞与を支給することがある。

(3) 正社員に適用される就業規則(以下「本件正社員就業規則」という。)は,従業員が5年以上勤務した後に退職するときは退職金を支給する旨を定めている。また,正社員に適用され,就業規則の性質を有する給与規程(以下「本件正社員給与規程」という。)は,基本給は年齢給,勤続給及び職能給で構成すること,乗務員が1か月間無事故で勤務したときは無事故手当として1万円を支給すること,特殊業務に携わる従業員に対して月額1万円から2万円までの範囲内で作業手当を支給すること,従業員の給食の補助として月額3500円の給食手当を支給すること,21歳以下の従業員に対しては月額5000円,22歳以上の従業員に対しては月額2万円の住宅手当を支給すること,乗務員が全営業日に出勤したときは皆勤手当として月額1万円を支給すること,常時一定の交通機関を利用し又は自動車等を使用して通勤する従業員に対し,交通手段及び通勤距離に応じて所定の通勤手当を支給すること,扶養家族を有する従業員に対して家族手当を支給すること,会社の業績に応じて賞与を支給すること等を定めている。なお,被上告人が勤務している彦根支店においては,正社員に対して月額1万円の作業手当が一律に支給されている。また,本件正社員給与規程によれば,被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対して支給される通勤手当は月額5000円である。

(4) 上告人と有期労働契約を締結している労働者(以下「契約社員」という。)等に適用される「嘱託,臨時従業員およびパートタイマーの就業規則」(以下「本件契約社員就業規則」という。)は,基本給は時間給として職務内容等により個人ごとに定めること,交通機関を利用して通勤する者に対して所定の限度額の範囲内でその実費を支給すること,原則として昇給しないが会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあること,賞与及び退職金は原則として支給しないこと等を定めている。本件契約社員就業規則には,無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当に関する定めはない。なお,平成25年12月までは被上告人に対して月額3000円の通勤手当が支給されていたが,同26年1月以降は,契約社員に対しても正社員と同じ基準により通勤手当が支給されるようになったため,両者の間で通勤手当の支給額に相違はなくなった。

(5) 上記のとおり,契約社員である被上告人については,正社員と比較すると,無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当の支給がなく,賞与及び退職金の支給並びに定期昇給も原則としてないとの相違があり,また,平成25年12月以前においては,交通手段及び通勤距離が同じ正社員と比較して通勤手当の支給額が2000円少ないとの相違もあった。

(6) 上告人の彦根支店におけるトラック運転手の業務の内容には,契約社員と正社員との間に相違はなく,当該業務に伴う責任の程度に相違があったとの事情もうかがわれない。本件正社員就業規則には,上告人は業務上必要がある場合は従業員の就業場所の変更を命ずることができる旨の定めがあり,正社員については出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるが,本件契約社員就業規則には配転又は出向に関する定めはなく,契約社員については就業場所の変更や出向は予定されていない。また,正社員については,公正に評価された職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて,従業員の適正な処遇と配置を行うとともに,教育訓練の実施による能力の開発と人材の育成,活用に資することを目的として,等級役職制度が設けられているが,契約社員についてはこのような制度は設けられていない。第2 附帯上告代理人中島光孝ほかの附帯上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について1 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件確認請求及び本件差額賃金請求の全部並びに本件損害賠償請求のうち住宅手当及び皆勤手当に係る部分をいずれも棄却すべきものとした。

(1) 契約社員である被上告人と正社員との間で本件賃金等に相違があることが労働契約法20条に違反するとしても,被上告人の労働条件が正社員と同一になるものではないから,本件確認請求及び本件差額賃金請求は,いずれも理由がない。

(2) 被上告人と正社員との間の住宅手当及び皆勤手当に係る相違は不合理と認められるものには当たらないから,当該相違があることは労働契約法20条に違反しない。

2 しかしながら,原審の上記1(1)の判断及び同(2)のうち住宅手当に係る相違に関する判断はいずれも是認することができるが,同(2)のうち皆勤手当に係る相違に関する判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者については,無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。そして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

(2) 本件確認請求及び本件差額賃金請求について

ア 本件確認請求及び本件差額賃金請求は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるという解釈を前提とするものである。

イ 労働契約法20条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや,その趣旨が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば,同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり,有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される。もっとも,同条は,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり,文言上も,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。また,上告人においては,正社員に適用される就業規則である本件正社員就業規則及び本件正社員給与規程と,契約社員に適用される就業規則である本件契約社員就業規則とが,別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,本件正社員就業規則又は本件正社員給与規程の定めが契約社員である被上告人に適用されることとなると解することは,就業規則の合理的な解釈としても困難である。

ウ 以上によれば,仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反するとしても,被上告人の本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないから,被上告人が,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める本件確認請求は理由がなく,また,同一の権利を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求も理由がない。

(3) 本件損害賠償請求について

ア 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提としているから,両者の労働条件が相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方,期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。これを本件についてみると,本件諸手当に係る労働条件の相違は,契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。

イ 次に,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が,職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないとしているところ,所論は,同条にいう「不合理と認められるもの」とは合理的でないものと同義であると解すべき旨をいう。しかしながら,同条が「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることに照らせば,同条は飽くまでも労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理に沿うものといえる。また,同条は,職務の内容等が異なる場合であっても,その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。したがって,同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。そして,両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。

ウ 上記イで述べたところを踏まえて,本件諸手当のうち住宅手当及び皆勤手当に係る相違が職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する。

() 本件では,契約社員である被上告人の労働条件と,被上告人と同じく上告人の彦根支店においてトラック運転手(乗務員)として勤務している正社員の労働条件との相違が労働契約法20条に違反するか否かが争われているところ,前記第1の2(6)の事実関係等に照らせば,両者の職務の内容に違いはないが,職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては,正社員は,出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか,等級役職制度が設けられており,職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて,将来,上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し,契約社員は,就業場所の変更や出向は予定されておらず,将来,そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるということができる。

() 上告人においては,正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することとされている。この住宅手当は,従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ,契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し,正社員については,転居を伴う配転が予定されているため,契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。したがって,正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

() 上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の皆勤手当を支給することとされている。この皆勤手当は,上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保することの必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。そして,本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば,契約社員については,上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているが,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(4) 以上によれば,本件確認請求及び本件差額賃金請求の全部並びに本件損害賠償請求のうち住宅手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断は,いずれも正当として是認することができる。これらの点に関する論旨は採用することができない。他方,本件損害賠償請求のうち,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る部分を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。

なお,その余の請求に関する附帯上告については,附帯上告受理申立て理由が附帯上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

第3 上告代理人上野勝ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

1 原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,契約社員と正社員の無事故手当,作業手当,給食手当及び通勤手当(以下「本件無事故手当等」という。)に係る相違は,期間の定めがあることにより生じた相違であり,かつ,不合理と認められるものに当たるから,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月1日以降に上告人がこのような相違を設けていることは不法行為に当たるとして,本件損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。

(1) 契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件が,労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違していると解されることは,前記第2の2(3)アで述べたとおりである。したがって,両者の間で本件諸手当のうち本件無事故手当等に相違があることが同条に違反するか否かは,当該相違が同条にいう不合理と認められるものに当たるか否かによることとなる。

(2)ア 上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の無事故手当を支給することとされている。この無事故手当は,優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,安全運転及び事故防止の必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるものではない。加えて,無事故手当に相違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の無事故手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

イ 本件正社員給与規程は,特殊作業に携わる正社員に対して月額1万円から2万円までの範囲内で作業手当を支給する旨を定めているが,当該作業手当の支給対象となる特殊作業の内容について具体的に定めていないから,これについては各事業所の判断に委ねる趣旨であると解される。そして,被上告人が勤務する彦根支店では,正社員に対して作業手当として一律に月額1万円が支給されている。上記の作業手当は,特定の作業を行った対価として支給されるものであり,作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であると解される。しかるに,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない。また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることによって,行った作業に対する金銭的評価が異なることになるものではない。加えて,作業手当に相違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の作業手当を一律に支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

ウ 上告人においては,正社員に対してのみ,所定の給食手当を支給することとされている。この給食手当は,従業員の食事に係る補助として支給されるものであるから,勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものである。しかるに,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない上,勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかがわれない。また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,勤務時間中に食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない。加えて,給食手当に相違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の給食手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

エ 上告人においては,平成25年12月以前は,契約社員である被上告人に対して月額3000円の通勤手当が支給されていたが,被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対しては月額5000円の通勤手当を支給することとされていた。この通勤手当は,通勤に要する交通費を補塡する趣旨で支給されるものであるところ,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また,職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて,通勤手当に差違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。したがって,正社員と契約社員である被上告人との間で上記の通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(3) 上記(1)及び(2)で検討したところによれば,本件無事故手当等に相違があることは,いずれも労働契約法20条に違反すると解される。なお,所論は,同条は私法上の効力のない訓示規定であるから不法行為は成立しない旨をいうが,同条が私法上の効力を有する規定であると解すべきであることは,前記第2の2(2)イで述べたとおりである。

(4) 以上によれば,労働契約法20条が適用されることとなる平成25年4月1日以降において,上告人が本件無事故手当等に相違を設けていたことが不法行為に当たるとして,同日以降の本件無事故手当等に係る差額相当額の支払を求める限度で本件損害賠償請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第4 結論

以上のとおりであるから,原判決中,被上告人の平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,被上告人が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等について更に審理を尽くさせるため同部分につき本件を原審に差し戻すとともに,上告人の上告及び被上告人のその余の附帯上告を棄却することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 菅野博之 裁判官三浦 守)

⑦長澤運輸事件
(平成30年6月1日 最高裁第二小法廷)

長澤運輸事件(平成30年6月1日 最高裁第二小法廷) 

平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件

平成30年6月1日 第二小法廷判決 

 主 文

 1 原判決中,上告人らの精勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄する。

 2 被上告人は,上告人X1に対し,9万円及び第1審判決別紙2の「精勤手当」欄記載の各金員に対する各「支払日」欄記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 被上告人は,上告人X2に対し,5万円及び第1審判決別紙3の「精勤手当」欄記載の各金員に対する各「支払日」欄記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 4 被上告人は,上告人X3に対し,6万円及び第1審判決別紙4の「精勤手当」欄記載の各金員に対する各「支払日」欄記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 5 原判決中,上告人らの超勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,同部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 6 上告人らのその余の上告を棄却する。

 7 第1項から第4項までに関する訴訟の総費用は被上告人の負担とし,前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。

 理 由

上告代理人宮里邦雄,同只野靖,同花垣存彦の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について1 本件は,被上告人を定年退職した後に,期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を被上告人と締結して就労している上告人らが,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を被上告人と締結している従業員との間に,労働契約法20条に違反する労働条件の相違があると主張して,被上告人に対し,主位的に,上記従業員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づき,上記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的に,不法行為に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア 被上告人は,セメント,液化ガス,食品等の輸送事業を営む株式会社であり,平成27年9月1日現在の従業員数は66人である。

イ 上告人らは,いずれも被上告人と無期労働契約を締結し,バラセメントタンク車(以下「バラ車」という。)の乗務員として勤務していたが,被上告人を定年退職した後,被上告人と有期労働契約を締結し,それ以降もバラ車の乗務員として勤務している。

(2)ア 被上告人は,就業規則(甲1号証,乙1号証。以下「従業員規則」という。)に基づく賃金規定等において,被上告人と無期労働契約を締結しているバラ車等の乗務員(以下「正社員」という。)の賃金について,以下のとおり定めている。

() 基本給は,原則として月給とし,在籍給及び年齢給で構成する。 在籍給 在籍1年目を8万9100円とし,在籍1年につき800円を加算(ただし,在籍41年目の12万1100円を上限とする。) 年齢給 20歳を0円とし,1歳につき200円を加算(ただし,50歳

の6000円を上限とする。)

(イ) 乗務員に対し,その職種(乗務するバラ車の種類をいう。以下同じ。)に応じた以下の係数を当該乗務員の月稼働額に乗じた額を,能率給として支給する。

 10tバラ車 4.60%

 12tバラ車 3.70%

 15tバラ車 3.10%

 バラ車トレーラー 3.15%

() 職種により,職務給を支払う。その月額は,以下のとおりとする。

 10tバラ車 7万6952円

 12tバラ車 8万0552円

 15tバラ車 8万2952円

 バラ車トレーラー 8万2900円

() 従業員規則所定の休日を除いて全ての日に出勤した者に精勤手当を支払う。その額は月額5000円とする。

() 1か月間無事故であった乗務員に対して無事故手当を支払う。その額は月額5000円とする。

() 従業員に対して住宅手当を支払う。その額は月額1万円とする。

() 従業員に対して家族手当を支払う。その月額は,配偶者について5000円,子1人について5000円(2人まで)とする。

() 役付者(班長又は組長をいう。以下同じ。)に対して役付手当を支払う。その月額は,班長が3000円,組長が1500円とする。

() 従業員に対し,時間外労働等を命じた場合,超勤手当を支給する。

() 従業員に対して通勤手当を支給する。その月額は,公共交通機関の1か月定期代相当額とし,4万円を限度とする。

() 従業員の賞与については,別に定めるところによる。

() 3年以上勤務して退職した乗務員には,退職金を支給する。

イ 従業員規則は,従業員の定年を満60歳とする旨を定めている。また,従業員規則は,「嘱託者」には,従業員規則の一部を適用しないことがある旨を定めている。

ウ 被上告人は,全日本建設運輸連帯労働組合関東支部(以下「本件組合」という。)との間において,平成16年9月17日,年間賞与を基本給の5か月分とする内容の労使協定を締結した。なお,本件組合には,被上告人の従業員で構成された長澤運輸分会がある。

(3) 被上告人は,被上告人を定年退職した後に有期労働契約を締結して被上告人に勤務する従業員(以下「嘱託社員」という。)に適用される就業規則として,嘱託社員就業規則(以下「嘱託社員規則」という。)を定めている。嘱託社員規則は,嘱託社員の給与は原則として嘱託社員労働契約の定めるところによること,嘱託社員には賞与その他の臨時的給与及び退職金を支給しないこと等を定めている。

(4) 被上告人は,平成22年4月から,嘱託社員のうち,定年退職前から引き続きバラ車等の乗務員として勤務する者(以下「嘱託乗務員」という。)の採用基準,賃金等について,定年後再雇用者採用条件を策定しており,同26年4月1日付けで改定された後の定年後再雇用者採用条件(以下「本件再雇用者採用条件」という。)の内容は,以下のアからエまでのとおりである。これによれば,上告人らを含む嘱託乗務員の賃金(年収)は,定年退職前の79%程度となることが想定されるものであった(なお,上告人らが定年退職前1年間に嘱託乗務員であったと仮定して賃金を計算した場合,その金額は,実際に支払を受けた賃金の約76%から約80%となる。)。

ア 採用対象者

60歳定年に達した正社員で,再雇用を希望する者

イ 契約期間

1年以内の期間を定めて再雇用する。

ウ 賃金

① 基本賃金 月額12万5000円

② 歩合給 12tバラ車 月稼働額×12%

 15tバラ車 月稼働額×10%

 バラ車トレーラー 月稼働額×7%

③ 無事故手当 月額5000円

④ 調整給 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間において月額2万円を支給する。

⑤ 通勤手当 公共交通機関の1か月分の定期代(ただし,4万円を上限とする。)

⑥ 時間外手当 時間外勤務等について,労働基準法所定の割増賃金を支給する。

⑦ 賞与,退職金 支給しない。

エ 契約の更新

更新の最終期限は,満65歳に達した後の9月末日又は3月末日のいずれか早い日とする。

(5) 嘱託乗務員の労働条件に関する団体交渉の経緯等は,以下のとおりである。

ア 被上告人は,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という。)により65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられることを受け,本件組合との間で協議を行い,平成17年1月,定年退職者を再雇用する継続雇用制度を導入する旨の労使協定を締結した。

イ 被上告人が策定した当初の定年後再雇用者採用条件においては,嘱託乗務員の基本賃金は月額10万円,歩合給は「バラ車(13t,15t)稼働額×10%」,無事故手当は月額1万円とされ,調整給を支給する旨の定めはなかった。被上告人は,平成24年3月以降,本件組合との間で団体交渉を行い,定年後再雇用者採用条件について,順次,①基本賃金を月額12万円とすること,②無事故手当を月額5000円とし,基本賃金を月額12万5000円とすること,③厚生年金保険法附則8条の規定による老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられたことに伴い,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,月額1万円の調整給を支給すること,④上記③の調整給を月額2万円に増額することを内容とする改定を行い,その結果,本件再雇用者採用条件が定年後再雇用者採用条件の内容となった。本件組合は,上記団体交渉において,被上告人に対し,定年退職者を定年退職前と同額の賃金で再雇用すること等を要求したが,被上告人は,これに応じなかった。

(6)ア 上告人X1は,昭和55年6月に被上告人と無期労働契約を締結し,平成26年3月31日に定年退職した。また,上告人X2は昭和61年10月に,上告人X3は平成5年1月に,それぞれ被上告人と無期労働契約を締結し,いずれも同26年9月30日に定年退職した。定年退職時における上告人らの基本給の額は,上告人X1が12万1500円,上告人X2が11万7500円,上告人X3が11万2700円であった。なお,上告人らは,定年退職する際,いずれも退職金の支給を受けた。

イ 上告人らは,定年退職した日において,それぞれ,被上告人と有期労働契約を締結した。上告人らは,当初の雇用期間(上告人X1につき1年間,上告人X2及び同X3につき6か月間)の満了後,雇用期間を1年間として当該有期労働契約を更新している(以下,更新の前後を問わず,上告人らと被上告人との間の有期労働契約を「本件各有期労働契約」という。)。本件各有期労働契約は,いずれも本件再雇用者採用条件と同じ内容であり,上告人らは,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,いずれも調整給の支給を受けた。

(7)ア 嘱託乗務員である上告人らの業務の内容は,バラ車に乗務して指定された配達先にバラセメントを配送するというものであり,正社員との間において,業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはない。また,本件各有期労働契約においては,正社員と同様に,被上告人の業務の都合により勤務場所及び担当業務を変更することがある旨が定められている。

イ 上告人らは,本件各有期労働契約の締結後,平成27年10月までの間に,第1審判決別紙5記載のとおり,被上告人から賃金の支払を受けた(以下,同別紙記載の賃金を「本件賃金」という。)。なお,被上告人においては,毎月1日から月末までの期間に対する賃金を翌月10日に支払うこととされている。本件賃金の支給対象期間において,上告人X1及び同X3は欠勤しておらず,上告人X2は平成26年12月及び同27年1月を除き欠勤していない。

(8) 上告人らは,本件訴訟において,嘱託乗務員に対し,能率給及び職務給が支給されず,歩合給が支給されること,②嘱託乗務員に対し,精勤手当,住宅手当,家族手当及び役付手当が支給されないこと,③嘱託乗務員の時間外手当が正社員の超勤手当よりも低く計算されること,④嘱託乗務員に対して賞与が支給されないことが,嘱託乗務員と正社員との不合理な労働条件の相違である旨主張している(以下,上記①から④までにおいて比較の対象とされている各賃金項目を併せて「本件各賃金項目」という。)。そして,上告人らは,本件賃金の支給対象期間において,嘱託社員の賃金に関する労働条件が正社員と同じであるとした場合,第1審判決別紙6記載のとおりの賃金(以下「本件試算賃金」という。)が支払われるべきであるとしている。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,上告人らの請求をいずれも棄却した。事業主は,高年齢者雇用安定法により,60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており,定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると,定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない。また,定年退職後の継続雇用において職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており,被上告人が嘱託乗務員について正社員との賃金の差額を縮める努力をしたこと等からすれば,上告人らの賃金が定年退職前より2割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず,嘱託乗務員と正社員との賃金に関する労働条件の相違が労働契約法20条に違反するということはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないとした部分は結論において是認することができるが,上記各手当に係る労働条件の相違が同条に違反しないとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)の労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認られるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される(最高裁平成28年(受)第2099号,第2100号同30年6月1日第二小法廷判決参照)。

(2) 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)。被上告人の嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違は,嘱託乗務員の賃金に関する労働条件が,正社員に適用される賃金規定等ではなく,嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定められることにより生じているものであるから,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,嘱託乗務員と正社員の本件各賃金項目に係る労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。

(3)ア 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)。

イ 被上告人における嘱託乗務員及び正社員は,その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく,業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから,両者は,職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(以下,併せて「職務内容及び変更範囲」という。)において相違はないということができる。しかしながら,労働者の賃金に関する労働条件は,労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく,使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として,「その他の事情」を挙げているところ,その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。したがって,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は,労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。

ウ 被上告人における嘱託乗務員は,被上告人を定年退職した後に,有期労働契約により再雇用された者である。定年制は,使用者が,その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら,人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに,賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ,定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は,当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し,使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。

(4) 本件においては,被上告人における嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違が問題となるところ,労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合,個々の賃金項目に係る賃金は,通常,賃金項目ごとに,その趣旨を異にするものであるということができる。そして,有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。なお,ある賃金項目の有無及び内容が,他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ,そのような事情も,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される。

(5) 上記(1)から(4)までで述べたところを踏まえて,被上告人における嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する。

ア 嘱託乗務員に対して能率給及び職務給が支給されないこと等について被上告人は,正社員に対し,基本給,能率給及び職務給を支給しているが,嘱託乗務員に対しては,基本賃金及び歩合給を支給し,能率給及び職務給を支給していない。基本給及び基本賃金は,労務の成果である乗務員の稼働額にかかわらず,従業員に対して固定的に支給される賃金であるところ,上告人らの基本賃金の額は,いずれも定年退職時における基本給の額を上回っている。また,能率給及び歩合給は,労務の成果に対する賃金であるところ,その額は,いずれも職種に応じた係数を乗務員の月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ,嘱託乗務員の歩合給に係る係数は,正社員の能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。そして,被上告人は,本件組合との団体交渉を経て,嘱託乗務員の基本賃金を増額し,歩合給に係る係数の一部を嘱託乗務員に有利に変更している。このような賃金体系の定め方に鑑みれば,被上告人は,嘱託乗務員について,正社員と異なる賃金体系を採用するに当たり,職種に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに,基本賃金の額を定年退職時の基本給の水準以上とすることによって収入の安定に配慮するとともに,歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定することによって労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫しているということができる。そうである以上,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給が支給されないこと等による労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断に当たっては,嘱託乗務員の基本賃金及び歩合給が,正社員の基本給,能率給及び職務給に対応するものであることを考慮する必要があるというべきである。そして,第1審判決別紙5及び6に基づいて,本件賃金につき基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに本件試算賃金につき基本給,能率給及び職務給を合計した金額を上告人ごとに計算すると,前者の金額は後者の金額より少ないが,その差は上告人X1につき約10%,上告人X2につき約12%,上告人X3につき約2%にとどまっている。さらに,嘱託乗務員は定年退職後に再雇用された者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,被上告人は,本件組合との団体交渉を経て,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,嘱託乗務員に対して2万円の調整給を支給することとしている。これらの事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

イ 嘱託乗務員に対して精勤手当が支給されないことについて被上告人における精勤手当は,その支給要件及び内容に照らせば,従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができる。そして,被上告人の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上,両者の間で,その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである。なお,嘱託乗務員の歩合給に係る係数が正社員の能率給に係る係数よりも有利に設定されていることには,被上告人が嘱託乗務員に対して労務の成果である稼働額を増やすことを奨励する趣旨が含まれているとみることもできるが,精勤手当は,従業員の皆勤という事実に基づいて支給されるものであるから,歩合給及び能率給に係る係数が異なることをもって,嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことが不合理でないということはできない。したがって,正社員に対して精勤手当を支給する一方で,嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

ウ 嘱託乗務員に対して住宅手当及び家族手当が支給されないことについて被上告人における住宅手当及び家族手当は,その支給要件及び内容に照らせば,前者は従業員の住宅費の負担に対する補助として,後者は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として,それぞれ支給されるものであるということができる。上記各手当は,いずれも労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく,従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるから,使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては,上記の趣旨に照らして,労働者の生活に関する諸事情を考慮することになるものと解される。被上告人における正社員には,嘱託乗務員と異なり,幅広い世代の労働者が存在し得るところ,そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方において,嘱託乗務員は,正社員として勤続した後に定年退職した者であり,老齢厚生年金の支給を受けることが予定され,その報酬比例部分の支給が開始されるまでは被上告人から調整給を支給されることとなっているものである。これらの事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して住宅手当及び家族手当を支給する一方で,嘱託乗務員に対してこれらを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。エ 嘱託乗務員に対して役付手当が支給されないことについて上告人らは,嘱託乗務員に対して役付手当が支給されないことが不合理である理由として,役付手当が年功給,勤続給的性格のものである旨主張しているところ,被上告人における役付手当は,その支給要件及び内容に照らせば,正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものであるということができ,上告人らの主張するような性格のものということはできない。したがって,正社員に対して役付手当を支給する一方で,嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない。

オ 嘱託乗務員の時間外手当と正社員の超勤手当の相違について正社員の超勤手当及び嘱託乗務員の時間外手当は,いずれも従業員の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるものであるといえる。被上告人は,正社員と嘱託乗務員の賃金体系を区別して定めているところ,割増賃金の算定に当たり,割増率その他の計算方法を両者で区別していることはうかがわれない。しかしながら,前記イで述べたとおり,嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは,不合理であると評価することができるものに当たり,正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず,嘱託務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

カ 嘱託乗務員に対して賞与が支給されないことについて賞与は,月例賃金とは別に支給される一時金であり,労務の対価の後払い,功労報償,生活費の補助,労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである。嘱託乗務員は,定年退職後に再雇用された者であり,定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか,老齢厚生年金の支給を受けることが予定され,その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間は被上告人から調整給の支給を受けることも予定されている。また,本件再雇用者採用条件によれば,嘱託乗務員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度となることが想定されるものであり,嘱託乗務員の賃金体系は,前記アで述べたとおり,嘱託乗務員の収入の安定に配慮しながら,労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている。これらの事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であり,正社員に対する賞与が基本給の5か月分とされているとの事情を踏まえても,正社員に対して賞与を支給する一方で,嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

(6)ア 以上のとおり,嘱託乗務員と正社員との精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違については,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるということはできないから,上記各手当を除く本件各賃金項目に係る上告人らの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない。

イ これに対し,嘱託乗務員と正社員との精勤手当及び超勤手当(時間外手当)に係る労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。しかしながら,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)。また,被上告人は,嘱託乗務員について,従業員規則とは別に嘱託社員規則を定め,嘱託乗務員の賃金に関する労働条件を,従業員規則に基づく賃金規定等ではなく,嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定めることとしている。そして,嘱託社員労働契約の内容となる本件再雇用者採用条件は,精勤手当について何ら定めておらず,嘱託乗務員に対する精勤手当の支給を予定していない。このような就業規則等の定めにも鑑みれば,嘱託乗務員である上告人らが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約上の地位にあるものと解することは,就業規則の合理的な解釈としても困難である。さらに,嘱託乗務員の時間外手当の算定に当たり,嘱託乗務員への支給が予定されていない精勤手当を割増賃金の計算の基礎となる賃金に含めるべきであると解することもできない。したがって,精勤手当及び超勤手当(時間外手当)に係る上告人らの主位的請求は理由がない。

() そこで,精勤手当に係る上告人らの予備的請求について検討すると,前記(5)イで述べたとおり,上告人らに精勤手当を支給しないことは労働契約法20条に違反するものである。また,被上告人が,本件組合との団体交渉において,嘱託乗務員の労働条件の改善を求められていたという経緯に鑑みても,被上告人が,嘱託乗務員に精勤手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについては,過失があったというべきである。そして,上告人らは,第1審判決別紙2から4までの各「精勤手当」欄記載のとおり,正社員であれば支給を受けることができた精勤手当の額(上告人X1につき合計9万円,上告人X2につき合計5万円,上告人X3につき合計6万円)に相当する損害を被ったということができる。そうすると,精勤手当に係る上告人らの予備的請求は理由があり,被上告人は,上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記金額の損害賠償金及びこれに対する精勤手当の各支払期日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

() また,時間外手当に係る上告人らの予備的請求について検討すると,前記(5)オで述べたとおり,上告人らに対し,精勤手当を計算の基礎に含めて計算した時間外手当を支給しないことは,労働契約法20条に違反するものであり,被上告人がそのような違法な取扱いをしたことについては,過失があったというべきである。したがって,被上告人は,上記取扱いにより上告人らが被った損害について,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

5 以上によれば,上告人らの主位的請求並びに精勤手当及び超勤手当(時間外手当)を除く本件各賃金項目に係る予備的請求をいずれも棄却した原審の判断は,結論において是認することができ,この点に関する論旨は採用することができない。他方,上告人らの予備的請求を棄却した原審の判断のうち,上記各手当に関する部分は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,破棄を免れず,この点に関する論旨は理由がある。そこで,原判決中,上告人らの上記各手当に係る予備的請求に関する部分を破棄し,精勤手当に係る上告人らの予備的請求については,これを認容することとし,超勤手当(時間外手当)に係る上告人らの予備的請求については,上告人らの時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれなかったことによる損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため,これを原審に差し戻すこととし,その余の上告は理由がないから,これを棄却することとする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 菅野博之 裁判官三浦 守)

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